はかぼんさん―空蝉風土記―
737円(税込)
発売日:2015/03/30
- 文庫
- 電子書籍あり
この国には古来「不思議」が満ちていた――。各地の伝説を訪ね歩いて出逢った虚実皮膜の物語。
風に揺れる枝垂れ柳が美しい京都の高瀬川で、少年が自殺した。白衣白袴という異様な姿で。死の背景には、旧家に伝わる謎の儀式があった(「はかぼんさん」)。身を持ち崩した一人の男を救ったのは、海辺の漂着物だった(「夜神、または阿神吽神」)。緑豊かな信州に嫁いだ女性。夜半、婚家に「鬼」が訪れる――(「鬼宿」)。各地を訪ね歩いて出逢った、背筋が凍り、心を柔らかく溶かす奇譚集。
第二話 夜神、または阿神吽神
第三話 鬼宿
第四話 人魚の恋
第五話 同行三人
第六話 崎陽神龍石
解説 大森望
書誌情報
読み仮名 | ハカボンサンウツセミフドキ |
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シリーズ名 | 新潮文庫 |
発行形態 | 文庫、電子書籍 |
判型 | 新潮文庫 |
頁数 | 432ページ |
ISBN | 978-4-10-122906-5 |
C-CODE | 0193 |
整理番号 | さ-6-6 |
ジャンル | SF・ホラー・ファンタジー |
定価 | 737円 |
電子書籍 価格 | 737円 |
電子書籍 配信開始日 | 2015/09/18 |
コラム 新潮文庫で歩く日本の町
思わぬところで家族の名前を見るとギョッとします。永六輔さんが亡くなったことに関連して、さだまさしさんが深く長い親交を振り返っている記事を読んでいたら、ふいに祖父の名が目に飛び込んできました。祖父の宮崎康平は、お二人の共通の友人(?)だったそうです。
この祖父を何と紹介すればいいのか、島原鉄道という鉄道やバスなどを運行している地方の小さな会社の役員で、『まぼろしの邪馬台国』を書いた古代史研究家で、「島原の子守唄」という歌の作詞をした人物です。三十代で失明したので、城山三郎さんが祖父をモデルに書いた小説は『盲人重役』というタイトルになっているのですが、この本は祖父をずいぶん讃えて書いて下さっていて、孫としてはくすぐったい気持ちで読んだ記憶があります。
不自由な目で会社の経営をしたり、古代史を研究したりするくらいですから、個性の強い人だったらしくて(私の生まれる前に亡くなったので直接知らないのですが)、祖母も父も「怖かったよー」というくらいであまり思い出話をしてくれません。地元の島原では「さださんの『関白宣言』のモデルは宮崎さん夫婦だ」と言われているので、まあ、ああいう男性だったのでしょう。このモデルの話、真偽は不明ですが。
祖母に聞くと、さださんのお父様と祖父が仲良しで、さださんは幼い頃からわが家へ連れて来られていたそうです。高校生になって
そんなご縁もあって、今回はさださんの短篇小説集『はかぼんさん―空蝉風土記―』。
こういう言い回しは失礼になるかもしれないのを承知で書くと、本当に巧い! 長崎生まれで、日本中を旅することを仕事にしていて、高校時代は落語研究会にいて、まっさんと呼ばれている――そんな語り手の「私」は、さださんご自身のことだと思ってしまいます。その上で京都、能登、信州、津軽、四国の山中、長崎での不思議な体験が語られるので、最初のうちはノンフィクションのように読んでいました。
そのうち、(これはさすがにフィクションだよね)という場面が出てきても、作者の術中にもうハマっているので、(いや、これをフィクションだと思う私が汚れているんだ)と反省したりもしました。騙されて壺なんか買うタイプですよ、私……。
「あとがき」まで読むと、「まえがき」も「あとがき」も含めて、すごく仕組まれたフィクションだということがわかります。そして、作者がそんなに巧んでも伝えたかったのが、日本にかろうじて残っている美しさとか哀しさとか、この本の言葉で言えば「不思議の花」なのだともわかってきます。
永六輔さんは民俗学がお好きで、その線で私の祖父も仲良くして頂いたようです。さださんもお詳しいようですが、作中に何度も出てくる「博物民俗学者、
(みやざき・かれん 女優)
波 2017年1月号より
著者プロフィール
さだまさし
サダ・マサシ
1952(昭和27)年長崎県生れ。1973年フォークデュオ「グレープ」としてデビューし、「精霊流し」「無縁坂」などのヒット曲を生み出す。1976年にソロとなった後も、「雨やどり」「親父の一番長い日」「道化師のソネット」「北の国から」など多くの大ヒットを生む。また、コンサートの数はソロ活動開始以降で4100回を超える。2001(平成13)年『精霊流し』で小説家としての活動を開始する。他の著作に『本気で言いたいことがある』『解夏』『眉山』『アントキノイノチ』『かすてぃら 僕と親父の一番長い日』『風に立つライオン』『ラストレター』などがある。