女による女のためのR-18文学賞

新潮社

第12回 受賞作品

王冠ロゴ 大賞受賞

朝香 式

「マンガ肉と僕」

朝香 式

――このたびは受賞おめでとうございます。辻村深月さんの選評で、過去から未来へ時間を飛ばす展開が評価されていました。時間を経て再び出会う2人、という設定は最初から構想されていたのでしょうか。

イメージであっという間に書いてしまったので、時間の経過について論理的に考えていたわけではありませんでした。ですが、種明かし的なものはどうしても必要だと思い、そのために時間をおこうか……という感じだったように思います。10年前になぜ彼女がああいう言動をとったのかが、時間が経った今になってわかる、と。

――その彼女、「肉女」というあだ名の熊堀さんの造形が非常に強烈でした。

学生時代、彼女ほどではありませんが、少し近いような女の子がいました。私自身は、他人にどう見られるかということをすごく気にして、そればかりに執心してしまって、本当に自分がどうしたいのかは二の次だったような気がします。そんな自分とは対照的な、他人からどう思われるかに頓着せずに行動できる存在を、とても羨ましく感じていました。熊堀さんは極端ではありますが、愛おしい、とても好きなタイプの女の子ですね。

――主人公のワタベ君についてはどうですか? 三浦しをんさんは彼について「おまえのモテ自慢を聞かされたわけかよ」とおっしゃっていましたが(笑)。

ああいう男の子もいましたね。学生時代を振り返ると「ああ、こういう男の子っていたいた、結構腹が立ったりしたなあ」と。私としては、もっとも好きになれないタイプです(笑)。そんなワタベ君を通して、「肉女」のような、愛すべき女の子を描きたい、という思いがありました。ワタベ君って、中身が全然ない人だと思うんですよね。そういう人物を一度書いてみたいと思っていたんですけど、理解できない存在なので、どういうふうに描けばいいんだろうかと迷いながら書きました。三浦さんにそうおっしゃっていただいたと伺うと、少しは描けたのかなと嬉しく思います。

――小説はこれまでもお書きになっていたんですか?

学生の頃、19歳から25歳くらいまでは書いていました。当時は純文学志向で「マンガ肉と僕」とは違った感じのものを。それ以降は長いあいだ書いていなくて、一昨年くらいからまた書くようになりました。

――ご執筆を再開されたのは、何がきっかけだったのでしょうか。

これといったきっかけは特にないのですが、学生時代は、勉強と同じように机に向かって「さあ、書こう!」と気合いを入れて書いていたんです。一昨年に再開したときはそれとは違って、イメージがまずあって、これを何か形にしたい……という思いで書き始めました。書こうと思わずして書けたというか、頭に浮かんだことが自然に書くという行為に繋がっていきました。

――どんなときにイメージが湧いてくるのでしょう。

誰かと話しているときや、車や列車の窓の外をぼーっと眺めているときなどですね。どちらかというと、物語が大きく動くシーンではなく、全体を象徴する台詞とか情景から、湧いてくるように思います。

――この賞に応募いただいたのは、何か理由がありましたか?

まず書き上げてしまったので、この分量で応募できる賞に出そう、というのが先にありました。あとは、映像化される可能性があるというところにすごく惹かれまして。「マンガ肉と僕」を書いている間、イメージや映像がずっと頭に浮かんでいたので、映像化していただけたら嬉しいなあと。

――選考の経過はウェブなどで追っていらっしゃいましたか。

その頃、わりと仕事が忙しくて、見そびれてしまっていたんです。最終候補に残っているよ、と友人が教えてくれて、実際にウェブで自分の名前を見ました。そのときの喜びがいちばん大きかったですね。本当に嬉しくて、そこで満足してしまったというか、「ああ、いいことあったなあ」と思っていたので、受賞のご連絡をいただいたときには呆気にとられました。

――普段はどんな小説をお読みになりますか?

学生時代は純文学に憧れていて、吉行淳之介さん、森瑤子さんなどを読んでいました。同じ作家さんの同じ作品を何度も読むタイプでした。拙い解釈しかできていなかったと思うのですが、とにかく何度も読んで、そのたびにお気に入りの箇所が変わる、というような読み方でした。社会人になって、自分も書くことを止めてしまってからは、正直あまり小説に触れていなくて……。一昨年からまた書き始めてからは、読んでいる作品と表現が似てしまうのではないかという恐れがあって、ますます読めなくなりました(涙)。

――これからお書きになりたい作品の構想がありましたら教えて下さい。

最初にイメージしたものが、書いているうちにズレてきてしまうことがあるので、イメージに忠実でありたいということと、作品を自分なりに愛するという意味で丁寧に推敲すること、これを守りつつ、自分の好きなものやインスピレーションを受けたものをテーマにして書いていきたいと思っています。今年はR-18文学賞大賞受賞という思いがけない嬉しいことがあってバタバタして、大好きな桜を観に行く時間がなかったんです。桜はずっと好きで、なおかつ不思議だなあと思い続けているもののひとつなので、桜にまつわる物語を書いてみたいな、という漠然とした気持ちがあります。