第8回R-18文学賞 選評―唯川恵氏

 今回の選考で感じたことのひとつに、この文学賞を応募者の方はどう認識されているのだろう、ということがありました。つい、エロ、官能、性愛、そういうことばかりが前面に出てしまうけれど、読みたいのは、また待っているのは、小説です。性を書くだけでなく、小説を書くという思いを、まず念頭に持っていただければと思いました。

「内洞君」
 読ませるし、文章も達者だし、どこかとぼけた文体も好感が持てた。ただ肝心の物語になると、頷けないものがある。痛いのが怖くてどうしてもセックスできない処女の主人公の気持ちが、わかるようで、わからない。内洞君の存在は悪くないけれど、主人公に気持ちが寄り添わないので、彼の魅力が引き出されない。そして何より、小説に対する心配りが欠けているように思えた。付き合っている彼の名前が途中で変わっているのがいい例で、これは読み直せば気がつくこと。もっと推敲を重ねて欲しい。そうすることで、小説そのものの余分なところ、書き込むところが見えてくるように思う。

「いちごゼリーのたくらみ」
 残念ながら、この作品は小説とは違うものという気がした。もしかしたら、作者は書くことに照れているのかもしれない。できるなら、腰を据えて書いてもらいたいという思いが残った。

「ミクマリ」
 とても面白く読んだ。設定が興味深いし、人物を平面ではなく立体的に捕らえていて、小説全体に奥行きと陰影がある。特に、コスプレする主婦のあんずと、助産婦の母親の描き方は秀逸だ。私はこの作品に丸をつけた。ただ、不満もある。あんずがベビー用品売り場にいたこと、突然夫がシカゴに転勤になったこと、ここら辺りがちょっと説明不足で、結び目の緩さみたいなものを感じてしまった。しかしながら、十分に水準に達していて、きっとプロになっても書ける方だと期待する。最後に、せっかく意味のあるタイトルなのだから、小説の中でうまく触れておくと、もっと印象深くなったように思う。

「成宮失恋治療院」
 この作品も、大変面白く読ませてもらった。マッサージとセックスの対比も利いていた。文章力もあり、治療の描写や勤め先の状況など、巧みに読ませる。終盤近くまで、選者というだけでなく読者としても楽しめた。けれども、最後、成宮が語り始めると、とたんにシラけてしまう。いい人であることを、読者に伝えたかったのだろうが、ここは不要だと思う。書くのであれば、前半にうまくちりばめた方がいい。残念に思う。ぜひ、再度の応募をお待ちしたい。


「七日美女」
 ファンタジー小説のいい読み手ではない私だが、美女がなる木の設定は面白く、思わず引き込まれた。ただ後半部、窈王の元に連れられて行った辺りから、首を傾げることが多くなってしまった。ファンタジーは、世界そのものを作者が作る。そのことはわかっているのだが、不可思議な力が出てくると、どうしてもご都合主義に感じられてしまう。私のようなファンタジーが得意でない読み手もいる。どうか、そういう人間も説得して欲しい。何より、これは長篇向きではなかったかと思う。短篇に見合った題材を選ばれれば、書ける人なのだから、また違う面白さが味わえるに違いないと感じた。

「まごころを君に」
 設定は面白いのに、残念ながら、それが生きていない。その理由のひとつに、物語をはしょりすぎていることがあると思う。春がエアセックス大会に出る動機も、元の彼女のことも、ふたりの間に何があったかも、何もわからないまま先に進んでしまうので、読んでいると、おいてきぼりをくったような気分になる。もう少し丁寧に、話を練り込んでもよかったのではないかと思う。