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私の魂の帰る場所。絵本への愛情あふれるエッセイ35編。

絵本を抱えて 部屋のすみへ

江國香織/著

767円(税込)

本の仕様

発売日:2000/12/01

読み仮名 エホンヲカカエテヘヤノスミヘ
シリーズ名 新潮文庫
装幀 舟越 桂『おもちゃのいいわけ』(すえもりブックス刊)より/カバー、広瀬達郎/写真撮影、新潮社装幀室/デザイン
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-133917-7
C-CODE 0195
整理番号 え-10-7
ジャンル エッセー・随筆、古典、文学賞受賞作家、本・図書館、人文・思想・宗教、コミック
定価 767円

自分が自分だと気づく前に遇(あ)ってしまっていた絵本。愛してくれている大人の温もりと共に身体にしみこんでしまっている絵本。人生の複雑さを知った心に響いて忘れえぬ一冊となった絵本。ブルーナ、ポター、クーニー……私がいまの私になるために、絵本たちとのとても大切で幸福な出会いがあった。絵本という表現手段への愛情と信頼にみちた、美しく豊かな言葉で紡がれた35編のエッセイ。

著者プロフィール

江國香織 エクニ・カオリ

1964年東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で「小さな童話」大賞、1989年「409ラドクリフ」でフェミナ賞、1992年『こうばしい日々』で坪田譲治文学賞、『きらきらひかる』で紫式部文学賞、1999年『ぼくの小鳥ちゃん』で路傍の石文学賞、2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2007年『がらくた』で島清恋愛文学賞、2010年『真昼なのに昏い部屋』で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』で谷崎潤一郎賞を受賞。他の著書に『ちょうちんそで』『はだかんぼうたち』『なかなか暮れない夏の夕暮れ』など多数。小説以外に、詩作や海外絵本の翻訳も手掛ける。

目次

わたしに似たひと ――フランシスの絵本によせて
ここではないどこか ――センダックの絵本によせて
生活の愉しみ ――プロヴェンセン夫妻の絵本によせて
個人的なこと ――童謡絵本によせて
地上の天国 ――バーバラ・クーニーの絵本によせて
憧れのパリ ――マドレーヌ絵本の世界
日常生活はかくあれかし ――がまくんとかえるくんの絵本によせて
たくさんの人生 ――ビアトリクス・ポターの絵本によせて
のびのびしたアメリカ ――アメリカ古典絵本の世界へ
骨までしゃぶる ――グスタフ・ドレの絵本によせて
悦びのディテイル ――ピーター・スピアーの絵本によせて
素朴と洗練、それから調和 ――まりーちゃんの絵本によせて
単純に美しいということ ――ディック・ブルーナの絵本によせて
外国のいぬ ――アンガスとプレッツェル、ハリーの絵本によせて
現実のお茶の時間 ――『レナレナ』によせて
曇天の重み ――『ブリキの音符』によせて
護られて在るということ ――マーガレット・ワイズ・ブラウンの絵本によせて
失えないもの ――ガブリエル・バンサンの絵本によせて
親密さと必然性 ――『かしこいビル』によせて
物語の持つ力 ――『シナの五にんきょうだい』と『九月姫とウグイス』によせて
陰としてのファンタジー ――リスベス・ツヴェルガーの絵本によせて
清濁あわせ呑む絵本 ――『モーモーまきばのおきゃくさま』と『メアリー』によせて
他人の暮らし ――『ファミリー・ポートレート』によせて
大きな絵本 ――『絵本 グレイ・ラビットのおはなし』によせて
身をまかせる強さ ――「おさるのじょーじ」の絵本によせて
本を閉じることさえせつなくなってしまうではないか ――『すばらしいとき』によせて
ごつごつしたかなしみ ――斎藤隆介と滝平二郎の絵本によせて
つつましい輝き ――くんちゃんの絵本によせて
くらくらする記憶 ――『おこちゃん』によせて
コークス色の旅 ――『海のおばけオーリー』によせて
セレナーデ ――『あひるのピンのぼうけん』によせて
あかるいうみにつきました ――『せんろはつづくよ』によせて
豊かな喜び ――トミー・デ・パオラの絵本によせて
幸福きわまりない吐息 ――『トロールのばけものどり』によせて
誘拐の手なみ ――『Zちゃん ―かべのあな―』によせて

対談1 絵本をつくるということ 〈五味太郎さんと〉
対談2 絵本と出会い、絵本とつきあう 〈山本容子さんと〉

 あとがき
 解説 ――小野 明

書名・作者名さくいん
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立ち読み

護られて在るということ ――マーガレット・ワイズ・ブラウンの絵本によせて

 子供のころ好きだった絵本に、マーガレット・ワイズ・ブラウン文、ジャン・シャロー絵の『おやすみなさいのほん』がある。しっとりして美しい色彩の、独特の量感と質感の絵、しずかにくり返される、簡潔でしみじみとやさしい――そして豊かな――文章。
 子供のころ、私は冒険に憧れていた。たとえばある日家出をし、波瀾万丈の旅をする。未知の場所、未知の人、未知の生活。いくつもの国を通りすぎ、いくつもの言葉を喋れるようになり、いくつもの出会いを出会って美しくて賢くて勇敢なひとになりたい、と思っていた。この、美しくて賢くて勇敢なひと、というのは昔話にでてくる「おきさきさま」をイメージしていたように思う。お姫さまより毅然としていて断然かっこうがよかった。
 しかし、実際の私はひどく臆病で、家出どころか遠出ひとつできずにうちのなかにばかりいた。勇敢どころかおてんばですらなく、「安心」ということを深く愛していた。
 クレメント・ハードの描く子うさぎには、だから親近感を抱かずにはいられない。「ぼくにげちゃうよ」と言いながら、最後にはちゃんと母親うさぎの腕の中にいるうさぎ、自分の部屋の自分のベッド、自分のふとんにくるまって、気持ちよさそうに眠りにおちていくうさぎ。
 ワイズ・ブラウンの絵本は、まさに「安心」そのものだ。読むことで心がしずかに落ち着くし、温かくて栄養のあるもので満たされる気がする。『おやすみなさいおつきさま』のプライヴェートさ(自分の居場所が必要なのは、子供も大人も、人間もうさぎもきっとおんなじだ)、『ぼくにげちゃうよ』の愛情の深さ(そして絶望的なかなしさ)、誰かに必要とされているということ、『おやすみなさいのほん』の持つ、圧倒的な鎮静作用。どれをとっても「安心」に結びつく。
 では安心とはなにか。
 魂の帰る場所がある、ということだと私は思う。それが、『ぼくにげちゃうよ』ではおかあさんの胸であり、『おやすみなさい おつきさま』では居心地のいい自分の部屋であり、『おやすみなさいのほん』ではそれよりももっと大きなもの――この世のすべてを見守ってくれるもの――なのだ。
 魂の帰る場所がある、というのはどこにいても護られて在る、ということで、そう思ったとき、私は『おやすみなさいのほん』のなかの、天使のやけに大きな手を思いださずにいられない。
 ワイズ・ブラウンの文章には無駄がなく、絵本の言葉にふさわしい洗練をされていて、とても詩的だ。
 たとえば、『おやすみなさい おつきさま』は全編かろやかに韻をふんでいるし、くしやブラシやおかゆにおやすみなさいを言うのとおなじ正確さで、「よぞら」や「そこここできこえるおとたち」におやすみを言う小さなうさぎの視線を通し、読者はこの世が祝福された場所であることを思いだす。絵のなかのくまにおやすみを言うときの、子うさぎの小さな背中。
 また、彼女の文章は視覚的インパクトも十分で、あかいふうせんのあるみどりの部屋、という出だしだけでもまったく斬新だ。そうして勿論クレメント・ハードのインパクト十二分の絵!
 こういうのをみると、センスというのは天性のものなのだなあと思う。凡人には決して御せない色彩だ。うさぎの部屋のベッドサイドに、虎の皮の敷き物がしいてあったりするのもおかしいし、枕元の電気スタンドのつくる、いっぷう変わった陰影もすてきだ。はじめからおわりまで変わらずに燃えている暖炉の火も印象的で、すっかり暗くなった最後の頁では、薪のはぜる音や炎の匂いが部屋じゅうにみちている。
『おやすみなさい おつきさま』がずっと一つの部屋のなかで展開していくのに対して、『ぼくにげちゃうよ』はそとへ、そとへ、それはもう大胆に場面が展開されていく。文章の頁と見開きの絵の頁が交互になっていて、頁をめくるたびに二匹のうさぎは、とっぴょうしもない場所にいる。山や、川や、海や、野原や。そうしてそのきわめて雄大な景色が、小さな本のなかにすっぽりとおさまっている。幻想的でありながら、感触はとてもリアルな絵だ。
 蛇足ながらつけ加えると、表紙の青は原書では空気感のあるすみれ色で、草はらにおりてきた夕闇の、なんともいえない手ざわりがする。
 クレメント・ハードといいジャン・シャローといい、ワイズ・ブラウンという人は、画家にもめぐまれたひとだなと思う。

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