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女信長

佐藤賢一/著

979円(税込)

発売日:2012/09/28

  • 文庫
  • 電子書籍あり

TVドラマ化! 織田信長は、女であるがゆえ、覇王となった。

群雄を次々と打ち破り、覇王となった織田信長。だが“彼”には大いなる秘密があった。女に生れるも、父にその才を見込まれ、嫡男として育てられたのだ。知るのは近親と臣下のごく一部のみ。大胆な人材登用、新たな戦法の採用、楽市楽座、それらは全て女ならではの発想によるものだった。猛将・知将との隠された恋、そして本能寺の真相。驚天動地──新たな戦国絵巻が紐解かれる。

  • テレビ化
    女信長(2013年4月放映)
目次
序章 斎藤山城道三、富田の寺内正徳寺まで罷出づべく候間
第一章 御敵今川義元は四万五千引率し
第二章 江北浅井備前手の反覆の由
第三章 明智が者と見え申候
終章 徳川家康公、和泉の堺にて信長公御生害の由承り
解説 井家上隆幸

書誌情報

読み仮名 オンナノブナガ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 656ページ
ISBN 978-4-10-112533-6
C-CODE 0193
整理番号 さ-47-3
ジャンル 歴史・時代小説、文学賞受賞作家
定価 979円
電子書籍 価格 979円
電子書籍 配信開始日 2021/02/12

書評

波 2012年10月号より 奇想が照らし出す歴史の一面

重里徹也

歴史小説の楽しみの一つは、権力をめぐってさまざまな光景が見られることだ。
人はどのようにして権力を握るのか。どのような人物が政治を牛耳ることができ、それは歴史に何をもたらすのか。計算や義理や感情は、その時にどう働くのか。他者を従わせる正統性を維持するには何が必要なのか。その過程で暴力はどのように行使されるのか。そもそも権力の正体とは一体、何なのか。
歴史をフィクションを通して眺めると、自ずと権力のあり方について考えを深めることになる。たとえば、司馬遼太郎の多くの小説が権力の姿を追究する面白さをもたらしてくれることを思い出せばいい。
司馬の小説では登場人物の内面が作者の歴史観を描き出すことが多い。その時に、人物の個性と歴史状況との濃密な絡み合いが重要な要素になる。源義経はなぜ、頼朝に嫌われたのか。斎藤道三のどのような性格が権力を奪取することにつながったのか。高杉晋作は藩内でどのように立ち回って闘争を続けたのか。それぞれの肖像が、実は司馬の歴史認識と深くかかわっているのだ。
佐藤賢一もしきりに歴史観の記述と登場人物の生々しい描写を結びつけようとする作家だ。彼の小説では、容姿のコンプレックスや父子のあつれきが、当時の社会状況と巧みに重ねられている。
初めて、日本史における権力闘争を長篇小説で描いた『女信長』もそのような面白さが味わえる力作だ。ただ、佐藤はこの作品できわめて大胆な奇想で主人公の肖像を造形した。そう、織田信長は女性だったというのである。
この奇想は単なる思いつきにとどまらず、さまざまに歴史を考える補助線になっている。総じて織田信長とは不思議な存在だ。日本の歴史を見渡しても、際立って目立つ。旧来の常識を打ち破り、まったく新しい価値観によって天下統一への道筋を切り開いた人物だ。そのため、日本の社会が閉塞状態に陥るたびに注目される。
この新しさを信長が女だったからだ、と解釈するのが佐藤作品だ。鉄砲や長い槍の効果的な活用、一人でなく集団による戦術、随所に見せる合理的な出処進退、楽市楽座に象徴的な民の心への深い理解。それらは信長が女性だったから可能になったというのだ。
きわめつきは南蛮由来の兵制の導入だ。イスパニヤにならって、兵士たちを土地から切り離し、城下に住まわせて金銭を払う制度は、異様なほど土地に執着する男には無理だという。土地の代わりに名誉(地位)を与え、常備軍として年中、戦えるようにする。なるほど、すべて合理的に割り切られている。
信長は女性だったという設定は、信長という人物の特質を照らし出し、この時代に何が必要とされていたか、佐藤の歴史観をくっきりと示すようなのだ。
『女信長』には合戦シーンは多くない。逆に、登場人物たちの対話が多用される。信長と斎藤道三、信長と柴田勝家、信長と羽柴秀吉、信長と明智光秀。いずれも面白いが、特筆すべきは信長と「妻」の御濃(帰蝶)との会話だろう。
すぐれた歴史小説では、登場人物たちの会話が政治の真実に迫る。この人の世の成り立ちや組織のあり方や人間という動物の本質を浮き彫りにしていく。女性の信長は普段は「御長」という名の侍女として、御濃に仕えている。二人きりで語り合う機会は多く、この対話を通して、信長も読者も考えを深め、世界のあり様を見据えていくことになる。
この小説を読みながら、しきりに思い返されたのは源義経のことだった。彼の合理的な戦術や目的に一直線に進む姿勢は、思えば男性社会における常識破りで、女性的ともいえるかもしれない。古来、義経女性説が面白おかしく語られるのも、そんなところにも理由があるのではないだろうか。
女信長の活躍や苦悩は、現代女性たちの颯爽とした姿ともダブる部分があるように思う。佐藤独特の口語的な文章で、この権力者の姿は随分と親しみやすいものになっている。

(しげさと・てつや 毎日新聞論説委員)

著者プロフィール

佐藤賢一

サトウ・ケンイチ

1968(昭和43)年、山形県鶴岡市生れ。東北大学大学院でフランス中世史を専攻する。1993(平成5)年、『ジャガーになった男』で、小説すばる新人賞を受賞。1999年、『王妃の離婚』で直木賞を受賞。2014年、『小説フランス革命」で毎日出版文化賞特別賞を受賞する。2020(令和2)年、『ナポレオン』全3巻で司馬遼太郎賞を受賞。2023年、『チャンバラ』で中央公論文芸賞を受賞する。『傭兵ピエール』『双頭の鷲』『二人のガスコン』『オクシタニア』『カポネ』『女信長』『新徴組』『ラ・ミッション 軍事顧問ブリュネ』『ファイト』『遺訓』『最終飛行』など、多数の著書がある。

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文学賞受賞作家
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