女による女のためのR-18文学賞

新潮社

第17回 受賞作品

王冠ロゴ 読者賞受賞

夏樹玲奈

「空におちる海」

夏樹玲奈

――「読者賞」受賞おめでとうございます。一報を聞いていかがでしたか。

 まさか賞をいただけると思っていなかったので、すごく驚きました。本当にありがたいです。応募したことは誰にも言っていませんでした。受賞についても、前の職場の友人と大学時代の恩師、そして母には知らせたのですが、父や弟にはまだ伝えていません。

――読者賞の読者コメントでは、世代を問わず熱い支持がありました。また、選考委員のお二人が大賞候補として最後に残した2作のうちの1作であり、友近さんも「友近賞」候補として最後の3作品に選ぶなど、幅広く支持された作品です。

 選考委員のお二人にも、想像以上のお言葉を頂けて、とても嬉しかったです。大学の友人からは「あなたはこんなに感情がある人間だったんですね」と言われました。

――「小説新潮」に寄せてくださった「受賞の言葉」がユニークでした。「子供の頃、小説は立派な人しか書いてはいけないものだと思っていて、できる限り波乱万丈の人生を過ごして話の種を集め、六〇歳になったら書き始めるという計画をたてていた」といった内容です。そもそも作家を目指されたきっかけは何でしょうか。

 子供の頃からすごく本を読む環境というのではなかったのですけれど、なぜか「作家になる」ということだけは決めていました。そのきっかけを改めて考えると、母の寝物語にあるかもしれません。
 幼い頃、寝つけない夜に、母が自分の初恋の物語などを聞かせてくれて、それが逆に眠れなくなるくらい面白かったんですね。「この面白すぎる母の話を小説にして、もっといろんな人に広めなきゃ」と思ったことがきっかけの一つです。でも母に「作家になりたい」と伝えたら、「なれるわけがない」と一蹴されたんでしょうね。「それなら、すごく立派で、偉い大人になったら小説を書くことを許されるだろう」という考えに至ったのだと思います。結局この計画よりも書き始める時期を早めたのは、「もうこの先、立派な大人になれそうにないな」と思ったためです。(笑)そして残念ながら波乱万丈な人生ではなく、のうのうと生きてきました。
 母も小説をたくさん読む人なので、今回の受賞を知らせた時も「調子に乗らないように」と釘を刺されました。でも、「受賞の言葉」と並んで掲載された顔写真は、母が撮ってくれたものです。

――実際に小説を書き始めたのはいつ頃でしょうか。

 大学三年生の頃、21歳のときですね。これまでも文学賞に応募していたのですが、最初に書いた作品がある文学賞で二次選考まで残ったので、「いい線いっているのかもしれない」と、コンスタントに応募を続けていました。実はR-18文学賞にも過去に二度ほど、別のペンネームで応募していたのですが、今回までは一次選考も通っていませんでした。R-18文学賞はウェブで応募できる短編の賞であり、また女性が対象で、幅広い門戸で受け入れてくださると思い応募していました。歴代受賞者の方の作品、たとえば窪美澄さんの作品をよく読んでいたことも理由の一つです。

――窪美澄さんの他によく読む作家、好きな作家はどなたでしょうか。

 三島由紀夫さん、パウロ・コエーリョさん、吉田修一さん、村上春樹さん、川上弘美さん、山田詠美さんです。三島作品だと『潮騒』が好きですね。その健全さが好きで、男女のどこか動物的で邪心のない、瑞々しい色気に、一人盛り上がりながら繰り返し読んでいます。

――受賞作「空におちる海」では、叔父の「夏樹くん」と暮らすよしこ、その二人の前に突然現れ夏樹くんと付き合い始める勝也という、三人の物語をよしこの視点で絶妙に描かれました。今年の応募作品にはLGBTを扱うものも大変多かったのですが、夏樹さんが本作を書いたきっかけは何でしょうか。

 LGBTについて書こうと思って書いたのではなく、自然と男性二人の恋の話になりました。「強い女性を主人公に書きたい」ということだけは思っていて、頭にあったものを集めて書いた形です。「夏樹くん」の人柄のイメージは、わたしの叔父をモデルにしました。母性本能をくすぐるタイプで、そこにいるだけで物語になるような人です。

――今後はどんな作品を書いていきたいと考えていますか。

 他の方が書いているものと同じストーリーを私が書いても意味がないと思うので、やはり自分にしか書けない、まだこの世にない作品を書いていきたいと思っています。受賞作をもとにした連作短編も考えていて、これからとても楽しみです。

――最後に読者の方に一言お願いいたします。

 小説を読んでくださった、支持してくださったお一人おひとりに直接お礼をお伝えしたいですが、是非今後色々な作品を通して、またお目にかかれたらと思っています。本当にありがとうございます。