今月の表紙の筆蹟は、村上春樹さん。銅版画は、山本容子さん。
波 2024年10月号
(毎月27日発売)
発売日 | 2024/09/27 |
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JANコード | 4910068231048 |
定価 | 100円(税込) |
筒井康隆/新潮社とのおつきあい シリーズ第16回
阿川佐和子/やっぱり残るは食欲 第85回
【伊与原 新『藍を継ぐ海』刊行記念特集】
南沢奈央/科学の体温に触れて
[エッセイ]伊与原 新/孤島で千二百万年を思う
カーソン・マッカラーズ、村上春樹 訳 、山本容子 銅版画『哀しいカフェのバラード』
江國香織/物語がひらかれる
川村元気『私の馬』
高橋源一郎/馬と人と無と
燃え殻『愛と忘却の日々』
松尾スズキ/「俺は傘立てじゃないよ」
水村美苗『大使とその妻(上・下)』
尾崎真理子/失われた日本を求めて
安部公房、近藤一弥 編・デザイン『安部公房写真集―PHOTOWORKS BY KOBO ABE―』
ヤマザキマリ/見る者が抱く心象を突きつける写真
久栖博季『ウミガメを砕く』
星野智幸/自分のアイヌの時間が流れ始める
新田和長『アーティスト伝説―レコーディングスタジオで出会った天才たち―』
奥田英朗/羨ましくて悶絶する冒険小説のような武勇伝
スティーブン・レビツキー、ダニエル・ジブラット、濱野大道 訳『少数派の横暴―民主主義はいかにして奪われるか―』
待鳥聡史/立憲主義が民主主義の危機を招くという逆説
村田晃嗣『大統領たちの五〇年史―フォードからバイデンまで―』(新潮選書)
阿川尚之/九人の大統領から見えるアメリカの未来
【秋も新潮文庫!】
【フランツ・カフカ没後100年記念】
フランツ・カフカ、頭木弘樹 編訳『カフカ断片集―海辺の貝殻のようにうつろで、ひと足でふみつぶされそうだ―』
頭木弘樹/「わからない」がわからせてくれること
【特集 スター・クラシックス10周年】
新潮文庫編集部/名作は、何度でも生まれ変わる
【『マイブック』25周年記念】
大貫卓也 企画・デザイン『マイブック―2025年の記録―』
[インタビュー]鈴木おさむ/誰かを強烈に思う3分間
【私の好きな新潮文庫】
川本三郎/「荷風の昭和」のあとに読みたくなる三冊
永井荷風『ぼく東綺譚』
北 杜夫『楡家の人びと(第一部~第三部)』
吉行淳之介『原色の街・驟雨』
【今月の新潮文庫】
ヴァージニア・ウルフ、鴻巣友季子 訳『灯台へ』
鴻巣友季子/読む人びととしての『灯台へ』
【コラム】
桜林美佐『軍産複合体―自衛隊と防衛産業のリアル―』(新潮新書)
桜林美佐/戦争を避けるための儲からない仕事
[とんぼの本]編集室だより
三宅香帆/物語のふちでおしゃべり 最終回
三枝昴之・小澤 實/掌のうた
【連載】
杏/杏のパリ細うで繁盛記 第9回
中村うさぎ/老後破産の女王 第7回
エリイ(Chim↑Pom from Smappa!Group)/生時記 第26回
近藤ようこ 原作・梨木香歩/家守綺譚 第25回
梨木香歩/猫ヤナギ芽ぶく 第16回
古市憲寿/絶対に挫折しない世界史 第6回
三谷幸喜×ペリー荻野/もうひとつ、いいですか? 第6回
椎名 誠/こんな友だちがいた 第10回
坪木和久/天気のからくり 第14回
第23回 小林秀雄賞・新潮ドキュメント賞決定発表
編輯後記 いま話題の本 新刊案内 編集長から
立ち読み
編集長から
今月の表紙の筆蹟は、村上春樹さん。銅版画は、山本容子さん。
◎若い頃からの悪癖(?)に、作家の絶筆作品に対する偏愛があります。石川淳『蛇の歌』、開高健『花終る闇』、安部公房『飛ぶ男』、小林秀雄『正宗白鳥の作について』なんかを雑誌の追悼特集で面白がって読んでいたせいかも。やがて、この趣味が嵩じて、絶筆界の二大巨編を対象に、角田光代さんと芳川泰久さんの編訳『失われた時を求めて 全一冊』と佐藤優さんの『いま生きる「資本論」』を編集することになりました。
◎そんなことを思い出したのは、秋になり、この季節に海で泳ぐ快楽についての城山三郎さんの文章を読み返したから。城山さんは新人賞を受賞して間もなく、教鞭をとっていた大学を辞め、名古屋から湘南へ引越し、筆一本の生活に入ります。毎日、早朝からの執筆後、海に行き、「泳ぐだけではなお物足りず、海獣のように、海の中で、思うぞんぶん体を廻したり、潜ったり」。そして「秋の海の、最初は反発しながら、徐々にこちらに親しんで、やがては媚びてくるような、不思議な温かみが気持よかった」。濡れた体で家に戻ると、妻が食事を仕度して、幼い息子の出来事を話す。午睡の後、深夜まで執筆を続けて……。読んでいるこちらも秋の海で泳ぎたくなるような、若い作家の瑞々しい歓びの日々が伝わる文章。
◎右は先立たれた容子夫人をめぐる回想録『そうか、もう君はいないのか』の一節ですが、城山さんは最晩年の約六年、この作品にかかりきりでした。畏怖すべきは、亡き愛妻への思いを只管書き継いで、この作家が追求してきた〈余生をいかに燃焼し尽くすか〉〈遺された者の哀しみ〉というテーマを体現してみせたこと。数々の絶筆作品の中でも最も切ない断弦の響きが残ります。
▽次号の刊行は十月二十九日です。
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雑誌から生まれた本
波とは?
1967(昭和42)年1月、わずか24ページ、定価10円の季刊誌として「波」は誕生しました。新潮社の毎月の単行本の刊行数が10冊に満たず、新潮文庫の刊行も5冊前後という時代でした。こののち1969年に隔月刊に、1972年3月号からは月刊誌となりました。現在も続く「表紙の筆蹟」は、第5号にあたる1968年春季号の川端康成氏の書「風雨」からスタートしています。
創刊号の目次を覗いてみると、巻頭がインタビュー「作家の秘密」で、新作『白きたおやかな峰』を刊行したばかりの北杜夫氏。そして福田恆存氏のエッセイがあって、続く「最近の一冊」では小林秀雄、福原麟太郎、円地文子、野間宏、中島河太郎、吉田秀和、原卓也といった顔触れが執筆しています。次は大江健三郎氏のエッセイで、続いての「ブックガイド」欄では、江藤淳氏がカポーティの『冷血』を、小松伸六氏が有吉佐和子氏の『華岡青洲の妻』を論評しています。
創刊から55年を越え、2023(令和5)年4月号で通巻640号を迎えました。〈本好き〉のためのブックガイド誌としての情報発信はもちろんのことですが、「波」連載からは数々のベストセラーが誕生しています。安部公房『笑う月』、遠藤周作『イエスの生涯』、三浦哲郎『木馬の騎手』、山口瞳『居酒屋兆治』、藤沢周平『本所しぐれ町物語』、井上ひさし『私家版 日本語文法』、大江健三郎『小説のたくらみ、知の楽しみ』、池波正太郎『原っぱ』、小林信彦『おかしな男 渥美清』、阿川弘之『食味風々録』、櫻井よしこ『何があっても大丈夫』、椎名誠『ぼくがいま、死について思うこと』、橘玲『言ってはいけない』、ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』、土井善晴『一汁一菜でよいと至るまで』などなど。
現在ではページ数も増えて128ページ(時には144ページ)、定価は100円(税込)となりました。お得な定期購読も用意しております。
これからも、ひとところにとどまらず、新しい試みを続けながら、読書界・文学界の最新の「波」を読者の方々にご紹介していきたいと思っています。