ガブリエル・ガルシア=マルケス
『百年の孤独』
読み解き支援キット
池澤夏樹 制作
本キットは池澤夏樹氏の著書『ブッキッシュな世界像』(白水社)や『世界文学を読みほどく―スタンダールからピンチョンまで【増補新版】―』(新潮選書)に収録され、『百年の孤独』の文庫化に際して再編集したものです。ゴシック体で示したページ数は新潮文庫版のものです。物語の結末が記されていますのでご注意ください。〔 〕内は池澤氏が便宜的に登場人物に割り当てた識別子または注です。(新潮文庫編集部)
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マコンド〈百年の歴史実話・抄〉―豚のしっぽがやってくるまで―
9 アウレリャノ・ブエンディア〔大佐〕、銃殺隊を前に、氷を見た日を思う。
9 「マコンドも当時は……小さな村だった」〔つまりホセ・アルカディオ・ブエンディアの若かった当時〕まだものに名前がなく、いちいち指さしていた。メルキアデスたちが毎年三月に来る。――文明の利器1「磁石」。
11 甲冑の出土。
11 ジプシー再び来る。文明の利器2「望遠鏡とレンズ」。
12 発明家としてのホセ・アルカディオ・ブエンディア〔最初の者〕……「何時間も部屋にこもって」。「当時はまだ首府への旅行はほとんど不可能な状態」。
13 文明の利器3「天文学」。
15 文明の利器4「錬金術」。メルキアデス、速やかに老いこむ。
17 錬金術の詳細。金貨の喪失とウルスラ〔家刀自〕の嘆き。
19 メルキアデス、若返る。義歯。外の世界には不思議があるというホセ・アルカディオ〔最初の者〕のいらだち。マコンドの孤立。
20 マコンド前史。若き族長としてのホセ・アルカディオ〔最初の者〕。軍鶏の禁止。ウルスラの勤勉。小鳥の過剰。世界の不思議を見たいというホセ・アルカディオ〔最初の者〕の願望。
22 若いころの彼と仲間の旅〔第一の旅〕。二年四カ月にわたる旅。その結果の、帰途の労をはぶくためのマコンド建設〔この時まで彼等は「温和なインディオの集落」(36) にいた〕。東の山脈のむこうにリオアチャがある。
23 文明世界との接触を求めて北へ向かう〔第二の旅〕。数週間。
26 『わしらは……科学の恩恵にもあずからずに、ここで、このまま朽ち果てることになりそうだ』。マコンドを他の地へ移すというホセ・アルカディオ〔最初の者〕の計画。
26 それに反対するウルスラの決意。ふたりの子供、ホセ・アルカデ
ィオ〔性の英雄〕とアウレリャノ〔大佐〕。父の彼等に対する教育。
31 新手のジプシー来る。『メルキアデスは死んだよ』。氷を見る。『こいつは、近来にない大発明だ!』。
35 マコンド前史。十六世紀、ウルスラ〔家刀自〕の曾祖母のやけど〔リオアチャ〕。彼女の悪夢。それから逃れるために夫〔スペイン・アラゴン出身の商人〕は「山あいに位置する温和なインディオの集落」に移り住む。ここに「ドン・ホセ・アルカディオ・ブエンディアという新大陸生まれのタバコ栽培業者」がいた。その子孫であるいとこ同士の結婚。何百年も前から血をまじえてきた両家の間の結婚に対する不安。その先例。豚のしっぽの子供。
37 ホセ・アルカディオ〔最初の者〕とウルスラの結婚。帆布のズボンの処女妻。闘鶏とプルデンシオ・アギラルの殺害。ウルスラとホセ・アルカディオの交合。プルデンシオの幽霊。
41 村を出る。二年近い旅〔第一の旅〕の果てにマコンドを創立する。
43 鏡の壁の家の夢――これが氷を初めて見た時に思いだされる。
44 ホセ・アルカディオ〔性の英雄〕の巨根。「口は悪いが男好きのする商売女」ピラル・テルネラとホセ・アルカディオ〔性の英雄〕の情交。アウレリャノ〔大佐〕から見た兄の情事。
52 アマランタ〔黒い繃󠄁帯〕が一月のある木曜日の午前二時に誕生する。
53 ジプシーたちと空飛ぶ絨毯。ピラルの妊娠。
56 ホセ・アルカディオ〔性の英雄〕、ジプシーの娘と寝る。二日後ジプシーと共に村から消える。
58 ウルスラ、息子を探しにゆく。さまざまの異常事。五カ月後にウルスラが帰る。文明への道を彼女はみつけた。
63 ピラル・テルネラ、ホセ・アルカディオ〔性の英雄〕の男子を生む。ブエンディア家に引き取られ、アルカディオ〔若き暴君〕と呼ばれる。ビシタシオンと弟、アルカディオを育てる。マコンドが繁栄する。ホセ・アルカディオ〔最初の者〕は錬金術を休み、指導者、都市計画者として活躍する。ウルスラ〔家刀自〕の飴細工。
68 レベーカ〔もらわれっ子〕が来る。荷物は衣類、揺り椅子、両親の遺骨の入った信玄袋。鳴る骨。土と石灰を喰う。やがてこれも治療され、「ブエンディアの名にふさわしい人間」になっていった。
72 レベーカの不眠症にビシタシオンが気付く。弟、カタウレの逃亡。幻覚に満ちた覚醒状態。病気は町中に拡がる。「きんぬき鶏」の話。記憶の喪失。すべての物に名札をつける〔辞書的な世界〕。メルキアデスが帰ってくる。文明の利器5 「写真術」。
83 アウレリャノ〔大佐〕、腕のよい金細工師になる。まだ女を知らず。火事を出したために祖母の命令で春をひさぐ娘がくる。アウレリャノの恋〔この娘の名がエレンディラであることをわれわれは別の物語から知っている〕。翌日、娘は去る。
88 レベーカとアマランタ〔黒い繃󠄁帯〕、美しく成長する。家の繁栄。「低地のどこにもない、住みごこちがよく涼しげな家が、ほとんど誰も気づかないうちに出来あがっていった」。
91 町長、ドン・アポリナル・モスコテが来る。ホセ・アルカディオ〔最初の者〕は一度彼を追い返す。モスコテは妻と七人の娘を連れて戻る。『あんたとわしは……かたき同士なんだ』。アウレリャノ〔大佐〕、レメディオス〔乙女妻〕を見初める。
97 新居披露のパーティ。自動ピアノを買う。ピエトロ・クレスピがピアノとともに来る。パーティに呼ばれたのはマコンド建設の旅をともにした者とその子孫のみ。ホセ・アルカディオ〔最初の者〕はピアノを分解してしまう。ピエトロ・クレスピが再び来る。レベーカ〔もらわれっ子〕の恋。アンパロが恋文を運ぶ。
104 アウレリャノ〔大佐〕のレメディオス〔乙女妻〕への恋。彼は金の魚を造っている〔この時メルキアデスは羊皮紙に何か書いている〕。レベーカとアウレリャノは共に錯乱する。アウレリャノ、ピラル・テルネラと寝て、恋のことを話す。
111 アマランタ〔黒い繃󠄁帯〕もピエトロ・クレスピに恋をしていることが明らかになる。アウレリャノ〔大佐〕、レメディオスに求婚。
114 メルキアデス、川で死す。
118 アマランタ、ピエトロ・クレスピに恋を告白。相手にされないのでレベーカとの結婚を邪魔しようと決意する。
124 ピラル・テルネラ、アウレリャノ〔大佐〕の子を孕む。
124 ホセ・アルカディオ〔最初の者〕、プルデンシオの幽霊に会う。ホセ・アルカディオの発狂。栗の木に縛られる。
129 アウレリャノ〔大佐〕とレメディオス〔乙女妻〕の結婚。ニカノル・レイナ神父。それに先立つレメディオスの初潮。レメディオス「強い責任感、つくりものでない愛嬌、落ち着いた自制心」。ピエトロ・クレスピに届いた母危篤の手紙。彼とレベーカ〔もらわれっ子〕の結婚の延期。
132 ニカノル・レイナ神父、マコンドに信仰を植えつける。チョコレートによる浮揚術と教会建設基金の徴募。神父とホセ・アルカディオ〔最初の者〕がラテン語で語りあう。神の銀板写真と神父の信仰の危機。
136 レベーカたちの結婚の延期。アマランタ〔黒い繃󠄁帯〕のあせり、毒殺の夢。アウレリャノ・ホセ〔暗殺〕をレメディオスが育てる。レメディオスの死。一年間の喪と結婚の延期。――永遠の婚約状態。
143 ホセ・アルカディオ〔性の英雄〕の帰還。全身の刺青。性的英雄の証明。冒険譚。レベーカの彼への恋。「耐えがたい苦痛のなかの想像を絶する愉悦」。レベーカとホセ・アルカディオの結婚。墓地の真正面の小さな家。「町じゅうの人間の夢をやぶるよがり声」。
153 選挙。その欺瞞を見たアウレリャノ〔大佐〕の政治への目覚め。自由主義者アリリオ・ノゲーラ医師。彼のアウレリャノ評―― 『あれは行動家としては落第だ、消極的で孤独癖が強すぎる』。戦争の開始。戒厳令。ノゲーラ医師の銃殺。沈黙の恐怖。アウレリャノの蜂起。アウレリャノ・ブエンディア大佐の誕生。
163 革命の要約。アウレリャノ大佐の三十二回の反乱と敗北。十七人の子供。十四回の暗殺と七十三回の伏兵攻撃と一回の銃殺刑を生き延びる。最後には「全土を支配する革命軍総司令官」――これだけでほぼ二十年。
164 その途中、ビクトリオ・メディーナ将軍と合流するために出発する際、マコンドをアルカディオ〔若き暴君〕にまかせる。アルカディオの若き暴君ぶり。ドン・モスコテを処刑せんとしてウルスラ〔家刀自〕に𠮟られる。ウルスラ、町を支配する。
169 アマランタ〔黒い繃󠄁帯〕とピエトロ・クレスピの穏やかな恋と幸福。「華やかな過去をしのばせるのは廃墟の猫だけという古い都があり、子供じみた言葉をしゃべる美しい男女が住んでいる、第二の母国」。ピエトロ・クレスピの商売の繁昌。楽器、オルゴールの類。弟ブルーノ・クレスピ。
172 『死んでもあなたと結婚なんかしないわよ』。ピエトロ・クレスピの自殺。アマランタ自らの手を焼く。黒い繃󠄁帯。
175 アルカディオ〔若き暴君〕の寂しき幼年。ピラル・テルネラへの接近。ピラルは彼にサンタ・ソフィア・デ・ラ・ピエダ〔主婦〕を与える。「いるのかいないのか、わからないような女」。ホセ・アルカディオ〔性の英雄〕とアルカディオ〔若き暴君〕の結託。経済的横暴。家を建てる。
182 グレゴリオ・スティーヴンソン大佐の到着、自由党の敗北。政府軍の攻撃。
187 アルカディオ〔若き暴君〕の処刑。
191 戦闘の終了。アウレリャノ〔大佐〕の逮捕。その刑の執行のためマコンドに来る。ウルスラ〔家刀自〕との再会。リンパ腺。彼の詩。マグニフィコ・ビズバル大佐の死。氷のイメージ。ホセ・アルカディオ〔性の英雄〕による救出。脱出。ビクトリオ・メディーナ将軍を救うためにリオアチャへ行く〔アルカディオが暴君になるのはこの間〕。
206 アウレリャノ〔大佐〕、マコンドへ凱旋。アルカディオ〔すでに処刑〕の三人の子、レメディオス〔小町娘〕とふたごのホセ・アルカディオ・セグンド〔スト指導者〕、アウレリャノ・セグンド〔くじ売り〕をアマランタ〔黒い繃󠄁帯〕が養育している。
207 ホセ・アルカディオ〔性の英雄〕とレベーカ〔もらわれっ子〕、アルカディオ〔若き暴君〕の新築の家に住む。ホセ・アルカディオ〔性の英雄〕の自殺〔マコンドで真実がついに明らかにされなかった不思議な出来事〕。ウルスラのところまで届く血の流れ。強烈な火薬の臭い。レベーカの蟄居。
211 事実上の自由党の敗北とアウレリャノ〔大佐〕の憂鬱。彼に対する毒殺計画。
215 ヘリネルド・マルケス大佐のアマランタへの恋。『追っかけ回さなきゃならないほど男に飢えてはいないわ』。「顔を見たくてたまらないくせに、必死にこらえて男の前には姿をあらわさなかった」。
219 ホセ・アルカディオ〔最初の者〕の老衰。プルデンシオ・アギラルとのみ語る。カタウレが『王様の埋葬に立ち会うため』戻る。彼の死。小さな黄色い花が降る。
223 アウレリャノ・ホセ〔暗殺〕とアマランタ〔黒い繃󠄁帯〕の性的火遊び。彼女は「うらわびしい、危険な、先のない情熱に溺れようとしていることに気づい」た。
226 和平への動きと最後の戦闘。ビシタシオンの死。アウレリャノ〔大佐〕の死の報知とその否定。ホセ・ラケル・モンカダ将軍の平和的町政。マコンド、市になる。繁栄。ブルーノ・クレスピの芝居小屋。小町娘のレメディオス。
232 アウレリャノ・ホセ〔暗殺〕が戻る。アマランタへの恋慕。決定的拒否。
236 アウレリャノ〔大佐〕の十七人の息子たちがマコンドへ来る。
240 アウレリャノ・ホセ〔暗殺〕の放蕩。ピラル・テルネラの家。彼の暗殺と速やかな報復。
245 アウレリャノ〔大佐〕マコンドを攻撃、占領。彼の非情と三メートルのチョークで描いた輪。レベーカ〔もらわれっ子〕に会う。モンカダ将軍の処刑。『あんたは、わが国の歴史はじまって以来の横暴かつ残忍な独裁者になる』。
254 ヘリネルド・マルケス大佐とアマランタ〔黒い繃󠄁帯〕。恋のゆきちがい。最終的な拒否。「そのあと、彼女はひとり寝室にこもり、死が訪れるまで続くにちがいないわびしい日々を思って泣いた」。
257 アウレリャノ〔大佐〕がまたマコンドに戻る。「絶大な権力にともなう孤独のなかで、彼は進むべき道を見失いはじめていた」。和平の条件〔大地主・教会との妥協、庶子の権利の放棄〕。マルケス大佐の反逆。死刑宣告。『いまいましいこの戦争の片をつける手伝いをしてくれ』。
268 アウレリャノ〔大佐〕の真の帰宅。すべてに対する彼の無関心。身辺の整理。
276 〔ネールランディア〕停戦協定の調印。アウレリャノ〔大佐〕の自殺未遂。その失敗のいきさつ。声望の回復。
282 家の中に光がさしこむ。レメディオス〔小町娘〕の美貌、最初の犠牲者。
285 アウレリャノ・セグンド〔くじ売り〕の最初の子。その命名、ホセ・アルカディオ〔神学生〕。前の年に迎えたアウレリャノ・セグンドの妻フェルナンダ・デル=カルピオ〔女王〕。ウルスラ〔家刀自〕の感慨、二つの名にまつわる性格〔ふたごだけがその枠を越えている〕。ふたごの混同。
287 ホセ・アルカディオ・セグンド〔スト指導者〕、銃殺を見たがる。アウレリャノ・セグンド、メルキアデスの実験室に入る。草稿の解読をはじめる。メルキアデスの幽霊。
291 ホセ・アルカディオ・セグンド、神父にならんとする。『どうやらぼくは、根っから保守的な人間らしいんですよ』。
294 ふたご、くじ売り女ペトラ・コテスに会う。やがてアウレリャノ・セグンドが彼女を独占。ウルスラによる一家没落の原因論――戦争と闘鶏、性悪な女と途方もない事業。ペトラ・コテスの豊饒の能力。家畜の繁殖。兎のくじ、牝牛のくじ。
302 聖ヨセフの像の中の二百キロの金貨。ホセ・アルカディオ・セグンド〔スト指導者〕による水路の開発。
305 フランスの娼婦たちの到来。彼女たちの主催によるカーニバル。その女王にレメディオス〔小町娘〕がえらばれる。彼女の尋常ならざる美貌と純真な性格。「いかなる悪にも染まる心配のない人間」。
311 アウレリャノ〔大佐〕、金細工のあきないに打ち込む。
314 第二の女王フェルナンダ・デル=カルピオの登場。アウレリャノ・セグンドと彼女の結婚。
317 フェルナンダ・デル=カルピオ〔女王〕とペトラ・コテスの角逐。マダガスカルの女王に扮した写真。
320 フェルナンダ〔女王〕のゴシック風の生い立ち。没落の家。『いずれ女王になられる方』。宗教的リゴリズム。葬儀用の棕櫚編み。ブエンディア家におけるフェルナンダ〔女王〕。自分の家の習慣を強引に持ち込む。次第に家の中を牛耳るようになる。
330 アウレリャノ・セグンド〔くじ売り〕とフェルナンダ〔女王〕に長女が生まれる。レナータ・レメディオス〔メメ〕と命名。フェルナンダ〔女王〕の父に対する崇拝。彼からの奇妙な贈物。鉛の櫃の中の死体。
333 アウレリャノ・ブエンディア〔大佐〕の表彰式。彼の反撥。十七人の息子たちの到着。にぎやかなばか騒ぎ。アウレリャノ・トリステを残して、みんな帰ってゆく。灰の十字のしるしを描く。アウレリャノ・トリステの製氷工場。
340 レベーカ〔もらわれっ子〕が生きている。十六人の息子たちの二度目のマコンド訪問。レベーカの家の修復。アウレリャノ・トリステは鉄道を計画〔途方もない事業欲の例〕。アウレリャノ・センテノ、シャーベットを作る。
346 汽車が来る。
347 マコンドに近代技術が来る。鉄道、電燈、映画、蓄音機、電話。それらに対する町の人々のひややかさ。
349 ミスター・ハーバート来る。バナナ。『アメリカ人にバナナをすすめたばっかりに』『えらいことになった』。ブエンディア家の食堂、にぎわう。
356 レメディオス〔小町娘〕。自然児としての無意識の挑発。官能的な体臭。でたらめな日課。風呂場をのぞいた男の死。「琥珀色の油のようなもの」。異常な音の場所と瀆聖者。彼の死。レメディオスの死を呼ぶ力。レメディオスの昇天〔あるいは被昇天〕。
369 一巡査部長によるマグニフィコ・ビズバル大佐の弟とその孫の殺害。アウレリャノ〔大佐〕の憤怒。十七人の息子たちが次々に殺されてゆく。アウレリャノ・アマドルだけが残って逃亡を続ける。再蜂起の計画とそのための資金集め。計画の放棄。
377 ウルスラ〔家刀自〕。その時間論、『近ごろの一年一年は、昔とはまるでちがうね』。視力を喪失し、洞察力を身につける。家族一人一人の日々の生活をすっかり把握している。ウルスラのさまざまの思い――「大佐はいまだかつて人を愛したことがないのだ」。胎内の子供が発する泣き声、愛の能力の欠如。この世でもっとも心根のやさしい女としてのアマランタ〔黒い繃󠄁帯〕。胸の中の蠍。
387 ホセ・アルカディオ〔神学生〕、神学校に出発。レナータ・レメディオス〔メメ〕、クラビコードの学校に出発。アマランタは自分の経かたびらを織りはじめる。フェルナンダ・デル=カルピオ〔女王〕が一家の采配を振る。
389 アウレリャノ・セグンド〔くじ売り〕はペトラ・コテスと同棲。いよいよ繁栄し、派手に金を使う。『牛よ、もうやめろ! 人生は短い』。〈象おんな〉との大食い競争であやうく死にかける。
396 影のような存在としてのアウレリャノ〔大佐〕。『お前の心は、まるで石だね』。アマランタは経かたびらを織りつづける。
398 メメと六十八人の級友と四人の尼僧の到来。大混乱。七十二個のおまる。
400 ホセ・アルカディオ・セグンド〔スト指導者〕、しばしば戻って大佐と話す。ふたごの性格の交換。銃殺を見た後「家族の一員でなくなった」。
403 アウレリャノ〔大佐〕、いよいよ閉じこもる。金の魚を作っては溶かすことを繰り返す。追憶的な過去。氷を見た午後。大佐の死。
411 アウレリャノ〔大佐〕の葬儀。翌年アマランタ・ウルスラ〔ガストン夫人〕の誕生。メメ、クラビコード奏者になる。公開演奏。母を避ける。彼女に対する父アウレリャノ・セグンド〔くじ売り〕の溺愛。三人のアメリカ娘との交遊。
421 アマランタ〔黒い繃󠄁帯〕。死の専門家としての彼女。レベーカ〔もらわれっ子〕の死を待ちのぞむ。死神の登場。自分のために経かたびらを織る。その完成と死の予告。冥界への郵便物を託される。『アマランタ・ブエンディアは、生まれたときのままの体で死んでいくのよ』。彼女の死。
431 ウルスラ〔家刀自〕、寝たきりになる。
432 メメ、映画館でのキス。マウリシオ・バビロニアと黄色い蛾。彼等の恋のなりゆき。ピラル・テルネラの手引き。メメの妊娠。夜の蛾、発覚、警官。マウリシオ・バビロニア、浴室へ忍びこもうとして銃撃される。一生ベッドを離れられない身体となって一生を終える。
445 メメの子が屋敷に運びこまれる。アウレリャノ〔大佐〕の仕事場でひそかに育つ。
446 それに先立つフェルナンダ・デル=カルピオ〔女王〕のもみ消し工作。メメはマウリシオ・バビロニアが銃撃されて以来二度と死ぬまで口をきかなかった。母との旅、その旅程。母の故郷の町の修道
院。「遠い先のことだが、さまざまな変名を使ったあげく、クラコウの暗い病院の片隅で、ひとことも口をきかずに老衰で息を引き取ることになるあの秋の朝まで……」。
453 フェルナンダ〔女王〕の通信療法。
455 バナナ栽培地域のデモとホセ・アルカディオ・セグンド〔スト指導者〕の煽動。ジャック・ブラウン氏の雲隠れ。弁護士ら。大規模なスト。軍隊の出動。金曜日の虐殺。死体を運ぶ列車。事件そのものが人々の記憶から消滅する。『雨が降ってるあいだは、業務はいっさい停止』。
469 雨が降りはじめる。一将校がブエンディア家へ、ホセ・アルカディオ・セグンド〔スト指導者〕を捜しにくるが、彼の姿は見えない。ホセ・アルカディオ・セグンド、メルキアデスの羊皮紙を読まんとする。
477 雨は四年十一カ月と二日のあいだ降りつづく。マコンド全体の衰退。雨の効果。瘦せたアウレリャノ・セグンド〔くじ売り〕は家から出られない。アマランタ・ウルスラ〔ガストン夫人〕はアウレリャノ少年と遊ぶ。フェルナンダ・デル=カルピオ〔女王〕の通信療法。ヘリネルド・マルケス大佐の死とわびしい葬列。アウレリャノ・セグンド〔くじ売り〕、ペトラ・コテスのもとで三月を過す。家畜たちの死。フェルナンダ〔女王〕の延々たる愚痴。アウレリャノ・セグンドは癇癪をおこして物をこわし、家を出る。食料を調達し戻る。
495 ウルスラ〔家刀自〕の老衰。
497 アウレリャノ・セグンド〔くじ売り〕、ウルスラの隠した金貨を捜す。
499 雨がやみ、十年間の旱魃が始まる。「マコンドは廃墟も同然の姿になっていた」。ペトラ・コテス、財産の再建を決意。
505 ウルスラ〔家刀自〕、起きあがって家の中を整理する。ホセ・アルカディオ・セグンド〔スト指導者〕は羊皮紙の解読に専念。「時は少しも流れず、ただ堂々めぐりをしているだけ」。
510 アウレリャノ・セグンド〔くじ売り〕、再びくじを売る。ペトラ・コテスのブエンディア家の人々に対する愛情。アウレリャノ少年〔私生児〕が育ってゆく。ウルスラはすっかりちぢんでしまう。
519 ウルスラの死。小鳥たちの死。奇妙な動物の死体の発見。
521 レベーカ〔もらわれっ子〕の死。
523 屋敷内、いよいよ荒れる。「客にたいする歓待の精神……の流れは、フェルナンダ・デル=カルピオ〔女王〕の世捨て人的な感情によってせき止められてしまった」。フェルナンダとペッサリー。
526 アウレリャノ〔私生児〕がホセ・アルカディオ・セグンド〔スト指導者〕と仲良くなる。羊皮紙の研究を教え、バナナ会社の虐殺を語る。
528 アウレリャノ・セグンド〔くじ売り〕、喉に異常を感じる。フェルナンダの呪い。土地のくじを売る。
531 アマランタ・ウルスラ〔ガストン夫人〕、ブリュッセルにむけて旅立つ〔彼女は一番ウルスラ〔家刀自〕に似ている〕。その旅の過程。
534 アウレリャノ・セグンド〔くじ売り〕とホセ・アルカディオ・セグンド〔スト指導者〕のふたごが同時に死ぬ。埋葬の混乱。
537 アウレリャノ〔私生児〕、羊皮紙解読に熱意を燃やす。メルキアデスの幽霊の援助。『サンスクリットだよ』。カタルニャ生まれの学者の本屋。
540 ペトラ・コテス、フェルナンダ・デル=カルピオ〔女王〕をひそかに養う。女の意地。
540 サンタ・ソフィア・デ・ラ・ピエダ〔主婦〕の性格。「人間わざとは思えない勤勉さや驚くべき仕事の能力」。崩壊してゆく家と彼女の勝ち目のない戦い。『降参よ』。彼女は家を出てゆく。
544 フェルナンダ〔女王〕、生まれて初めて家事をする。ものがなくなる不思議な現象。
547 アウレリャノ〔私生児〕、羊皮紙を一枚分訳す。韻文の暗号。彼とフェルナンダ〔女王〕の暮し。「この世の人とは思われぬほど美しい老女」。
550 フェルナンダ〔女王〕の死。ホセ・アルカディオ〔神学生〕の帰宅。
553 アウレリャノ〔私生児〕とカタルニャ生まれの学者の親交。五冊の本。
555 ホセ・アルカディオ〔神学生〕のローマでの生活。遺産相続の見込みとその消滅。四人の子供と遊ぶばかりの毎日。七千二百十四枚の四十ペセータ金貨の発見。ばか騒ぎとわびしさ。四人の子供を追い出す。
563 アウレリャノ〔私生児〕とホセ・アルカディオ〔神学生〕。アウレリャノの世間知。アウレリャノ・アマドルの帰還と殺害。ホセ・アルカディオ、四人の子供に殺される。
567 アマランタ・ウルスラ〔ガストン夫人〕が夫と共に帰る。彼女は家の中を整理する。彼女のすぐれた実務能力。「実に現代的で自由な精神の持ち主」。マコンドの空に放つ二十五つがいのカナリアのエピソード。彼女は「この不運の町を旧に復することができると信じて疑わなかった」。
572 アマランタ・ウルスラと夫ガストンのなれそめ。幸福な夫婦。
576 退屈したガストンの航空便開設計画。飛行機を待つ。
577 アウレリャノ〔私生児〕、外へ出るようになる。バナナ会社の廃墟。〔おそらくパトリシア・ブラウンからの〕電話。アウレリャノ〔大佐〕を覚えている唯一の男である黒人とその曾孫ニグロマンタ。アウレリャノ〔私生児〕、アマランタ・ウルスラに対する恋を自覚する。ニグロマンタと寝て、彼女を情婦にする。性的能力の証明。
582 カタルニャ生まれの学者の本屋と四人の若者。ごきぶり論議。みんなで女郎屋へ行く。循環的な経済。ガブリエルとの友情。「三十七番めの悲劇的な場面」。
591 アウレリャノ〔私生児〕、アマランタ・ウルスラに恋情を告白する。彼女の反撥。淫売宿〈黄金童子〉の発見。飛び交う石千鳥。ピラル・テルネラに自分の恋を話す。『相手はちゃんと待ってるから』。アウレリャノ〔私生児〕、アマランタ・ウルスラを襲う。
599 ピラル・テルネラの死と葬儀。カタルニャ生まれの学者の本屋、自分の故郷へ出発。彼の奇妙な手紙。四人の若者たちも発つ。ガストンももういない。「アウレリャノとアマランタ・ウルスラだけが、幸せだった」。二人の熱烈な性愛。屋敷を壊しながら愛しあう。外の世界、ガストンや本屋やガブリエルからの手紙。
612 アマランタ・ウルスラ〔ガストン夫人〕の妊娠。「ふたりはいっしょにいさえすれば幸福」。アウレリャノ〔私生児〕の素性しらべ。その失敗。二人の関係に関する謎。蟻と紙魚と雑草。『激しい執念は死よりも強い』。
617 男の赤ん坊〔最後の者〕が生れる。豚のしっぽがある子。『いや、アウレリャノがいい』。アマランタ・ウルスラの死。アウレリャノ〔私生児〕の孤独。
622 蟻に運ばれてゆく赤ん坊〔最後の者〕の死体。それを見てメルキアデスの最後の鍵が明らかになる。解読。〈この一族の最初の者は樹につながれ、最後の者は蟻のむさぼるところとなる〉。
622 再び羊皮紙に取り組む。「百年前にメルキアデスによって編まれた一族の歴史」。「マコンドはすでに、聖書にもあるが怒りくるう暴風のために土埃や瓦礫がつむじを巻く、廃墟と化していた」。「羊皮紙に記されている事柄のいっさいは、過去と未来を問わず、反復の可能性のないことが予想された」。
蜃気楼の村マコンドを開墾しながら、愛なき世界を生きる孤独な一族、その百年の物語。錬金術に魅了される家長。いとこでもある妻とその子供たち。そしてどこからか到来する文明の印……。目も眩むような不思議な出来事が延々と続くが、予言者が羊皮紙に書き残した謎が解読された時、一族の波乱に満ちた歴史は劇的な最後を迎えるのだった。世界的ベストセラーとなった20世紀文学屈指の傑作。
- 1,375円(税込)
ガブリエル・ガルシア=マルケス
Marquez,Gabriel Garcia
(1927-2014)コロンビア、アラカタカ生まれ。ボゴタ大学法学部を中退し、新聞記者となって欧州各地を転々とした後、1955年に処女作『落葉』を発表。1967年『百年の孤独』によって一躍世界が注目する作家となった。『族長の秋』『予告された殺人の記録』『コレラの時代の愛』『迷宮の将軍』など次々と歴史的傑作を刊行し、1982年にはノーベル文学賞を受賞した。