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特集 時代小説 春告鳥 北原亞以子/宇江佐真理/伊東 潤/辻井南青紀/青山文平/梶よう子/諸田玲子

小説新潮 2013年4月号

(毎月22日発売)

943円(税込)

雑誌の仕様

発売日:2013/03/22

発売日 2013/03/22
JANコード 4910047010435
定価 943円(税込)

特集 時代小説 春告鳥

何をきっかけに春の到来を感じるかは人それぞれだが、ある時期まで定番であったのは、おそらくウグイスの鳴き声だろう。「ホーホケショ」にはほど遠い、たどたどしい鳴き声を聞くだけで、どんなに寒くとも、「ああ、もう春なんだなあ」と思ったものだ。
雑木林に囲まれて育った子供時代は、嫌でも毎年この響きを耳にしたものだが、気付けばまったく耳にしなくなった。都心でウグイスの鳴き声を聞くことはめったにない。最近は、もっぱら花粉症の発症で春を感じるようになっていて、ひどく物悲しい。
時代小説の中には、現代では気付く機会が減ってしまったけれど、かつては確かに存在した風情が静かに息づいている。そうした欠片を拾い集めていくのも、時代小説を読む喜びの一つではないかと思う。

◆北原亞以子/冥きより 慶次郎縁側日記
――亭主持ちと知りつつも佐七が好きになった女人には、事情があった

◆宇江佐真理/再びの秋 古手屋喜十 為事覚え
――捨吉を引き取って一年、日乃出屋に現われた見慣れぬ小僧の正体は

◆伊東 潤/当代無双
――負け知らずの英傑を見つめる老人の、不敵な笑みが意味するのは……

◆辻井南青紀/金平娘 結婚奉行 手控え帖
――嫁入り前の娘達が開く秘密の集会に、潜入を命じられた新十郎だが

◆青山文平/半席
――旗本を目指す直人に、上役が持ちかけて来た「悪くない話」とは

◆梶よう子/獏の夢 みとや・お瑛仕入帖
――商売敵を伴い、大量の枕を持って来た長太郎。一体何するつもり?

◆諸田玲子/来春まで お鳥見女房
――皆の人気者、しゃぼん玉売りの藤助が、今年はなぜか姿を見せない

【新連載スタート】
◆安部龍太郎/冬を待つ城
――奥州の豪傑、九戸政実。新直木賞作家が東北の魂を描く!

◆石井光太/蛍の森
――森に眠る過去が悲劇を呼び――『遺体』の著者が挑む初の小説

◆早見和真/イノセント・デイズ
――死刑執行の朝に彼女が見たものは? 注目の新鋭、本誌初登場!

【連載第二回】
◆乃南アサ/水曜日の凱歌
――二人で万歳をした終戦の日から、お母さまの顔つきが変わった

【好評読み切り短編】
◆重松 清/あの町で
――あれから二年。被災地を歩き続けて生まれた四つの季節の物語

◆畠中 恵/みどりのたま 「しゃばけ」シリーズ
――目を覚ますと、男は記憶を失っていた。懐には薬入りの印籠が……

◆唯川 恵/雨月物語 蛇性の婬 異譚
――雨の日偶然出会った美しい女。一瞬で虜となった豊雄だが

【新シリーズスタート】
◆山田詠美/時計じかけの熱血ポンちゃん
――「ぴん」を語り、顔面相似形にはまる。名物エッセイ、新装開店。

【好評連載小説】
赤川次郎/月光の誘惑
飯嶋和一/星夜航行
桐野夏生/抱く女
佐々木 譲/獅子の城塞
柴田よしき/持てないバケツIII 名前のない古道具屋の夜
白川 道/神様が降りてくる
新城カズマ/島津戦記
杉山隆男/メイのいない五月
仙川 環/マテリアル・ライフ
嶽本野ばら/傲慢な婚活
野中 柊/波止場にて
はらだみずき/ここからはじまる
平岩弓枝/私家本 椿説弓張月
山本一力/べんけい飛脚

【連載エッセイ】
北村 薫/うた合わせ
柴門ふみ/大人恋愛塾
酒井順子/地震と独身
佐藤 優/落日の帝国 プラハの憂鬱
高山なおみ/今日もいち日、ぶじ日記
中野 翠/いちまき ある家老の娘の物語 最終回
ペリー荻野/ちょんまげ ザ・バトル
宮城谷昌光/随想 春夏秋冬

第二五回「日本ファンタジーノベル大賞」募集要項
次号予告/編集後記

編集長から

さよなら慶次郎
 校了が最終段階に入った頃、北原亞以子さんの訃報を聞いた。今号は時代小説の特集で、北原さんには巻頭でご登場いただいている。にわかには信じられなかった。ここしばらく、体調を崩して入退院を繰り返しているというのは知っていたが、しかし同時に、執筆意欲はいささかも衰えていないとも聞いていて、早くお元気になられるといいなと思っていた矢先だった。
 北原さんは、昭和四十五年以来、四十年以上にわたって小誌にご登場下さっていた。中でも、平成八年に始まった「慶次郎縁側日記」のシリーズは、今回で一五三話を数え、文字通り「小説新潮」の顔だった。
 病室で書かれたという、この「冥きより」が最期の作品になるとは、ゲラを読んでいる時は思ってもみなかった。もう慶次郎にも北原作品にも会えなくなると思うと、寂しくて仕方ない。
 謹んでご冥福をお祈りいたします。長い間、素敵な作品をありがとうございました。


小説新潮編集長 新井久幸

バックナンバー

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雑誌から生まれた本

小説新潮とは?

 小説新潮は戦後まもない一九四七年に創刊されました。以来、文学史に名をとどめる作家で、小説新潮に登場したことのない名前を探すほうが困難なほど、数多の文豪、巨匠、新進気鋭による名作、名シリーズが誌面を飾ってきました。

 時代は変わり、新しい作家、若い書き手も次々に現れます。変わらないのは「小説を読む楽しみ」を大切にすること。現代小説、時代小説、ミステリー、恋愛、官能……。ジャンルにこだわらず、クオリティの高い、心を揺り動かされる小説を掲載していきます。

 小説と並ぶ両輪が、エッセイと豊富な読物です。小説新潮では、毎号、ボリュームのある情報特集や作家特集を用意しています。読み応えは新書一冊分。誰かに教えたくなる情報が、きっとあります。

 目指すのは、大人の小説、大人の愉しみが、ぎっしり詰まった雑誌です。経験を重ね、人生の陰翳を知る読者だからこそ楽しめる小説、今だからこそ必要とされる情報を、ぎっしり詰め込んでいきたい。

 言葉を換えれば、「もうひとつの人生を体験する小説誌」。時には主人公たちの息遣いに寄り添い、またある時には人生の新たな側面を見つけるささやかなヒントになれば――そう願っています。
 ほんの少しかもしれませんが、小説新潮で毎月の生活がきっと変わるはずです。

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