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【秋の時代小説特集】渋柿の照りてお江戸の暮れを知る

小説新潮 2011年10月号

(毎月22日発売)

943円(税込)

雑誌の仕様

発売日:2011/09/22

発売日 2011/09/22
JANコード 4910047011012
定価 943円(税込)

【秋の時代小説特集】渋柿の照りてお江戸の暮れを知る

 初めて見る里山の風景を懐かしいと思うように、時代小説の風情にも、同様の感慨を覚えるのはなぜだろう。もっとも近い江戸である幕末は、一五〇年くらい昔。たかだか一五〇年前とも言えるが、今生きている人で、当時を見た者はいない。
 それなのに懐かしく感じてしまうのは、時代小説や時代劇の影響ではないかと思う。時代小説を好む読者は多いし、テレビを点ければ、大抵はどこかで時代劇をやっている。そうした環境の中で過ごせば、知らず知らず、時代小説的な作法や考え方が染み込んでいっても不思議はない。
 例えば、これだけ欧米の個人主義が浸透している世の中でも、日本人は長屋的連帯感を尊ぶし、武士は食わねど高楊枝的な痩せ我慢の文化は今もってある。いわゆる「古き良き日本」の姿を、そうありたい、というよりは、そうあるべきだ、と端から思い込んでいる節がある。
 それは、日本人のDNAに組み込まれた心根というだけでなく、無意識のあいだに刷り込まれてきた、この時代小説的世界観が多分に作用している、とそう思えてならない。
 絶滅が危惧される「古き良き日本」だが、時代小説がある限り、その姿は綿々と日本人の心に刻み込まれ、受け継がれていくのではないだろうか。

◆諸田玲子/女ごころ お鳥見女房
──久太郎の帰還で笑顔が戻った矢島家。でも綾には恐ろしい心配が

◆西條奈加/八年桜
──お末が見てしまった「菩薩旦那」の別の顔。謎は明かされるのか

◆田牧大和/亀裂
──次々と届き始めた件の画。相手の真意を計りかねる甲斐だったが

◆藤原緋沙子/冬椿
──「あの男の元には戻らない」心に誓い、川を渡ったおしなだが…

◆矢野 隆/凛と咲く
──襲い来る謎の男たち。麗しき芸姑には人に言えない秘密があった

【好評シリーズ読み切り】
◆大崎 梢/日曜日の童話 ふたつめの庭
──シングルマザーのマリ子と急接近していく隆平に、美南は複雑な想い。隆平の息子を訪ねて園に現れた謎の美女が、更に波乱を呼んで

◆垣根涼介/永遠のディーバ 君たちに明日はないPART4
──創業百数十年の、世界的なメーカーの本社課長。悪くない人生。でも真介との面接で思い出してしまった。二十年以上前の、あの衝撃を

【連載エッセイ】
阿刀田 高/源氏物語を知っていますか
柴門ふみ/大人の恋力
佐藤 優/落日の帝国 プラハの憂鬱
嶽本野ばら/地嶽八景亡者戯
山田詠美/熱血ポンちゃんから騒ぎ

ポーカー・フェース〈特別編〉人気コラムが一度限りの復活!
◆沢木耕太郎/沖ゆく船を見送って

【新連載スタート】
◆井上荒野/ほろびぬ姫
──おあつらえ向きの嵐の日。私の悲鳴で、ある「物語」が始まる……

【連載第二回】
◆熊谷達也/海峡の絆
──突風で燃えさかる函館の大火。敬介は死線を越えて家族のもとへ

◆坂東眞砂子/Hidden times
──南太平洋の島で謎の砂絵を探す一行。思いがけない事実を知って

◆北村 薫/うた合わせ
──新旧の歌を語る北村版・古今和歌集、今回は秋にまつわる歌

【連載ノンフィクション】
大崎善生/赦しの鬼 団鬼六の生涯
高橋秀実/僕たちのセオリー 実録・開成高校硬式野球部

【好評連載小説】
赤川次郎/月光の誘惑
浅田次郎/赤猫異聞
荒山 徹/蓋島伝――長宗我部元親秘録 最終回
飯嶋和一/星夜航行
大沢在昌/冬芽の人
柴田よしき/貯められない小銭I 名前のない古道具屋の夜
白川 道/神様が降りてくる
西村京太郎/サンライズ出雲殺人事件
蜂谷 涼/鬼の捨て子
葉室 麟/春風伝――高杉晋作・萩花の詩
宮部みゆき/ソロモンの偽証
山本一力/べんけい飛脚

第十回「小林秀雄賞・新潮ドキュメント賞」決定発表
第八回「新潮エンターテインメント大賞」募集要項
次号予告/編集後記

編集長から

遠くて近い江戸
 学生時代、太秦の映画村でアルバイトをしていた。雨を降らせたり風を吹かせたりする仕事で、時代劇の裏側を知ることができて面白かった。
 広い撮影所だから、役者は自転車で移動する。髷を結ったお侍が、自転車をゆったりと漕いでいる姿は、違和感があるようで、でも似合ってもいたし、スタッフ用の食堂では、ジーパン姿の自分の脇で庄屋さんがうどんをすすったりしていた。
 そこにギャップでなく馴染みを感じてしまったのは、江戸が現代と地続きだからではないか、と今になって思う。つまり、江戸はどこか知らない国と時代のファンタジー世界ではなく、時間の隔たりこそあるものの、今自分が立っている場所ときちんと繋がっているのだと、どこかで実感しているからではないだろうか。
 その感覚を支えているのは、誰の心の中にもある「古き良き日本」の姿であり、それを作り出しているのが、時代小説であり、それを基にした時代劇なのである。時代小説の特集をするたびに、そのことを痛感する。江戸時代の人間はもういないが、その命脈はきちんと受け継がれている。なんと素晴らしいことではないか。


小説新潮編集長 新井久幸

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 小説と並ぶ両輪が、エッセイと豊富な読物です。小説新潮では、毎号、ボリュームのある情報特集や作家特集を用意しています。読み応えは新書一冊分。誰かに教えたくなる情報が、きっとあります。

 目指すのは、大人の小説、大人の愉しみが、ぎっしり詰まった雑誌です。経験を重ね、人生の陰翳を知る読者だからこそ楽しめる小説、今だからこそ必要とされる情報を、ぎっしり詰め込んでいきたい。

 言葉を換えれば、「もうひとつの人生を体験する小説誌」。時には主人公たちの息遣いに寄り添い、またある時には人生の新たな側面を見つけるささやかなヒントになれば――そう願っています。
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