女による女のためのR-18文学賞

新潮社

第21回受賞作品
受賞の言葉

王冠ロゴ 大賞受賞

上村裕香

「救われてんじゃねえよ」

上村裕香(かみむら・ゆたか)

2000年佐賀県佐賀市生まれ。京都芸術大学芸術学部在学中。趣味は道徳の教科書を読むこと、将棋観戦です。

受賞の言葉

沙智にとっての、その日の天使

 作家の中島らもさんが「その日の天使」というエッセイのなかで「一人の人間の一日には、必ず一人、『その日の天使』がついている」と書かれていました。少し長いですが、引用します。

心・技・体ともに絶好調のときには、これらの天使は、人には見えないもののようだ。
逆に、絶望的な気分に落ちているときには、この天使が一日に一人だけ、さしつかわされていることに、よく気づく。
こんなことがないだろうか。
暗い気持ちになって、冗談にでも、“今、自殺したら”などと考えているときに、
とんでもない知人から電話がかかってくる、あるいは、ふと開いた画集か何かの一葉の絵によって救われるようなことが。
それは、その日の天使なのである。
(中島らも『その日の天使(人生のエッセイ)』日本図書センター、二〇一〇年)

 本作「救われてんじゃねえよ」におけるその日の天使は、小島よしおです。
 絶望してどうしようもなくなったとき、真正面から向き合ってくれる大人は必ずしも救いにはならない。地獄から沙智を掬いあげられるのは、深夜の一発屋傑作選で「オッパッピー」って言っている半裸の大人かもしれない。そんな思いで書きました。
 もし面白いと思っていただけたなら、笑ってください。笑いで、救われることもあるでしょうから。