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日本帝国海軍の夢と野望を賭けた不沈の戦艦「武蔵」――。

戦艦武蔵

吉村昭/著

605円(税込)

本の仕様

発売日:1971/08/17

読み仮名 センカンムサシ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-111701-0
C-CODE 0193
整理番号 よ-5-1
ジャンル 文学・評論、ノンフィクション
定価 605円
電子書籍 価格 572円
電子書籍 配信開始日 2012/09/01

厖大な人命と物資をただ浪費するために、人間が狂気的なエネルギーを注いだ戦争の本質とは何か? 非論理的“愚行”に驀進した“人間”の内部にひそむ奇怪さとはどういうものか? 本書は戦争の神話的象徴である「武蔵」の極秘の建造から壮絶な終焉までを克明に綴り、壮大な劇の全貌を明らかにした記録文学の大作である。

著者プロフィール

吉村昭 ヨシムラ・アキラ

(1927-2006)東京・日暮里生れ。学習院大学中退。1966(昭和41)年『星への旅』で太宰治賞を受賞。同年発表の『戦艦武蔵』で記録文学に新境地を拓き、同作品や『関東大震災』などにより、1973年菊池寛賞を受賞。以来、現場、証言、史料を周到に取材し、緻密に構成した多彩な記録文学、歴史文学の長編作品を次々に発表した。主な作品に『ふぉん・しいほるとの娘』(吉川英治文学賞)、『冷い夏、熱い夏』(毎日芸術賞)、『破獄』(読売文学賞、芸術選奨文部大臣賞)、『天狗争乱』(大佛次郎賞)等がある。

書評

波 2005年8月号より 【「特集 戦後60年を読む」】 すぐれた戦争文学は批評として生き続ける  戦後六十年に読む 『ビルマの竪琴』と『戦艦武蔵』(新潮文庫)

関川夏央

 ビルマのアラカン山脈深く分け入り、インド東端アッサム地方の制圧を試みた「野心的」インパール作戦が一九四四年七月に潰えたのは必然だった。英軍に追われた日本軍は「白骨街道」を敗走、一部はダウナ山脈を越えてタイ領をめざした。
そんな彷徨の途中、ある小隊は山岳民族の村でもてなされた。音楽学校出身の若い隊長のもと、「うたう部隊」と呼ばれた兵隊たちは合唱でそれにこたえた。彼らは、「からたちの花」「野ばら」「荒城の月」それから一高寮歌などを好んで歌った。
心くつろぐ宴だった。しかし、ふと気づけば村人の姿はない。英軍に通報して逃げ去ったのである。隊長は、合唱をつづけながら敵に備えるよう命じた。村の広場に最後に残された爆薬運搬車の上には手製の竪琴を弾く兵隊を載せ、「埴生の宿」「庭の千草」を歌いつつ「遮蔽」した。
銃撃戦を覚悟したそのとき、森から突然「埴生の宿」の歌声が聞こえてきた。それは「ホーム・スイート・ホーム」であった。また別の声が「庭の千草」を歌った。それは「ザ・ラスト・ローズ・オブ・サマー」であった。
やがて敵味方相和す合唱となった。ときはすでに四五年八月、出現した英軍に停戦を知らされた小隊は、犠牲者を出すことなく捕虜となった。
竹山道雄は一九三○年、二十六歳のときから一高の教師をつとめていた。戦況の不利が明白となった四三年秋以後、教え子たちはつぎつぎと出征した。そして、ある者は太平洋で、ある者は沖縄で死んだ。竹山道雄は心から青年たちを悼んだ。
しかし戦後、日本の空気は劇的に変転した。マスコミは、「戦った人はたれもかれも一律に悪人」というような論調であふれた。戦死した学生の面影を宿した水島上等兵を僧形にかえてビルマにとどまらせ、「雪のつむ高山から南十字星のかがやく磯のほとりまで」戦死者を葬う旅をつづけさせた『ビルマの竪琴』は、「戦後」に対する竹山道雄の強い違和の念から書かれた。
吉村昭は『戦艦武蔵』で、造艦技術者たちの苦心と情熱とをたんねんにえがいた。
「熱いものが、頬にあふれた。巨大な城がすべって行く。それは、一つの生き物だった。尾部が海面に突っ込むと、はげしい水飛沫が上った」(『戦艦武蔵』)
フルロードで七万一一○○トン、世界一の軍艦「武蔵」が進水した瞬間である。長崎港内の水位は上がり、一メートル二○センチの津波となって沿岸の家々の畳を洗った。しかし住民たちは秘密保持のために表へ出ることをさしとめられた。
「(技術者たちは)海面に濡れた眼を向けた。毎日見上げていた船体だったが、その全容をながめるのは、初めてであった。大きかった。設計図で想像していたものより、四倍も五倍も大きな船体だった」(同前)
「武蔵」の大きさを最後に技術者は実感することができた。が、「総力戦」の巨大な全体像を把握し得た者は、指導者中に誰もいなかったのである。日本近代の達成を体現したはずの「武蔵」自身も、四四年十月、ただ一度の戦い、それも艦隊決戦ではなく航空機群の攻撃によってシブヤン海に沈んだ。「武蔵」の「現役生活」に三割以下のページしか割かなかった吉村昭は、人間の全エネルギーを注ぎこんだ戦争という「壮大な徒労」を、その方法によってきわだたせた。
第一次大戦中のクリスマス、戦場で対峙した英独両軍の間に歌の交歓があった。その挿話から『ビルマの竪琴』の物語を発想した竹山道雄は、最初中国戦線を考えた。しかし日本人には中国人と共有する歌がない。やむを得ず相手は英軍、戦場はビルマとした。海軍とその造艦技術の故郷もまた英国であった。すなわち今次大戦、日本はみずからの近代のなりたちと戦い、敗れたのである。その意味では自壊であった。
戦後六○年という。たしかにこの六○年間日本は平和をたのしんだ。しかし、それはおもに「冷戦下の平和」にすぎず、日本はいわば「負けに乗じて」成功したのである。総力戦はもはや行なわれなくとも、局地戦とテロにかたちをかえ、人間はやはり全精力を傾けてそれに熱中する。そこに「合唱」の介入する余地はない。人間とは不思議な生き物である。すぐれた戦争文学は、たんに「歴史的記憶」にとどまらず、現代と現代人に対する有効な批評として生きつづけざるを得ない。

(せきかわ・なつお 作家)

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