第15回R−18文学賞 受賞作品

第15回R−18文学賞 大賞
「カメルーンの青い魚」町田そのこ

 
――受賞の連絡を聞いてどのように思われましたか。
 本当に驚きました。最終候補に残った他の方の作品はどれも素晴らしい作品ばかりだったので、「ああこれは自分じゃムリだな、来年頑張ろう」と思って半ば諦めていたんです。さらに選考結果の連絡をいただける日にちを一日勘違いしていて、明日決まるんだな、と思って待っていたらその前日に連絡が来たので、さらにびっくりしてしまって(笑)。まさかの連続だったので、電話を切った後もしばらく信じられずにいました。
――蓋を開けてみれば、選考委員の先生お二方ともが推しての大賞受賞ということで。本当におめでとうございます。小説を書くようになったきっかけについて教えていただけますか。
 ありがとうございます。10歳の時、母から薦められて氷室冴子さんの『クララ白書』を読んだのがきっかけで、創作の世界に夢中になりました。いつかこの方と肩を並べる作家になりたい、そして「あなたのおかげで作家になれました」とご本人に告げたい。そんな日が来ることを幼いながらに夢見ていました。学生時代は小説を書いたり、友人に頼まれて学生演劇の台本を書いたりもしていたのですが、年齢を重ねるごとに、生活に追われてちゃんとした小説を書くことなく漫然と時を過ごしてしまって。だから2008年の6月に氷室さんの訃報を聞いて、頭が真っ白になりましたね。「私は何をやっていたんだろう……」って。その時からです。本格的に小説を書くようになったのは。
 氷室さんの小説は、文章が素晴らしいというのも、もちろんありますが、主人公の女の子がみんな素晴らしく魅力的です。まっすぐで、素直で明るくて、自分がこうありたいと思える女の子を描かれていました。特に『なんて素敵にジャパネスク』の瑠璃姫という女の子は自分から積極的に動いて活躍する行動的な子で、私自身はあまり運動が得意なわけでもなかったので、とても魅力的に見えて憧れました。エッセイなども読むようになり、そこから読み取れる人柄にも惹かれていきました。氷室さんは、好きになったらとことん掘り下げるというような面をお持ちなんです。それで、好きな書き手の句読点の打ち方までもが気になる、という内容の文章があって、書き手が呼吸器系の疾患を抱えているだろうというのを見抜いたというエピソードが印象に残っています。そういった何かにはまり込んでいくところに自分と似たものを感じますね。その影響を受けて、自分の原稿を読み返すときも、句読点はしつこいほど直します。ここはまくし立てるようなリズムだから句読点はいらないな、とか。場面や描写が自然な流れになるように、台詞や一人称の文章は何度も声に出して確認しながら書いています。
――本作には叙述トリック的な仕掛けが組み込まれていましたが、それもとても自然に書かれていて印象的でした。
 このお話は「普通は大事にされるであろう綺麗な女の子が殴られて歯が折れたら面白いな」という思いつきから膨らませていった物語で、冒頭の、差し歯が二本とれた、というところが最初に出てきた文章でした。小山田浩子さんの『工場』という小説は、最初に鳥が出てきて、最後に鳥になって終わります。こんな風に最初と最後が綺麗に繋がる物語はとても粋だなと思ったので、このお話も歯で始まって歯で終わるように、はじめの一行と終わりの二行を先に決めて書きました。当初からさっちゃんと啓太との関係は決めていました。決定的な台詞も序盤から出して書いていたのですが、けれどそうなると全然面白くない。物語は私自身が読んでいて楽しいと感じるものでないといけないと思っていますし、そもそもさっちゃんは「お母さん」という感じが全然しない子だったので、それを隠しながら最後まで書いてみて、なんとか形になった作品です。ミステリー的な手法だとお褒めいただけてとても嬉しかったのですが、それを意識したわけではなく、今までもミステリーは書いたことがありませんでした。でも今回こういったやり方で、自分だったらこう読むな、こうしたら勘違いしてもらえるかな、というのを考えながら書くのは凄く面白かったので、やってみてとても勉強になりました。私自身、小説を読むとき、オチが見えると読むのを辞めてしまう癖があるので、他の人だってそうだろうと思っています。特に短編は気楽に読むのを辞めてしまえるものなので、なるべく最後まで楽しんでもらおうと意識して書きました。
 今回三作応募したのですが、そのうち受賞作ではない、「私の渋皮煮忌」という作品が自分の中では一番自信のある作品でした。作品を書くために実際に栗の渋皮煮を二回作ったんです(笑)。栗を買ってきて、ひたすら皮を剥いて、ぐつぐつあく抜きして手を真っ黒にすることを二回。手を動かして苦労したぶん思い入れも深かったですし、かなりやりきった気持ちになりました。そのため、こちらを書き終えてからとりかかった「カメルーン」ではいい意味で力が抜けたのかも知れません。最初と最後がつながる話は面白いな、女の子が好きな男に歯を折られたらどうかな。差し歯が抜けてから戻るまでの間に何があったら楽しいかな、啓太を○○だと思わせておいて、実は××であったというのは面白いかな……と、様々な要素を意図的に作中へ取り入れる、実験的な作りを積極的に楽しめました。前の二作品で書きたいことを書ききったからこそ、思いつきの冒険ができたのだと思います。
――今後はどういった作品を書いていきたいでしょうか。
「カメルーン」もそうですが、二度と会えない人との関係性、死生観というものにすごく興味があります。なので今は葬儀社を舞台にしたお話を考えています。どういった話になるかはわかりませんが、以前葬儀社で働いていたこともあって、そこに働く人たちに焦点を当てた話を書きたいと思っています。あとは、今回の受賞作のような大人の恋愛にも興味があります。ミステリーはあまり考えていませんでしたが、先生方の励ましもありましたので、やってみたいですね。
 ちゃんと書くようになってから7年ぐらい経ちますが、いろいろな賞に応募して一次選考で落ちることが当たり前でした。あまり偉そうなことは言えませんが、書き続けることにまず意味があるということだけははっきり言えると思います。