沈める滝
605円(税込)
発売日:1963/12/09
- 文庫
恋愛は莫迦げたもの――城所昇はそう考えていた。
天性の美貌と優れた頭脳、祖父の遺産に恵まれた若きエリート、城所昇は、恋愛を虚妄と捉え、一夜限りの逢瀬を重ねてきた。だが人妻顕子との邂逅から、昇は新たな道へと足を踏み出す。豪雪に閉ざされるダム現場での越冬。交わしあう手紙。そして、顕子との再会の日が近づいてくる――。愛は人工的に創り得るかというテーマに挑んだ、三島文学上の重要作品。
書誌情報
読み仮名 | シズメルタキ |
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シリーズ名 | 新潮文庫 |
装幀 | Fancy/カバー写真、Veer/カバー写真、Corbis/カバー写真、Getty Images/カバー写真、新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 文庫 |
判型 | 新潮文庫 |
頁数 | 304ページ |
ISBN | 978-4-10-105011-9 |
C-CODE | 0193 |
整理番号 | み-3-11 |
ジャンル | 文芸作品 |
定価 | 605円 |
どういう本?
タイトロジー(タイトルを読む)
ここらはいずれ、ダムの完成と共に水底に沈む地域である。畑へ出た。痩せた土は貧しい大豆を育てていた。そのとき川ぞいの芒の草むらから、鶺鴒が低空を切って飛び翔った。
彼は川岸へ下りて、対岸の福島県の稜線のきびしい山々の肌を見た。頂きに近いあたりは斑らで、裾は密生した紅葉である。川は隆起した川床のために瀬をなして、ひときわ音高く流れている。
昇は音の所在を探した。瀬の音だけではなさそうである。見ると対岸の山の紅葉のかげに白いものが佇んでいる。滝が落ちていたのである。(本書70〜71ぺージ)
著者プロフィール
三島由紀夫
ミシマ・ユキオ
(1925-1970)東京生れ。本名、平岡公威(きみたけ)。1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。1949年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。主な著書に、1954年『潮騒』(新潮社文学賞)、1956年『金閣寺』(読売文学賞)、1965年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。1970年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される。