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トットあした

黒柳徹子/著

1,760円(税込)

発売日:2025/06/26

  • 書籍
  • 電子書籍あり

トットはあの人達からこんな言葉を受け取って、生きる支えにしてきた──。

「あなたの、そのままが、いいんです!」──向田邦子、渥美清、沢村貞子、永六輔、久米宏、飯沢匡、トモエ学園の小林校長、そして父……幼い頃から人生のさまざまな場面で、徹子さんが大切に受け取り、励まされてきた「二十四の名言」。そんなかけがえのない言葉たちで新たに半生を辿り直した待望の書下ろし長篇エッセイ!

目次

少しだけ、長いまえがき――ふたつの言葉について

1「きみは、本当は、いい子なんだよ!」
小林宗作さん

2「直すんじゃ、ありませんよ。あなたの、そのままが、いいんです!」
飯沢 匡さん

3「あの戦争で、小さな子どもまで含めて、誰もが傷ついたのだと知りました」
かつての兵隊さん

4「君は、とても、元気だね」
もうひとりの兵隊さん

5「かくれていても、解決しないよ」

6「普通の眼には見えないもののためにも心を痛める」
チェーホフさん

7「なんで白と黒なんですか?」
パンダ好きの子どもたち

8「次に来る時は、それ、おみやげね」
伯母

9「いや、今がいちばん幸せなんだよ」
永 六輔さん

10「一緒に思い出話をできる相手が一人もいないって、きっと、すごくさびしいことだよ」
小沢昭一さん

11「幸せと災いは、かわりばんこに来るの」
向田邦子さん

12「あなたがおばあさんになるのを、私は楽しみにしているのよ」
向田邦子さん

13「忍耐力があったこと。目がよかったこと。そして、女であったこと」
リリイ・スタンズィさん

14「修練と勇気、あとはゴミ」
マリア・カラスさん

15「泣くときは、一人で、河原に行って泣け」
近江浩一さん

16「黒柳さんが泣いていますから、もうやめてくださいね」
久米 宏さん

17「自分の子どもが見て恥ずかしい番組だけは作りたくない」
山田修爾さん

18「僕は大丈夫だから、あなたは早く行きなさい」
アラン・ドロンさん

19「息子のジャックが恋人を連れてきて、私のベッドの下で、半日、ささやきあってるの」
森 茉莉さん

20「人間ってね、一生懸命やると、後悔しないものよ」
沢村貞子さん

21「自分のイメージをしっかり持って、もっともっと、想像力を働かせるの!」
メリー・ターサイさん

22「あなたのお幸せを祈っています」
インドで出会った男の子

23「お嬢さんはいつも、元気でいてください」
渥美 清さん

24「自分の選んだ道ですもの」
杉村春子さん

書誌情報

読み仮名 トットアシタ
装幀 新潮社写真部/装幀写真、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-355008-2
C-CODE 0095
ジャンル エッセー・随筆、ノンフィクション
定価 1,760円
電子書籍 価格 1,760円
電子書籍 配信開始日 2025/06/26

書評

受け取った「言葉」を繋いでいく

南沢奈央

 わたしは「言葉」が大好物だ。読書をしていて、人と会話をしていて、良い言葉に出会うと、ノートに書き留めている。
 本を読んでいるときなんかは、わたしは良い言葉を収集したくて本を開いているんじゃないかと、最近、人へ本を勧めていて気が付いた。さぁ本のことを説明しようと内容を思い出そうとすると、真っ先に出るのが、あらすじよりも言葉だったりすることがあるのだ。「こんな場面にこんな言葉があって!」とか、「文章が好きだった」、「この表現が刺さった」など、言葉にまつわることを熱弁してしまう。
 これまで「言葉」にどれだけ救われてきたのだろう。言葉は色褪せない、とよく聞く表現を使うのは悔しいけれど、つくづく思う。不安になったとき、その瞬間に言葉に出会わなくてもいい。かつて読んだ/かけてもらった言葉を目にする、口に出してみるだけで奮い立たされる。一度出会えば、一生の宝になり、鎧になり、コンパスになる。それが言葉だ。
〈書いておけば、そんな言葉が、私以外の誰かのためにも、いつか役立つことがあるかもしれないし、そんな言葉を私にかけてくれた人たちのことだって、誰かが記憶にとどめておいてくれるかもしれないのだから〉
 そんなふうに、黒柳徹子さんが人生の中で出会い、生きる支えにしてきた言葉たちを披露してくれたのが本書だ。“披露”というワードを使ったのは、読んだとき、あぁ徹子さん(親しみを込めて下の名前で呼ばせてください……!)、深いところまでさらけ出してくださっているなぁ、という印象を受けたからだ。言葉をとっかかりに半生を振り返りながらも、自分を形成するもの=言葉を解体して、見せてくださっている。お会いしたことがないのに、勝手ながら、徹子さんの人柄、感性、仕事に対する姿勢や考えを理解したような気になっている。
 徹子さんの半生を追うだけでも、充分に読み応えのあるエッセイとなっている。小学校、自由な校風のトモエ学園時代から始まり、〈子どもに絵本を上手に読んであげるお母さん〉になりたいというところからNHKに入ったとき、テレビ女優第一号としてデビューしたとき、「夢であいましょう」などの人気番組に出演していたとき、文学座に入ろうか考えていたとき、ニューヨークへ留学したとき、「ザ・ベストテン」の立ち上げのとき――などなど、非常に興味深い、“芸能史”とも言える時代ごとの裏話が楽しく綴られている。
 これらは、人からもらった「言葉」にまつわる逸話の数々。本書は、逸話の根底に「言葉」がある。そして、「言葉」があるということは、「人」がいる。徹子さんと関わったまさにその「人」が、主人公のように立って登場する。永六輔さん、向田邦子さん、小沢昭一さん、渥美清さん、杉村春子さん、沢村貞子さん、ケストナーさん、アラン・ドロンさんといった、今は亡き偉大な方々がここでは生きている。他にも仕事の面で欠かすことのできなかった存在、ディレクターやプロデューサー、演劇学校主宰者。さらに肩書など関係なく出会った、学校の校長、兵隊さん、パンダ好きの子どもたち、伯母、父、といった存在も愛をもって描き出す。
 毎日のようにマンションに通って何時間もおしゃべりしていたという向田邦子さんの「幸せと災いは、かわりばんこに来るの」とか、徹子さんが舞台で芝居をする上でのモットーにしているマリア・カラスさんの「修練と勇気、あとはゴミ」(オペラ歌手にとって必要なものを問われたときの答え)、「ザ・ベストテン」で固い信頼関係のあったプロデューサー・山田修爾さんの「自分の子どもが見て恥ずかしい番組だけは作りたくない」――。わたしの人生においても指針になりそうな言葉が詰まっていた。
 徹子さんが誰かの言葉に励まされ、救われ、支えられたように、本書をきっかけに、徹子さんの言葉で心動かされる人が多いはず。わたしもついつい書き留めて、心に置いておきたいと思った徹子さん自身の言葉とたくさん出会うことができた。
〈何歳になっても、何度やっても、舞台に立つのは、いつだって怖いことだ〉には、徹子さんもそうなら大丈夫と背中を押され、〈ニューヨークでいろんなすぐれた俳優を間近で見て、やっぱり何より大事なのは、人間味なんだ、いかにいい人間であるかなんだ〉には、あぁ自分はまだまだ、そして徹子さんのように90歳過ぎても現役でいたい! と奮い立たされた。
 植物が水を吸い上げて成長していくように、人の心は言葉で育つ。何となくそうなのではないかと思っていたことが、確信に変わった。だから一生、言葉に触れていきたい、言葉を集めていかねば。そう、生き方も定まるような一冊だった。

(みなみさわ・なお 俳優)

波 2025年7月号より
単行本刊行時掲載

心のなかの湖

窪美澄

この唯一無二の女性が受け取ってきた「あの人たちの言葉」で半生をふり返る、待望の書下ろし自叙伝を読む――

 あの日、あのときの言葉が自分を生かしてくれた、あの言葉があったから自分は自分の人生を生きることができた。そんな宝物のような言葉を、人は誰しも抱えて生きていると思う。
「きみは、本当は、いい子なんだよ!」
 この言葉を耳にした方も多いだろう。トモエ学園校長の小林宗作先生が幼い黒柳さんに伝えた言葉だ。「先生のおかげで(略)私は自信を持って大人になれたように思っている」と黒柳さんが書かれているとおり、この言葉は彼女を生かし、黒柳徹子という唯一無二の存在を形づくった。
『トットあした』には総勢二十三名の方々による「ささやかで、ごく個人的な、そんな言葉」がちりばめられている。小林先生をはじめ、放送作家の永六輔さん、俳優の小沢昭一さん、作家の向田邦子さん、森茉莉さん……有名人ばかりではない、パンダ好きの子どもたち、そして、インドで出会った男の子まで、と多岐にわたる。
 どの言葉も素晴らしい。それ以上に改めて強く感じるのは、黒柳さんの感受性のとびきりのみずみずしさだ。言葉は放つほうの力の大きさだけでなく、聞き手のなかに静かな湖のような受容器がないと、決して響くことがないし意味をなさない。黒柳さんの心のなかにある湖はきっと誰よりも透明で、投げられたのがどんなに小さな石であっても、それは大きな波紋を描いて、奥深くに静かに沈んでいくのだろう。
 印象深い言葉はたくさんあったが、例えば向田邦子さんの「幸せと災いは、かわりばんこに来るの」という言葉は、直木賞を受賞後に飛行機事故で亡くなった向田さんの人生を思うと、胸がつまった。そして、六十歳になってから写真学校に入り、プロの写真家になったリリイ・スタンズィさんの「忍耐力があったこと。目がよかったこと。そして、女であったこと」という言葉。彼女の生き方と共に力をもらえる女性も多いのではないか。
 本からの言葉もある。幼少期、黒柳さんが結核性股関節炎での入院中に、夢中になって読んだというチェーホフの「兄への手紙」のなかにある「(教養がある人間は)普通の眼には見えないもののためにも心を痛める」という一節。長く人生を生きてきた人間として背筋が伸びる思いがした。
 それでも、宝石のような言葉が並ぶこの本のなかで、私がいちばん印象に残ったのは黒柳さんご自身の言葉だ。それは黒柳さんが三十八歳のときにニューヨークに留学し、通った演劇学校の主宰者、メリー・ターサイさんの項にあった。
「……そして、人間が――特に女性が――、生きていくのはとてもつらいことなんだ、深く傷つかずに、気も狂わずに、自殺を考えることもなく生きていくってことは、大変な事業なんだな、と知った」
 黒柳さんが何を見て、このように考えたのか、それについて、詳しくは書かれてはいないが、黒柳さんがニューヨークに行った三十八歳、という年齢は、女性にとって大きなターニングポイントになる年なのではないか。仕事、結婚、妊娠、出産。令和の今になってもなお、どちらを向いても、どれを選んでも、強い光のそばに濃い影がある。自分自身の人生を振り返ってみても、その頃、本当にいろいろなことがあった。私はまだ小説家でもなく、離婚の危機に直面していて、ライターを生業とする自分ひとりの力で子どもを大学に行かせることができるだろうか、と布団のなかでピーピー泣くような人間だった。その年齢になってもまだ自分の人生を歩んでいない、という自信のなさしかなかった。
 テレビジョンという未知のメディアの草創期からそのキャリアをスタートさせ、「女性は結婚したら家に入り、子どもを産む」という価値観が当たり前だった時代を生きた、黒柳徹子という一人の女性の生に、痛みや傷がなかったはずがない。けれど、黒柳さんはこんなに大変だった、こんなに苦労した、とは書かずに、「この言葉があったから生きてこられた」と綴る。その姿勢があったからこそ、黒柳さんは誰にも真似のできない人生を生き、着実にキャリアを積みあげて来られたのではないか。
 今、人の生き方は多様性に満ちて、自由度が高まっているように見えるけれど、そこから「自分だけの人生を見つけ、それに心血を注いで生きる」ことは、より困難が伴うことになってはいないだろうか、と思うことがある。それでも人生に迷ったらこの本を開いてほしい。『トットあした』にちりばめられた言葉は、自分だけの人生を模索する人たちにとって、大きなインスピレーションの源泉になるに違いない。

(くぼ・みすみ 作家)

波 2025年7月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

黒柳徹子

クロヤナギ・テツコ

東京乃木坂生れ。東京音楽大学声楽科卒。NHK放送劇団に入団、NHK専属のテレビ女優第一号となる。文学座研究所、ニューヨークの演劇学校で学び、テレビ、ラジオ、舞台女優として活躍。また、ユニセフ親善大使、トット基金理事長を務め、長年にわたり活動を続ける。著書は、ベストセラー『窓ぎわのトットちゃん』をはじめ『トットの欠落帖』『小さいときから考えてきたこと』『新版 トットチャンネル』『トットひとり』など。

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