第17回 受賞作品

《友近賞受賞》
「アップル・デイズ」山本渚

[→ 受賞の言葉]

 

――このたびは、友近賞のご受賞、まことにおめでとうございます。受賞の知らせを聞いて、まず思ったことは何でしょうか。
 お電話をいただいたときはびっくりして。驚きでちょっとぼーっとしてしまいました。返事はしていたと思うのですが……。
 電話を切った後で、今後のことについて聞いた内容をきちんと覚えているか、全く自信がなくなってしまって、「どうしよう」と青くなっていました。とにかく驚きが大きくて、喜びはかなりあとになってからじわじわ来ました。

――続いて、受賞作が「小説新潮」に掲載された今のお気持ちをお聞かせください。
 よかったなあーとしみじみ思っています。実は一度作家デビューはしていて本も出しているのですが、少し執筆をお休みしていたので、これでまた作家として活動できるかもしれない、そういう可能性がうまれるかもしれないと思うと嬉しいです。
 怖さもあるんですけど、やっぱり嬉しいという気持ちが一番かなと思います。

――今回、執筆を再開して応募したきっかけを伺っても宜しいでしょうか? また、受賞を経て、小説を書く姿勢にさらに変化があれば教えてください。
 デビューしたのがちょうど十年前で、そこから出産とか子育てとかをしているうちに小説から遠ざかってしまっていて、自分の中から「もういいのかもしれない」「このまま書かずに生きていくのもアリだな」みたいな声も聞こえ始めていたんです。
 でもせっかく夢だったのにな、いや失敗するのは怖いし……とぐるぐる考えていたときに、背中を押してくれたのは、最近めきめきと本好きになりつつある小学生の娘です。子供のことばでシンプルに「送った方がいいよ。しめきりに間にあった方がいいと思う」と言われて、「まあそうだなー、……いやいや、ほんっとにそうだよね!」と前向きになれたのが再びちゃんと書き始めたきっかけです。
 受賞によって作家としての気持ちに変化したことはあまりないんじゃないかな? と今のところは感じています。
 ただ、もっと小説が上手になりたいので、そのためにはまずタイムマネジメントをしないといけないのと、あとはデスクのお掃除です。そこのところはうまくやらねば! と思っています。

――どうしてR-18文学賞に応募されたのでしょうか。
 受賞の言葉でも書かせていただいたのですが、「アップル・デイズ」に関しては女性に届いて欲しいとかなり強く思っていたので、「女性」を冠したこちらの文学賞はどうだろうと考えつきました。でも、もう一つの「R-18」の要素は「アップル・デイズ」には全く含まれていないので、何回もホームページの「R-18文学賞とは?」のところと「応募要項」を読み直しました。そこに「女性が持っている誰にも伝えられない感情、小説だからこそ語れる言葉の束をこれからも読ませていただきたいと思っています」と書かれているのを見たときに、やっぱりこちらに応募したいと感じました。

――小説のアイデアはどこから得るのでしょうか。
 映像の切れ端が見える感じです。それをどういうカメラワークで追っていくかを考える、というのが一番多い形です。
 他にはセリフの掛け合いを急に思いついて、そこから広げていくこともあります。

――受賞作の主人公の一人である塔子さんは山本さんと同世代の設定だと思いますが、ご自身を投影されたりしたことはありますか。また、娘や夫を想う気持ちや家族としての営みの描写にも、普段考えていることが表れていたりしますでしょうか。
 塔子さんは女子力が高いイメージで、どこかゆるっとしてふわっとして……自分の意見というより周りの価値観に左右されやすい方のような気がします。そこはあまり自分と似ていないです。私はどちらかというと我が強い方なので。
 でもお母さんという役割特有の、パートナーや子供にどう接するか悩んでいるところ、あと育児への不安なんかは同じだな、と思います。
 なので、塔子さんはママ友の一人のような感じでしょうか、「あー! ワカルワカル」って塔子さんの話を聞いている感覚が大きいかもしれません。「えー、あなたでもそんなふうに思うの~?」って握手するみたいな。
 だからキラちゃんと塔子さんの転勤族としての苦労も、私の実体験というよりも、実際に転勤族だったり、地元から離れて育児されていたりするお友達に沢山出会えたから書けた部分が大きかったです。
 みんな「毎日大変だよ」「くたくただよ」って笑いながら、ちゃんと育児と向き合っていて。だからしんどい部分もあるんですけれど、児童館や公園で子供を遊ばせながら、ママ友同士で少しだけ愚痴る……みたいなちょっとしたことが、ほんとうに明日への活力になるんです。そういう時間を一緒に重ねる相手がいたことで、紅子さんの存在に癒される塔子さんの気持ちに共感することができたのだと思います。

――受賞作には共感の声と同時に、続編を待ち望む声も大変多く寄せられているのですが、それについてはいかがお感じですか。
 それは、ほんとうですか? それなら嬉しいです!
 最近、高校生くらいになったキラちゃんと坂間くんが時々視界の端でちらちらしているんですけど……深く追いかけてはいないんです。今度追いかけてみます。

――では、その続編を含めまして、今後、どんな人に向けて、どのようなものを書いていきたいですか。
 こんなことを言ってはダメなんですけど、そういうことを今までちゃんと考えたことがなくて。でも、今回は伝えたい相手が決まっていたので、すごく書きやすかったんです。初めてそういうやり方もあるんだなって気づいたので、今後も挑戦したいなと思いました。
 楽しませてみたい相手は沢山いて、子供に対しても書いてみたいですし、男性も女性も。それと難しいかもしれませんが人生の先輩方に届くものも書けたらいいなぁと思います。何が書けるかっていうビジョンは全くないんですけれど。
 ただ誰に対しても共通して、読み終わってほっとしたり、幸せな気持ちになるものを目指したいと思います。また、一気に読めるような文章を書くことももっと極めていきたい部分です。読んでくださった方が、ハッと気づいたら数時間経っていたというのが夢です。そういう読書体験が私にとってはかなり幸せなことなので、読者さんにもそうなっていただけるように頑張りたいと思います。

 

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