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新鋭エンタメの2トップ、重版街道爆走中!

 3年前の夏に刊行され、その年のミステリー界を騒然とさせた二つの小説が今月、文庫化されました。『出版禁止』(長江俊和著)と『イノセント・デイズ』(早見和真著)――それぞれ毛色は全く異なりますが、発売と同時に注目を集めて、いずれも快調に増刷を重ねています。新潮文庫編集部が今、自信をもってお薦めする旬のエンタメ小説2作品の読みどころをご紹介します。

 カルト的人気を誇ったテレビ番組「放送禁止」をご存じでしょうか。これは、「ある事情で放送禁止となったVTRを再編集し放送する」という設定で始まるフェイクドキュメンタリーで、くりぃむしちゅーの有田哲平さんをはじめ、熱狂的なファンがいることで知られています。
 
 この番組のクリエーターこそ、『出版禁止』の著者、長江俊和氏です。本書『出版禁止』もまた、「ある事情で出版禁止となったいわくつきの原稿」を、長江氏が手にするところから始まります。スキャンダルにまみれた某心中事件の真相を追うライター若橋呉成わかはしくれなりは、心中事件で生き残った愛人新藤七緒しんどうななおに、独占インタビューを試みます。なぜ女だけが生還したのか、不倫の果ての悲劇なのか、そして戦慄の真相とは......。
 じつは、これは単なる内容紹介ではありません。以上の記述の中にも、すでに仕掛けと謎解きの手がかりが隠されています。注意深い読者なら、お気づきでしょうか。それともやはり本書をお読みいただくほうがよいでしょうか。真相に辿りつけるかどうかは、あなた次第です。

 整形シンデレラ放火殺人事件。それが『イノセント・デイズ』の作中で起こる凶悪な事件の呼称です。この小説の主人公・田中幸乃は私生児として生まれて養父に虐待を受け、中学時代に強盗致傷事件を起こして施設に入れられるという典型的な不幸な生い立ちを背負っています。そして、恋人ができて幸せを掴んだかに見えたのも束の間、別離を告げられてストーカーと化し、元彼の新たな家庭を妬み放火して妻と1歳の双子を殺した――というのが事件の骨子です。事件の数週間前に整形手術を受けていた彼女にマスコミは食いついて冒頭のように命名し、彼女自身も罪を認めて死刑判決を受け入れます。

 しかし、それは決して真実ではありませんでした。この作品は途中から信じ難い展開が待ち受け、およそこれまでのミステリー小説にはなかった衝撃に心が根底から揺さぶられます。

「"感動"や"失望"、"明るい"や"暗い"、"幸せ"や"不幸"といった言葉だけでは片づけられない、名付けられない感情や事柄を時に描くのが小説であり、物語であるとするなら、早見さんが描こうとしたものはおそらく、それらを超越した"何か"が起こる瞬間そのものなのだ」と、本書の解説に辻村深月さんは記しています。ぜひ、その瞬間を味わってみてください。この小説の真髄に触れている辻村さんの文章も、文庫解説史上に残ると言いたくなるほど感動的です。

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2017年03月15日   今月の1冊
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