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幕末史

半藤一利/著

935円(税込)

発売日:2012/10/30

  • 文庫
  • 電子書籍あり

ベストセラー、ついに文庫化! 黒船来航から西郷の死まで激動の25年間を語る。

嘉永六年(一八五三)六月、ペリー率いる米艦隊が浦賀沖に出現。役人たちは周章狼狽する。やがて京の都はテロに震えだし、坂本龍馬も非業の死を遂げる。将軍慶喜は朝敵となり、江戸城は開城、戊辰戦争が起こる。新政府が樹立され、下野した西郷隆盛は西南戦争で城山の地に没す──。波乱に満ち溢れた二十五年間と歴史を動かした様々な男たちを、著者独自の切り口で、語り尽くす。

目次
はじめの章 「御瓦解」と「御一新」
第一章 幕末のいちばん長い日
第二章 攘夷派・開国派・一橋派・紀伊派
第三章 和宮降嫁と公武合体論
第四章 テロに震撼する京の町
第五章 すさまじき権力闘争
第六章 皇国の御為に砕身尽力
第七章 将軍死す、天皇も死す
第八章 徳川慶喜、ついに朝敵となる
第九章 勝海舟と西郷隆盛
第十章 戊辰戦争の戦死者たち
第十一章 新政府の海図なしの船出
第十二章 国民皆兵と不平士族
第十三章 西郷どん、城山に死す
むすびの章 だれもいなくなった後
あとがき
参考文献
「幕末史」関連年表

書誌情報

読み仮名 バクマツシ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 528ページ
ISBN 978-4-10-127181-1
C-CODE 0195
整理番号 は-56-1
ジャンル 日本史
定価 935円
電子書籍 価格 880円
電子書籍 配信開始日 2021/07/02

書評

「昭和史」につながる「幕末史」

中村彰彦

「あとがき」によると、本書は「慶應丸の内シティキャンパスの特別講座として」おしゃべりしたところをまとめたものだそうだから、一種の語り下ろしである。「張り扇の講談調、落語の人情噺調の、杜撰きわまりない一席であった」と著者は謙遜しているが、難しく語ろうとすればいくらでも難しくなるところをざっくばらんに述べる手法は本書の魅力のひとつといってよい。
 ガチガチの攘夷論者だった前水戸藩主徳川斉昭が、老中阿部正弘に黒船対策を語る場面を半藤さんはつぎのようにいう。
「『いいか、交渉するとみせかけて、白刃一閃、敵将の首をとり、乱入して船も人も奪ってしまおうではないか。そうすれば難問一挙に解決し、軍艦四隻も手に入る。(略)』そんなことをしたら大変です。阿部さんは慌ててとめます」
 斉昭は、たしかにこの程度の人物でしかなかった。その「程度」をひとつの会話に事寄せて、巧みに浮かびあがらせるところに半藤さんの芸がある。
 しかもこの人、昭和史が専門かと思っていたらとんでもない。カメラでいえば、とても深い被写界深度で幕末維新史をよく見ておられる。
 たとえば、幕末史の重要なヒストリカル・イフ(歴史上のもしも)に、一橋慶喜・松平春嶽・松平容保・伊達宗城・山内容堂・島津久光が参予会議という名の合議制を取り入れていたら共和政治を実現できたのではないか、そうすれば戊辰戦争は起こらなかったのではないか、という問題がある。
 これはまことに熟考する意味のあるヒストリカル・イフではあるが、簡単には話しにくいことなので、私などはたまに講演してもこの問題ははしょってしまうことが多い。半藤さんはこの点もちゃんと論じているばかりか、陰のプロデューサーとして勝麟太郎の名を挙げているのは炯眼であろう。
 なお本書は全十四章にわかれていて、第九章で最後の将軍慶喜が風を食らって大坂城から逃亡して以降は、維新史の話になる。というのに本書を『幕末維新史』とはせず、『幕末史』としたところにも半藤さんの目配りのよさがある。
 私個人も何度か書いたことだが、佐賀の乱から西南戦争に至る不平士族の乱は明治という名の幕末に起こった事柄だった、と考えた方がよい。半藤さんがこの時代について、
「まさに権力奪取の戊辰戦争はまだ終わってなかったのですね」
 と述べているのは、その意味で気持がよかった。
 さて、終わりが近づくにつれて話は山県有朋にしぼりこまれる。この人物の最大の罪は、「参謀本部条例」を制定して参謀本部長の統帥権を政府から独立させたことにある。
「天皇の親裁をえた参謀本部長の軍令事項命令を、その意向がどうであろうと、陸軍卿はただちに実行しなければならなくなるわけです。ということは、陸軍卿を閣僚のひとりとする太政大臣も、軍令にかんするかぎり天皇の親裁をえた参謀本部長からの命令に従わなければならないことになったわけです」
 これが明治11年(1878)12月のことだから、「国の基本骨格のできる前に、日本は軍事優先国家の道を選択していた」というのが、半藤さんの結論である。明治日本は健全だった、しかしその後どこかでおかしくなって亡国の道をたどったなどという講釈は、史実を見ていない。本書のように、日本は幕末がおわるや早くも亡国の因子を育てはじめていた、と考えるのが正しい歴史観なのだ。
 長く昭和史を研究してきた半藤さんが、維新史ではなく『幕末史』を一冊にまとめねば、と思い立った理由もおそらくここにある。読んで面白い幕末談義が、成功裡に完結したことを喜びたい。

(なかむら・あきひこ 作家)
波 2009年1月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

半藤一利

ハンドウ・カズトシ

1930(昭和5)年、東京生れ。東京大学卒業後、文藝春秋に入社。「週刊文春」「文藝春秋」編集長、専務取締役などを経て、作家となる。1993(平成5)年、『漱石先生ぞな、もし』で新田次郎文学賞、1998年、『ノモンハンの夏』で山本七平賞を受賞する。2006年、『昭和史 1926-1945』『昭和史 戦後篇 1945-1989』で、毎日出版文化賞特別賞を受賞。『決定版 日本のいちばん長い日』『聖断―昭和天皇と鈴木貫太郎―』『山本五十六』『ソ連が満洲に侵攻した夏』『清張さんと司馬さん』『隅田川の向う側』『あの戦争と日本人』『日露戦争史1』など多数の著書がある。

判型違い(単行本)

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