成功することを決めた―商社マンがスープで広げた共感ビジネス―
482円(税込)
発売日:2011/03/29
- 文庫
サラリーマン&食の素人が挑んだ、誰にも似てないスーププロジェクト。それは、一社員のひらめきからはじまった。
三菱商事の一社員のひらめきからはじまったSoup Stock Tokyo。食の素人が熱意だけで立ち上げたこのブランドは、いまや数十店舗を構え、急速な成長を続ける。しかし、その陰では数々の困難が立ちはだかっていた。社内ベンチャーとしての壁、スープ開発の苦悩、難しい店舗選び──。その企業理念が多くの共感を呼ぶ、今一番熱い会社の起業物語。『スープで、いきます―商社マンがSoup Stock Tokyoを作る―』改題。
五月三十一日
六月九日、十二日
七月一日、十二日、二十日
八月三日、四日、五日、十一日、二十日、二十三日
九月最終日
文庫化にあたって
書誌情報
読み仮名 | セイコウスルコトヲキメタショウシャマンガスープデヒロゲタキョウカンビジネス |
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シリーズ名 | 新潮文庫 |
発行形態 | 文庫 |
判型 | 新潮文庫 |
頁数 | 232ページ |
ISBN | 978-4-10-134861-2 |
C-CODE | 0134 |
整理番号 | と-23-1 |
ジャンル | 経営学・キャリア・MBA |
定価 | 482円 |
書評
サラリーマンに、夢を与える物語
大商社のサラリーマンが、「やりたいことを今やらないと後で絶対後悔する」という思いから、「無添加の食べ物=スープ」を頭に入れて『Soup Stock Tokyo』の設立を決意した物語である。
まず企業内で「スープのある一日」という企画書を物語形式で提案する。構想は、自分自身の素朴な体験から始まった。「ひとり娘がアトピーで大変だったから無添加のスープを作ろう」。「女性だけで入れる店がほとんどないから、そういう店を作ろう」。
いろんな人の話を聞き、「秋野つゆ」という空想の典型的な女性カスタマーと会話をしながら、“東京ボルシチ”や“東京ミネストローネ”や“東京参鶏湯”等のアイデアが出てきた、スープメニュー作成の経過も興味深い。
徹底した現場志向でお客様の声を聞いている。オーダーをとっていて“ビーフバリーの洋風おじや”を読み違えたお客様に「洋風オヤジって何ですか?」と訊かれ、一緒になって笑い転げたというエピソード。「ヤダッ、これ美味しい!」という声が客席から聞こえたときには、大きなエネルギーをもらったという感動。女性一人で入れるカレースタンドがほとんどないから作ったというカレーの店『Tokyo Roux』。現場感覚が素直である。
だんだん部下とも同志化してきて、弱気になったときには「だって遠山さんが作ってきたんじゃないですか!」と励まされる。「遠山さんはきっと嫌いなはずだ」「遠山さんはとりあげないだろう」と、社内で自分自身の存在が大きくなってきたときには、現場の美意識と情熱を信頼することを宣言した。『なぜ「エライ人」は馬鹿になるのか?』という本を渡され、「遠山さんにあてはまるところに緑の線を引きました。私のところを黄色で引いてください!」と言われて、読んでみると「自分は何でも知っている、という勘違い」などのくだりに緑の線が引かれていたという。
はじめての社員旅行、二○○五年の新卒採用と採用後のフォローアップ、みんな楽しく読ませる。新人王とMVP社員の表彰時、内緒で受賞者の実家に行きビデオ撮影をしたものを放映する。ご両親やら奥さんやらがいきなりビデオに登場した驚きとともに、身内が普段なかなか直接言わない励ましの言葉、感謝の気持ちを聞いて、本人たちは照れたり号泣したり大変だったが、そんな姿を見ながら皆で朗らかな気持ちを共有することができたという話もいい。いずれも、終戦直後の日本型経営の原点が二十一世紀に再生されて、そこにある。
著者のご尊父は、長年、私が尊敬した大後輩であり、よく一緒に飲んだ親友でもあった。三十年以上前に航空機事故で亡くなられ、それを聞いて泣いた。親切で優しい奥様だけではカバーできない男の子の人生に少しでも協力したいと心で思って、進んで本人の仲人をしたり、喜んで入社の際の保証人も引き受けた。
父親譲りの繊細で芸術性が高く、文化的な遠山家の伝統を一身に背負った著者は、あらゆる所でその能力を発揮している。何事も自分や対象物に対して、鋭い感性で観察して、出来るだけ正確に発言しようとする態度などはそっくりだ。
本書は、サラリーマン起業家の心情や経験がかなり忠実に描写されており、多くのサラリーマンに夢を与えるだろう。本人の弱さも喜びも夢も曝け出した、本人そのものの内容である。好感が持てる。読みやすく、興味ある人には一気に飽きさせず読ませ、しかも勇気と希望を与える。著者はさらに父親と同じように経営以外の余技に長け、特に初めての個性ある作品の個展で成功したことが創業への引き金になった話は興味深い。
三菱商事という大企業がスマイルズという会社の社員持ち株を認め、この個人の創意を暖かく支持したのは素晴らしいことである。著者は会社の理念である「生活価値の拡充」を実現する為に、今後スープだけでなく、幅広い提案を世の中にしていく会社を作っていきたいと書いている。これからどの分野で夢を膨らませるか知らないが、志は大きく、皆の目標として全うして欲しい。一緒に働いている人の幸せも、引き続いて考えて欲しい。私も創業時、会社の繁栄と従業員の幸せが一致する経営をしたいと会社の目的の第一項に書いて胸を張った。青年はいつの時代でも、未来と共に生きていくことを知って嬉しかった。
(うしお・じろう ウシオ電機代表取締役会長)
波 2006年3月号より
単行本刊行時掲載
著者プロフィール
遠山正道
トオヤマ・マサミチ
1962(昭和37)年東京生れ。慶応義塾大学卒。1985年、三菱商事に入社し、国内建設部、複合機能サービス推進室にて勤務。日本ケンタッキーフライドチキン出向後の1999(平成11)年、Soup Stock Tokyo第一号店をお台場ヴィーナスフォートに開店。2000年三菱商事初の社内ベンチャー企業「株式会社スマイルズ」を設立し、代表取締役社長に、2005年会長に就任。2006年には、ネクタイ専門ブランド「giraffe」をスタートする。2008年、MBOによりスマイルズの株式100%を取得、代表取締役社長に復帰し、同時に三菱商事退社。2009年、新コンセプトのリサイクルショップPASS THE BATONを開店する。また、ニューヨーク、赤坂、青山などで個展を開催するなど、アーティストとしても活躍。