ホーム > 書籍詳細:オズの魔法使い

これは孤独な魂たちが、出会い、絆を結び、夢をかなえる物語。大人になった今、いっそう胸にしみてきます。――河野万里子。新訳・名作コレクション。

  • 映画化オズ めざせ!エメラルドの国へ(2015年1月公開)

オズの魔法使い

ライマン・フランク・ボーム/著 、河野万里子/訳 、にしざかひろみ/絵

539円(税込)

本の仕様

発売日:2012/08/01

読み仮名 オズノマホウツカイ
シリーズ名 Star Classics 名作新訳コレクション
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-218151-5
C-CODE 0197
整理番号 ホ-20-1
ジャンル 文芸作品、SF・ホラー・ファンタジー、評論・文学研究
定価 539円

大たつまきに家ごと運ばれたドロシーは、見知らぬ土地にたどりつき、脳みそのないかかし、心をなくしたブリキのきこり、臆病なライオンと出会う。故郷カンザスに帰りたいドロシーは、一風変わった仲間たちと、どんな願いもかなえてくれるというオズ大王に会うために、エメラルドの都をめざす。西の悪い魔女は、あの手この手でゆくてを阻もうとするが……。世界中で愛され続ける名作。

著者プロフィール

ライマン・フランク・ボーム Baum,Lyman Frank

(1856-1919)ニューヨーク州生れ。病弱ながらも、父親が石油業界の成功者であったため、とても裕福な、恵まれた環境で育つ。新聞記者、演劇、セールスマン、業界誌編集などのさまざまな職業を経て、40代で童話の創作を始める。1897年に発表した『散文のマザーグース』で注目され、1900年に発表した『オズの魔法使い』がベストセラーとなり大成功を収める。熱烈な読者の願いに応え、『オズ』の続編を20年間にわたり書き続け、全14巻を執筆した。そのほか、少年少女のための作品を数多く残した。

河野万里子 コウノ・マリコ

1959年生れ。上智大学外国語学部フランス語学科卒業。主な訳書にウィリアムズ『自閉症だったわたしへ』、サン=テグジュペリ『星の王子さま』、サガン『悲しみよこんにちは』、レヴィ『あたしのママ』など。

書評

波 2012年8月号より 少女よ、軽やかに進め!

森絵都

子供の頃、私にとって『オズの魔法使い』は特別な一冊だった。ふしぎな魔法に彩られたファンタジーは数多あるけれど、オズはどこかが違う、と子供心に感じていた。これはたんに面白い物語ではなく、すごくいい物語だ、と。
このたび、河野万里子氏によるリズミカルな新訳版を味わい、大人心にも、やはりこれは無二の物語だと確信を深めた。大人になって読み返すと意外につまらなかったり、説教臭かったりする児童書が少なくない中で、オズの世界は今も変わらぬ腕力をもってハートをわしづかみにしてくれた。
読者をつかんで離さないその力の根源には、まず第一に、作者ライマン・フランク・ボームの卓越したヴィジュアルセンスがあると思う。灰色の荒れ地に住んでいた少女ドロシーが、たつまきに飛ばされていった先でつぎつぎ出会う風景のなんとユニークで色鮮やかなことだろう。まず少女が目にするのは青を愛する人々がいる自然の恵み豊かな東の国だ。そこからドロシーは黄色いレンガの道を辿ってエメラルドの都をめざすことになる。トウモロコシ畑。深い森。ケシの花畑。道沿いの景色はくるくると展開し、到着したエメラルドの都は想像するだにまばゆい光彩を放っている。緑のメガネをかけていてさえも目が痛むほどの緑に輝く街――絶えず色彩感覚を刺激する描写は、それだけで読者を飽きさせない。
無論、風景描写に負けず劣らず、人物描写も秀逸だ。かかし、ブリキのきこり、ライオン。少女の旅の道連れに、よくぞこんな珍妙な組みあわせを選んだものだと思う。なりゆき上、彼らは力を合わせて西の悪い魔女を退治することになるのだが、その動機となるのは正義感でもなければヒロイズムでもない。ドロシーは故郷のカンザスへ帰るため、かかしは脳みそを、きこりは心を、ライオンは勇気を手に入れるための冒険なのである。言ってしまえば、それは彼らがおのおのの欠落を埋めるための旅だった。
とはいえ、その旅を追うにつれ、読者は釈然としない思いに駆られていくに違いない。名案を披露して幾度も一行のピンチを救うかかしに、本当に脳みそがないのか? うっかり踏みつけたカブト虫の死に涙するきこりに心がないのか? 皆を守るために怪物へ立ちむかうライオンのどこが臆病なのか?
知恵とは何か。心とは何か。勇気とは何か。なんとしても帰りたいと少女が希求してやまない故郷とは何か。オズの世界は私たちに、形なきものについて思いをめぐらせよと迫る。そして、安易な答えは提示しない。だからこそ、子供心に抱いた違和感は永久に消えない種となって根付くのかもしれない。
大人になって気づいたこともある。形なきものを尊ぶ一方で、形あるものを疑う作者のシニカルな視線だ。東西南北、どこの魔女も敵わないとされる偉大なるオズの正体。緑のメガネを外したドロシーたちの瞳に映るエメラルドの都。この二つに象徴されるように、本書には「蓋をあけてみれば意外とあっけない」エピソードが多々ちりばめられている。誰もが恐れる西の魔女がこんなにも簡単に溶けてしまうなんて! ドロシーをカンザスへ帰す手段がこれほど身近にあったなんて! 自らの目で見極めてみれば、難関の多くは人が言うほど大したものではない。先入観に囚われず、どんどん立ちむかい、どんどん薙ぎ倒して前へと進め! そんな作者の声が行間から響いてくるようである。
どんどん薙ぎ倒さなければ一歩も先へ進めないほど、実際問題、オズの世界には多くの難敵が仕込まれている。カリダー。オオカミ。野性のカラス。黒蜂(ブラックビー)。巨大グモ。砲弾人間。これでもか、これでもかと襲い来る障害を乗りこえ、少女たちはオズの世界をずんずんと進む。欠落をバネにしたその大義なき軽やかなステップこそが、読者をとりこにする最大の魅力かもしれない。

(もり・えと 作家)

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