受賞の言葉
父へ
お元気ですか。東京は雪です。私は今、わけあって家を捨て、台東区にある格安ホステルの独居房みたいな部屋で筆を執っています。借金取りやDV男から逃げているわけじゃないので心配には及びませんが、まぁ私もいい歳なので色々あるのです。
この度、私は栄誉ある賞を頂きました。読書家の貴方のことですから、きっと受賞作品を楽しんでくれているでしょう。天国にも書店があるなら、読めずに困ることもないでしょう。
ついでに告白すると、私も貴方がいなくて困った覚えが殆どありません。強いて言えば、父性を求めるせいか歴代の男全員もれなく初老ってことくらいです。
話を戻します。私は貴方を癌で亡くした中三の秋から今日まで、それこそ父のように教え、導となってくださる人々に恵まれてきました。筆を折ろうか、首を括ろうかと暗闇にいた時期もありましたが、再び光を授けてくれたのは、やはり「父のような人」でした。
お父さん、私が伝えたい真実はたったひとつです。
お父さん、私は「大丈夫」です。私は貴方がそうしてきたように、人を愛し、愛され、いくつもの「大丈夫」を積み重ねて、生きてゆきます。
今回の受賞作品も、そんな「大丈夫」のひとつです。いいでしょ?
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