第3回R-18文学賞 選評―山本文緒氏
本年の6作は、それぞれに個性的でバラエティに富み、基本的な文章力のレベルも高かったと思います。短編とは、何を削いでゆくかが肝心で、6作ともそのあたりのさじ加減が大変巧みでした。ですが、丁寧な作品が揃った反面、破天荒なものがなく、その点が物足りなかったのも事実です。
「ラブタクシー」は角田さんと評価が割れ、議論になった作品です。期間限定で空いている父親の車をラブホ代わりに使わせるアルバイト、という着想は悪くないと思いましたが、私には、文章に持ち味がなく、話の展開もステレオタイプに感じました。コミカルにしようとする作者の努力も残念ながら筆不足で、何より品行方正と言っていい考えを持つ主人公と、そのアルバイトの対比が不自然だった。官能面でいえば、自分の運転する車の後部座席で男女が本番にいそしんでいるわけなのですから、自慰のシーンくらいは書いてほしかった。ですが、それなりにうまくまとまった作品で、ヒロインが恋心を寄せる女性の居眠り中に彼女にキスをし、おそるおそる胸に触れる下りは一途な感情が伝わってきました。

「ねむりひめ」を今回私は一番に推しましたが、この作品も議論をたたかわせることになりました。私は感受性の鋭い、確固たるスタイルを持った筆者の作品だと感じ、大変に引き込まれて読了しました。官能部分の文章にもオリジナリティがあり、展開も巧く、幻想的な件にもリアリティを感じ、十代の女の子の性に対する戸惑いをひしひしと感じました。特別変わった文体ではないのに、文章に不思議な切迫感と緊張感があるように思いました。一歩間違えれば、大好きな男性がいるのに他の男とやりまくる、わけのわからない女の話になったかもしれないが、作者の力量がそうさせなかった。詩的で、わかりづらい話かもしれませんが、読み手に想像と考えさせる余地を与えた作品だと思います。結果的に大賞と読者賞のダブル受賞となったので、今後も是非沢山の作品を書いていってください。

「コロッケ」は他の作品が点を集めたせいか、割を食ってしまった作品かもしれません。ストリッパーと路上生活者との友情という、面白いモチーフを活かしきれませんでした。登場人物全員にこれといって魅力がなく、展開も類型的で、官能部分も艶に欠けました。ユキとテッちゃんがどうやって親しくなったかも謎のままで、物語の説得力にも欠けてしまったように思います。ありきたりな話でも、新鮮に見せる手法はいくらでもあります。そのあたりを考えてみてくだされば、もっと違うものが書けるのではないでしょうか。

「ハイキング」は2番目に推しました。一番面白く読めたのはこの作品です。抜群なユーモアに溢れた文体で、たった一度のセックスをここまで笑わせ、茶化せたのは、ものすごい文才の持ち主だと思います。何より、こんな幸福なセックスシーンを読まされては、不倫であっても二人の仲を応援したくなりました。茶化すことによって、深刻になってしまうのを必死で避けるヒロインの心理も、かわいらしく、切なく読めました。タイトル、改行、物語の着地点も巧く、ある意味で非の打ち所のない作品ですが、大賞に届かなかった理由は、特殊な文体のためこの方の実力がどの程度なのか、本作のみではわからなかったということと、欠点はないが小粒であることは否めないという点。優秀賞を差し上げることになりましたので、他の作品も読んでみたいと大いに期待しています。

「蜜柑の匂いがみちみちて」は残念ながら、私にはあまり印象に残らない作品で、選考会でも点を集めることができませんでした。大家のおばあさんが死んでいるのに、そのおばあさんの蜜柑を食べたり、死体の横で初対面の男とセックスするということを、自然に感じさせる筆力が足りなかった。30代処女という、せっかくのよいモチーフも活かせず、何を読者に伝えたいのか正直よくわからなかった。ただ、カットバックなど文章自体は非常に上手で、田中君の人物造形には魅力がありました。読者投票数は多かったようなので、あと一歩、というところだと思います。

「フルーツ・フル」は達者な作品だと思いました。文章力、構成力はありますし、非常によくまとまっていて、R-18文学賞のお手本のような作品だと感じました。というのは、南国のフルーツや食べ物を官能に結びつけるのは、よくある手。東京で働く幼なじみの二人の片方が帰省する夜、やっと事に至る、というのもよくある展開。全体的に丁寧に書かれていて、どこが悪いというわけではないが、物足りなさが残りました。繰り返しになりますが、よくある話を新鮮に読ませる技術というものが、この作品にもなかったように思います。決して下手ではなく、上手に物語を作ることができる方だと思いますので、諦めずに書き続けてほしいと願います。