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地方で生まれた僕たちは、光を探して必死にもがく。R-18文学賞受賞の青春群像劇。

  • 受賞第11回 R-18文学賞

負け逃げ

こざわたまこ/著

680円(税込)

本の仕様

発売日:2018/04/01

読み仮名 マケニゲ
装幀 またよし/カバー装画、新潮社装幀室/デザイン
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-121321-7
C-CODE 0193
整理番号 こ-65-1
ジャンル 文芸作品
定価 680円
電子書籍 価格 680円
電子書籍 配信開始日 2018/09/21

国道沿いのラブホテルのネオンだけが夜を照らす村を、自転車で爆走する高校生の田上。ある晩ラブホ帰りの同級生、野口と遭遇した。足が不自由な彼女は“復讐”のため、村中の男と寝るという。田上は協力を申し出るが……。出会い系、不倫、家庭崩壊、諦めながら見る将来の夢。地方に生まれた全ての人が、そこを出る理由も、出ない理由も持っている。光を探して必死にもがく、青春疾走群像劇。

著者プロフィール

こざわたまこ コザワ・タマコ

1986(昭和61)年、福島県原町市(現・南相馬市原町区)生れ。専修大学文学部卒。2012(平成24)年「僕の災い」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞し、デビュー。2015年、同作を収録した連作短編集『負け逃げ』を刊行。初めての単行本となる。

書評

けもの道を全力で走り出す

窪美澄

 地方都市の鬱屈、というのは、2010年前後の小説や映画などでくり返し描かれてきた風景でもある。小説では、山内マリコ氏の『ここは退屈迎えに来て』(幻冬舎)、富田克也監督の『サウダーヂ』、入江悠監督の『SR サイタマノラッパー』シリーズといった映画で、私はその鬱屈の数々を見た。
 第十一回女による女のためのR-18文学賞で読者賞を受賞し、このたびデビューされた、こざわたまこさんの『負け逃げ』には、その鬱屈がさらに濃縮された風景が、圧倒的な筆力で描写されている。
「この村は、周囲を山に取り囲まれた盆地にある。さらに、南半分が人の住む町と田畑、北半分がタヌキやらイノシシが棲む里山といくつかの小さな集落でできていて、真ん中には、山と人とを分かつように一本の川が流れている。」
 作家のデビュー作には、自分が生まれた場所が色濃く反映されることが多いと思う。この作品で描かれる村の景色は、彼女が生まれ育った場所なのだろう、と思わせるほど、リアリティーに満ちている。そこで生まれ、育つ少年・少女たち。そして、その親も、そのまた親も、その土地の持つ鬱屈に足をとられ、もがいている。
 大人たちは、一度、村を離れて都会に出て行ったかもしれない。その後、再び、ここに戻ってきたのかもしれない。どんな事情があるにせよ、今は、ここで暮らすと決めた人たちだ。けれど、登場する少年・少女たちは、大学受験を前にして、いつかはここを出て行くかもしれないという期待と、もしかしたら出て行けないかもしれないという絶望の間で揺れ動いている。
 物語を牽引するのは、野口という一人の少女である。彼女は足が不自由だ。彼女は誰よりもここから出て行けない少女でもある。彼女はその代わり、不特定多数の男たちと寝る。それを偶然にも知ってしまう田上たうえという少年との交流から、この物語はスタートする。
 少年・少女の鬱屈は高校のクラス内カーストによっても濃縮される。皆から疎まれながらも、漫画を描き続ける美輝ちゃん。引きこもりの末に、家を出て行ってしまった兄を持つ小林君。この村で暮らしていくことに翻弄されるのは少年・少女ばかりではない。生徒たちを指導する教師でありながら不倫関係に陥るヒデジと志村先生も、その現実の息苦しさに翻弄され、この村を出ようとする。少年・少女たちはすべてわかっている。そんな大人たちの嘘や欺瞞を。それを抱えたままで、なぜ大人たちがここにいるのか。その描写がこの物語をより重層的に、奥行きのあるものにしている。
 自分が生まれ育った場所というのは、ほんとうに自分をいつでも温かく受け入れてくれる場所だろうか? そこに偶然に生まれただけで、自分にとってほんとうに大切な場所だといえるだろうか? 近親憎悪のように、近づいた分だけ離れたくなり、遠くなりすぎればちょっとだけ近づきたくなる。そんな場所ではないか。
 こざわさんは福島県、南相馬市のご出身と聞いた。震災、原発事故以降、カッコ付きの特別な場所として語られることが多くなってしまったご自身の故郷の存在が、土地の磁場に左右される人間たちを描くこの作品の強力な動機になったのではないだろうか。
 そんなにいやなら出て行けばいい。読みながらそうも感じる。けれど、それができるのは、車と金を持ち自分の足で動ける大人だけ、ということに気づく。ましてや、足の不自由な野口はどうだろう。MDウォークマンで常に音楽を聴き、時に野口に翻弄される田上でなくても、「アイワナビーデストロ~~~イ」と叫びたくなるだろう。
 けれど、その鬱屈の泡がはじけ飛んだとき、少年・少女たちは暗いけもの道を全速力で走り出す。不自由な足でスキップする。それが他人から見て、とても奇妙な動きに見えても。走り出したとしても、その先に光があるかどうかはわからない。こざわさんは、それを、とても正確に描く。その先に夢や希望があるかもしれない。そんな嘘をこざわさんは描かない。そこにこざわさんの書き手としての強い誠実さを感じた。

(くぼ・みすみ 作家)
波 2015年10月号より
単行本刊行時掲載

目次

I 僕の災い
II 美しく、輝く
III 蠅
IV 兄帰らず
V けもの道
VI ふるさとの春はいつも少し遅い
解説 重松清

判型違い(書籍)

短評

▼辻村深月
閉塞感に満ちた村、少年、そして音楽というのは私が偏愛するテーマでもあり、村一番のヤリマンと称される野口との出会いは、冒頭からさあ、どうなってくれるのだろう、と期待させられました。村の高校生たちの、内部で閉じている雰囲気も好き。

▼窪美澄
鬱屈の泡がはじけ飛んだとき、少年・少女たちは暗いけもの道を全速力で走り出す。その先に光があるかどうかはわからない。こざわさんは、それを、とても正確に描く。

▼三浦しをん
作品が宿す熱量、語りたいことがあるんだという主人公の雄叫びにしびれた。

▼重松清
まだ三十歳にもなっていない作者が、五十代半ばのオヤジ(僕です)をねじ伏せてうべなわせるほどの筆力で、中年の男や女の姿をみごとに描き切った。

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