第17回受賞作品
受賞の言葉
読者賞受賞

受賞の言葉
どこにいきましょうか
小説はすごく立派な人しか書いてはいけないものだと子供の頃は思っていて、それならできる限り波乱万丈の人生を過ごして、話の種を集め、六十歳になったら小説を書き始める計画をたてました。しかし平和な日本でヘミングウェイのような人生を送れるわけもなく、順調にタチの悪いナマケモノになった私は、当初の計画を変更し、一番奥にしまっておいた神聖なものをコソ泥のようにそっと取り出し、夢中でまさぐり、ほおずりして、抱きしめて、引っ張って、ちぎって、叩きつけて。そんなことをしているうちに優しかった相手もどんどん離れていき、あれ、一体何のために書いているんだっけ。そうだ、自分のために書いてるんだ。すいません。もう一度こっちに来て頂けますか。そうして歩幅を合わせて書いたこのお話が、幸運にも皆様に拾いあげて頂き、なんという幸せ者。本当にありがとうございます。皆様が買い与えてくださった入場券を握りしめ、未知の乗り物の運転席にもぐりこんでまいります。