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疑心―隠蔽捜査3―

今野敏/著

781円(税込)

発売日:2012/01/30

  • 文庫
  • 電子書籍あり

不屈の警察官僚を描く超人気シリーズ第3弾。「来日する米大統領へのテロを阻止せよ!」第二方面警備本部本部長に抜擢された竜崎伸也の新たなる闘い。

アメリカ大統領の訪日が決定。大森署署長・竜崎伸也警視長は、羽田空港を含む第二方面警備本部本部長に抜擢された。やがて日本人がテロを企図しているという情報が入り、その双肩にさらなる重責がのしかかる。米シークレットサービスとの摩擦。そして、臨時に補佐を務める美しい女性キャリア・畠山美奈子へ抱いてしまった狂おしい恋心。竜崎は、この難局をいかにして乗り切るのか?

  • 受賞
    第2回 吉川英治文庫賞
  • テレビ化
    隠蔽捜査(2014年1月放映)

書誌情報

読み仮名 ギシンインペイソウサ03
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 432ページ
ISBN 978-4-10-132157-8
C-CODE 0193
整理番号 こ-42-53
ジャンル ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
定価 781円
電子書籍 価格 704円
電子書籍 配信開始日 2012/07/13

インタビュー/対談/エッセイ

快感原則を求めて

今野敏

シリーズ第一作『隠蔽捜査』で吉川英治文学新人賞、『果断―隠蔽捜査2―』で、山本周五郎賞・日本推理作家協会賞の二冠に輝いたベストセラーシリーズの第三弾『疑心―隠蔽捜査3―』が刊行されました。著者の今野敏氏に、シリーズの今後、新作の読みどころなどを伺いました。

――警察小説は、今野さんにとって、どんな位置をしめているのでしょうか?

今野 最初の小説の『ジャズ水滸伝』もそうですが、僕の小説には、登場人物が集団で動くというものが多いんですね。僕は、絶対的なヒーローよりも、組織対個人のかかわりとか、組織対組織の政治とかに興味があるのです。スーパーマンより、戦隊ものですね。そういうところを考えると、僕が組織で動く警察小説を書くようになったのは、必然かもしれません。

――では、「隠蔽捜査」シリーズは如何でしょうか?

今野 このシリーズが今まで書いてきた作品の中で特別だとすれば、キャラクターをうまく立てられたという点です。でも、竜崎というキャラクターは、僕にとって全く新しいタイプというわけではありません。このような人物は、今までも脇役として何度か作品に登場しています。ただ、このシリーズでは、刑事部長の伊丹のような周囲の人物を右往左往させることで、竜崎の性格を際立たせることができました。そこがうまくいったので、竜崎という個人のキャラクターもうまく立ったし、集団としての面白さも書けたと思います。
『隠蔽捜査』は、最初はシリーズになるなんて思っていませんでした。単に、官僚小説を書こうと思っていただけです。そして、主人公は警察官僚ではなくて、どこの官僚でもよかった。たまたま、警察のことを知っていたので警察を舞台にしたわけです。官僚小説として、『隠蔽捜査』で書きたかったのは、本音と建前を使い分けるのではなく、あくまでも建前で仕事をしていくという理想的な官僚の姿です。そうしたら、竜崎という、キャラクターの立った人物像が浮かびあがってきた。それで、二作目の『果断』も、ということになったのです。

――今野さんが、影響を受けた作家、よくお読みになった作家はどなたですか?

今野 中学校の頃よく読んでいたのは、北杜夫さんの作品です。おしゃれでユーモアがあって、医者でありながら作家といったところとかもふくめて、とても好きでした。この前、中学校時代に書いたノートを見つけたのですが、そこに書かれていた文章は、もろに北さんの影響をうけていました。そういった意味では、僕の根っ子には北さんの影響があるのかもしれません。
 その後は、やはり筒井康隆さんです。それから眉村卓さん、田中光二さん、平井和正さんといった方々のSFをよく読みました。

――SF好きだったんですね。

今野 ええ、デビューの時までは、好きなのはミステリーというよりは、SFだったのです。むしろミステリーは、プロになってから、勉強したという感じなんですよ。
 ミステリーというのは密室とかトリックとかがあって、必ず謎解きがなければいけないと思い込んでいたんです。デビュー十年目で、最初に書いた警察小説が、「安積警部補シリーズ」なんですが、書いたときには、この作品をミステリーと思っていなかったぐらいですから。僕にとって警察小説は、むしろミステリーとは、かけ離れた物語かもしれませんね。どちらかというと時代小説に近いという感覚かもしれません。時代小説には、色々な武将が色々な思いを持って行動するといった、一種の組織小説の側面がありますからね。そして、捕物帖は、刑事小説。日本で長い間、刑事小説が生まれなかったのは、池波正太郎さんの「鬼平犯科帳」シリーズがあったからだと思います。このシリーズで、読者が充足してしまっていたんで、他の小説は必要なかったんですね。

――今野さんが作品をお書きになるとき、特に意識なさっている点はありますか?

今野 そうですね、ラストをどうするかは、いつも意識して書いています。
 先日、小説教室に通っている人たちの作品を読む機会があったのですが、この人たちとは決定的に違うな、と思うところがありました。僕は、作品を書くときに、読んだときに何が気持いいのかという快感原則を探して書いています。これは、多分、自分自身が、小説を気持ちよく読みたいからなんですね。自分が読んだとき、ハッピーエンドじゃないといやなんです。
 ところが、小説教室の素人の人たちは、小説を読む気持ち良さより、問題意識を先にもってきてしまう。そうすると、作品が、偽悪的になったり、嫌な感じになったりする。そうすると、物語が重くなり、ラストが暗くなってしまうんですよ。僕は、作品を書くときには、どうやったら読者に、暗く重たいテーマでも気持ち良く読んでもらえるかということを、すごく意識しています。素人の人の作品を読んで、そこが、エンターテインメント作家として、この人たちと決定的に違うところだと改めて感じました。
 ただ、誤解がないように言っておきたいのですが、ロマン・ノワール、いわゆる暗黒小説が、小説として駄目だということではありません。でも、僕の作家としての役割は違うんですね。これまで、色々なジャンルの小説を書いてきましたが、作家としてそこだけは譲れないところです。気持ちよく読めるという、この部分がなくなってしまったら、今野敏ではないといってもいいぐらいな、僕にとって大事な部分だと思っています。

――今回の『疑心―隠蔽捜査3―』は、アメリカ大統領訪日の方面警備本部長を命じられた竜崎が、警察庁から派遣されてきた、秘書役の女性キャリアに心を動かされるという、読者にとっては、驚きの展開になっていますが?

今野 今回はちょっとした冒険をしてみました。どんなに頭が切れても優秀なキャリアでも、人間ですから、恋をすると愚かになる。その愚かさをちょっとみせたかったんです。第四作目ではきちっとした竜崎になるので、読者の皆さんはご安心ください(笑)。
 次作のストーリーは、どうなるか全く考えていませんが、とりあえず、また大森署が舞台になると思います。

(こんの・びん 作家)
波 2009年4月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

今野敏

コンノ・ビン

1955年北海道生まれ。上智大学在学中の1978年に「怪物が街にやってくる」で問題小説新人賞を受賞。レコード会社勤務を経て、執筆に専念する。2006年、『隠蔽捜査』で吉川英治文学新人賞を、2008年、『果断 隠蔽捜査2』で山本周五郎賞と日本推理作家協会賞を、2017年、「隠蔽捜査」シリーズで吉川英治文庫賞を受賞。2023年、ミステリー文学の発展に著しく寄与したとして日本ミステリー文学大賞を受賞。さまざまなタイプのエンターテインメントを手がけているが、警察小説の書き手としての評価も高い。近著に『トランパー 横浜みなとみらい署暴対係』『脈動』『遠火 警視庁強行犯係・樋口顕』など。

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