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ルポ スマホ育児が子どもを壊す

石井光太/著

1,870円(税込)

発売日:2024/07/18

  • 書籍
  • 電子書籍あり

保育園から高校まで、200人以上の教師に取材を重ねた衝撃の現場報告。

スマホ登場以来16年、教室にいるのはもはや私たちが知る「子ども」ではなくなっていた。ハイハイも体育座りもできない保育園児。教室の「圧」に怯える小学生。クラスメイトの姓すら知らない中学生。会ったその日にベッドインする高校生――児童に関する問題を丹念に追ってきた著者がデジタルネイティブの育ち方を徹底レポート。

目次
プロローグ――教室から子どもがいなくなる
I部 保育園・幼稚園で
1 公園から遊びが消えた日
公園で立ちすくむ園児/遊ぶのが恐ろしい/自由な遊びとは何か/大人ファースト社会
2 ゲームが引き起こす感覚麻痺
親がゲームを与える理由/最新の遊びが感覚を麻痺させる/『スプラトゥーン』をやっているからいい
3 先生も二次元から来ている
先生だってデジタルネイティブ/Z世代の「普通」とは何か/園長とベテランvs若い先生と子ども
4 ハイハイしたことがない子ども
給食は毎日がおかゆ/ヘッドガードの制服化/食べ方を教える時間が親にはない/老人を「お化け」と間違えて泣く/ハイハイをさせない“一足飛び育児”/平らな床に座れない
5 バーチャルで漂う赤ちゃん
子守歌はアプリの声で/赤ちゃんのスクリーンタイムは/増えるイクメンは機能しているのか
6 子育てという作業タスクをどうこなすか
アプリは育児のプロ/口コミで広がる、愛情を育む「ペット育成アプリ」/おままごとをしない女の子/「親性脳」が少子化を食い止める
7 子育ての外注化
育児情報は溢れ過ぎ/親は監督かマネージャー/親も「親ガチャ」が怖い/ダメ親と呼ばないで
8 発達特性が目立ちやすくなる
プリスクール化する園/同じ教室で行う教育の限界/「サプライズ」ってどうやるの?
II部 小学校で
1 学校の監視から逃げられない
待ち合わせ場所のない遊び/終わりのない学校/学童拒否の先にあるもの/他人の家の中を見たことがない
2 子どもの身体に起きていること
バンザイの姿勢をとれない/「女の子投げ」する男子たち/できる子とできない子、両極化する運動能力/限定されたスポーツ体験/スポーツで自尊感情を上げるドイツ
3 激増中の“褒めて褒めて症候群”
手をつながずにいられない男子たち/褒められ中毒はエスカレートする/問題化する親子関係3タイプ/子育てに「ほどほど」は許されない
4 拡大する校内暴力
先生に暴力を振るう低学年/感情爆発の理由は「裏切られた」/絶対に先生は僕を嫌ってる!/止められない学級崩壊
5 教室ではマウント合戦が激化
教室の“アツ”がすごい/キャラ化して得られるもの/ポケモンは僕らの鎧
6 受験戦争の兵士たちのバトル
受験組vs非受験組/試験前の給食は腹八分目で/ドロップアウト組の行く末は
7 子どもが不登校になりました
小中学校の不登校30万人/真夏に少年がコートを着る理由/今や保健室は予約制/家族で遊びに行くので欠席します/黙って何もしない方がいい/「行かなくていい」は真実か
III部 中学校で
1 スマホの常時接続という地獄
15歳までずっと変わらない人間関係/クラスメイトと常時接続/ボッチは雑魚キャラで恥ずい/安心と恐怖は紙一重
2 “浮く”ことへの恐怖症
恐怖の表彰式/優秀でいることが怖い/力を合わせて無競争社会
3 アフターコロナの新しい学校
コロナが同調圧力を高めている/人と違うのはリスクでしかない/学年ごとに分断された運動会/全員が主役をやる演劇/自分の長所と短所がわからない
4 消滅した友達グループ
グループの崩壊/気楽な個人競技がブーム/あまりに多過ぎるコンテンツ/1人にわかってもらえればいい/友達は演じるもの、フリでわかるもの
5 多様性が凍っていく
友達とは何なのか?/タイパで友達を選ぶ/言葉が通じない子どもたち/クラスメイトの意識が持てない/みんなちがって、みんなどうでもいい
6 いじめを自覚しない子どもたち
増加するいじめ件数/新型いじめ/事実を書いただけなので私は無罪です/お葬式ごっこは作品です/加害者にいじめの意識はなく/言い訳だけは達者
7 教室でも友達をブロック
ゼロか百かの極端な思考/断定口調はどこから来るのか/リアル友達をブロック/返事はいつも「大丈夫です」
IV部 高等学校で
1 JKの夢は交通整理のバイト
学歴アピールの時代/目標は「そこそこでいい」/夢より過去のデータを重視/部活はキャプテン不在/自分のスペック内で夢を見る/小さな夢を愚直に叶える
2 アカウントの数ほど自分がいる
人格を分割する/「騙された」と嘆く高校生/用途によって違う恋人
3 “ネットの恋人”がいます
会わなくたって恋人/合意なしで交際スタート/推しという恋人がいれば
4 恋愛もコスパ至上主義
オンライン・デートの現在地/ベッドインは会ったその日/「蛙化現象」の正体/影も形もない恋愛至上主義
5 アプリにとらわれた青春
半数がネット依存傾向/SNSが引き起こす拒食症/低年齢化する摂食障害は小学生にも/SNSは大型バイクのようなもの
6 無人化する高校
行かずに学ぶ通信制高校ブーム/ネガティブな選択で進学する子も/バズればすべてはOK/コミュニケーションの授業
7 未来の学校に希望はあるか
教育困難校のリアル/教員の仕事は福祉のそれ/大学全入時代の実態/そもそも勉強に不向きの子がいる
エピローグ――子は親を映す鏡
 【参考文献】

書誌情報

読み仮名 ルポスマホイクジガコドモヲコワス
装幀 鈴木マサカズ/装画、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 週刊新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 272ページ
ISBN 978-4-10-305459-7
C-CODE 0095
ジャンル 評論・文学研究、ノンフィクション
定価 1,870円
電子書籍 価格 1,870円
電子書籍 配信開始日 2024/07/18

書評

人類がデジタル環境に移行する過渡期の貴重な記録

落合陽一

 2050年を生きる感覚でものを考える。
 このフィルターでものを見て、考えると、それまでと違う側面を浮き彫りにできる。だから、2050年に読み返したら面白いだろう。と、そんなふうに本書を読んだ。
 保育園・幼稚園から小・中、高校まで、現場の「先生」たち200人以上の証言を集めたというこのルポは、生徒がひしめく教室で日々働く「先生」という立場の人たちから、幅広く言葉を集めた証言集だ。ノンフィクション作家の石井光太さんによるもので、先生たちの気持ちや戸惑いまで率直に伝わってくる。これを50年、いや100年後に読んだらどうか。まずはいつもの2050年の観点で読んでみたら、これがめっぽう面白くて、ハマった。
 ラジオで言えば、日本で放送が始まったのは1925年、関東大震災が理由というが、当時どう日本で受け止められたのか。「うちの子はラジオばっかり聴いてバカになる」と言っていた人がいるのか。「ラジオ育児」(なんていうものがあるなら)の当時の証言集を読んだと思えばよいかもしれない。その社会の価値観や不安の要因が見えてくる。
 つまり、石井さんが、環境の大きな変化の一つとしてデジタルやスマホを挙げ、先生たちの多くがそこに理由を見つけようとしている、というその主観が興味深いのだ。
 とはいえ、平易に読むと、ここ最近の子どもの環境の変化をまとめている一冊なのだが、タイトルのように「スマホ育児」に全てを負わせるには無理がある。毎年10億台も売られるスマホ時代の今現在だからと言って、なんでもスマホのせいにはできはしない。ラジオ放送の増加と比例して殺人件数が増えたとしても、そこに相関関係があるかは、別の測定と検証が必要だ。
 象徴としてスマホを挙げたとは書かれているが、スマホでもITでも、機器や技術に状況の全責任を負わせるのは、どんな場合でも無理があるのは言わずもがな、不満と言えばそこだろうか。
 ただし、スマホを媒介とするインターネット、そしてメディアの影響は大きい。テレビしか情報源がなかった世代とは、情報の取り方が明らかに違う。テレビゲームを買うのにコストがかかった世代とスマホゲームをすぐに手に入れられる世代では、ゲームへの距離も変わる。何しろ、スマホというゲーム機が毎年10億台以上出荷されていると思えば、環境は激変していると言える。ファミコンのある子の家に遊びに行く必要は、もはやない。
 大学という教育現場にいる僕の立場では、スマホよりもマイナス面を感じるのがコロナだ。「エピローグ」にもあるが、石井さんもそこからこの本を書き始めたようだ。
 たとえば、大学でぼくが最近驚いたのは、コロナ禍でずっと家にいて初めて大学に来た3年生の、コミュニケーション下手だ。この春には、その世代が会社に新入社員として入ってきているはずだ。全員が同じ状況なので、不登校ともまた違う。小中高はいわずもがな、大学でほんとうのコロナ禍の影響が出てくるのはこれからだろう。
 子どもに何がいいかなんて、今を生き終わってみないと良し悪しは言えないと思う。ただ、学生たちを見ていて思うのは、大人は心配するけれど子どもは今を生きているということ。子どもでいられる時間はすごく短い。僕自身は、四十七都道府県の県庁所在地をまわったり、おじいちゃんにパソコンを買ってもらってハマったり、空手をやったり、身体的に動き回ってあれこれしていたらあっという間だった。
 ルポにある中2の子も、5年後には大学生だ。いじめられていると、本人にとっては毎日つらいだろうけれど環境を変えてなんとかするしかない。もちろんそれは簡単ではないだろうが、この子たちが大人になるまでの時間はそんなに長くないのだ。
 大学では毎日「自分がおもしろいと思わないところに進んでもダメだよ」「時間を忘れるような方向に進め」と学生に話す。面白いと思ったことをロジックで味付けしていくのが科学的なアプローチだ。それを感情で味付けするひとはアーティストで、それを音楽にする人がいてもいいし、今回のルポのように、証言を集めて文化人類学者のようにまとめたっていい。教育者ができるのは、この環境変化を踏まえた上で、行きたい道へと案内することだけだ。
 令和の時代の記録では、学校の現場ではこんなことが起こっている。この本はそれでいいんだと思う。というより、その点において、けっこう絶妙なのである。

(おちあい・よういち メディアアーティスト)

波 2024年8月号より
単行本刊行時掲載

イベント/書店情報

著者プロフィール

石井光太

イシイ・コウタ

1977年、東京都生まれ。海外の最深部に分け入り、その体験を元に『物乞う仏陀』を上梓。斬新な視点と精密な取材、そして読み応えのある筆致でたちまち人気ノンフィクション作家に。近年はノンフィクションだけでなく、小説、児童書、写真集、漫画原作、シナリオなども発表している。主な作品に『絶対貧困』『遺体』『43回の殺意』『「鬼畜」の家』『近親殺人』『こどもホスピスの奇跡』(いずれも新潮社)『本当の貧困の話をしよう』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』(ともに文藝春秋)『教育虐待一子供を壊す「教育熱心」な親たち』(ハヤカワ新書)など。

石井光太 公式ホームページ (外部リンク)

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