【DISC-I】花宴
光源氏二十歳の春。内裏紫宸殿の左近の桜を愛でて、花の宴が催された。漢詩にも舞にも長け輝くばかりの光源氏、藤壺は目を奪われながらも「あの罪さえなければ」と心乱れる。
一方光源氏は、藤壺への恋心を抑えられない。宴が果て月が空に浮かぶ頃、酔い心地も手伝って藤壺の御殿に忍び寄る。だが戸は隙も無く閉ざされて、彼は胸の火照りを持て余す。見れば向かいの弘徽殿の細殿に、戸口が一つ開いている。やおら上がり込むと、そこへ若く高貴な女が古歌を口ずさみながらやって来た。「朧月夜に似るものぞなき」。この歌により「朧月夜」と呼ばれる女君だ。浪漫に身を任せ、二人は一夜の関係を持つ。
「花宴」は、『源氏物語』中最も優艶な巻と言ってよい。大胆不敵で色好みの面目躍如たる光源氏、ささやき声で彼と知り、自ら身をゆだねる朧月夜の君。だが彼女の正体は、光源氏の敵対勢力右大臣家の六の君、つまり弘徽殿の女御の妹だった。光源氏の兄である東宮との縁談も進んでいるというのに、光源氏の魅力には抗えなかったのだ。
巻の終わりは右大臣家の藤の宴。光源氏は初めて彼女の素性を知る。危険な恋と分かりつつ、光源氏は捕らえた手を放さない。爛漫の桜と藤、おぼろ月、微酔と夢幻に彩られ、歌人藤原俊成をして「源氏見ざる歌よみは遺恨のことなり」と言わせた一巻である。
【DISC-I II III】葵
光源氏は二十二歳。父の桐壺帝が退位し兄の朱雀帝が即位してから、世の権勢は右大臣勢力に占められ、彼は鬱々とした日々を送っていた。そんな中、正妻の葵の上が懐妊。光源氏十二歳の元服時に結婚して以来初のことで、一家は喜びに沸く。
折りしも賀茂神社の祭りが盛大に行なわれ、光源氏はその御禊の行列に参加することとなった。彼を一目見ようと、大路は物見の車でひしめきあう。ところがその大衆の面前で、葵の上一行が光源氏の年来の愛人、六条御息所の車に乱暴、車を壊し見物の場所も奪うという事件が起こってしまった。この時の屈辱が引き金となり、御息所の心は平静を失い、やがて生霊となって葵の上に取り憑く。
この巻には、幾つもの名場面がある。既に述べた、一条大路でのいわゆる「車争い」の場面。また葵の上の難産の床、見守る光源氏の眼前に六条御息所の生霊が現れる場面。そしてどうにか出産を終えた葵の上が、光源氏と初めてしみじみと心を触れ合わせる場面。だがその直後、葵の上は死ぬ。これから夫婦らしい夫婦となろうという時に妻を喪い、光源氏が哀悼の涙に暮れる場面は、切々と胸を打つ。
そしてもう一つ大切なのが、成長した若紫との新枕の場面である。正妻の死と交代するように、『源氏物語』準主役紫の上が、いよいよ光源氏の妻としての人生を歩みだす。