第23回受賞作品
受賞の言葉
大賞受賞

受賞の言葉
みのりといのり
数年前に書きかけてやめてしまったお話。まだ時機ではないんだな、そう諦め、いつか書きたいんだけどどうなんでしょうね、と思いながら、何年かがすぎた。そのあいだにも育児と介護はとぎれることなくつづく。ただし、年度がかわれば状況もかわる。ふいにぽっかりと空いた時間ができ、同時に、いまなら書けるかもしれないと思った。
手直しを終えてキーボードから手をおろした瞬間、「あれ? 終わっちゃった」「これを書けてよかったな」そんなふうに思った。じぶんのなかですとんとなにかの区切りがついたというのか、ずっと抱えていた荷物をおろしたような、はじめての感覚に、しばらくのあいだぼんやりした。錯覚かもしれないけど。
作業中、パルミジャニーノの「薔薇の聖母」をときどき眺めた。さいしょは聖母の柔和な表情にひきよせられるけども、たくみな視線誘導によってさいごにまじまじとみつめることになるのは幼子イエスの。
じぶんのなかでしずかに熟すのを待つタイプのお話。みのってしまえばひとりでにころがりおちてくるお話。そのあいだいっしょにいた家族にはとくに、ありがとう。
そして、選考にかかわったすべてのひとに。ほんとうにありがとうございました。