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この喪失は永遠に取り戻せないのか――あなたが再会したい人は誰ですか?

  • 受賞第32回 吉川英治文学新人賞
  • 映画化ツナグ(2012年10月公開)

ツナグ

辻村深月/著

1,620円(税込)

本の仕様

発売日:2010/10/29

読み仮名 ツナグ
雑誌から生まれた本 yom yomから生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 318ページ
ISBN 978-4-10-328321-8
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品、文学賞受賞作家
定価 1,620円

もしOKしてくれたら、絶望的な孤独から私を救ってくれた「あの人」に、ただ一言、お礼が言いたいんです――。たった一人と一度だけ、死者と生者を再会させてくれる人がいるらしい……。大切な人を失った後悔を抱えながら、どう生きればいいのか。誰もが直面する苦悩に真っ正面から挑んだ、著者渾身の連作長篇ミステリ!

著者プロフィール

辻村深月 ツジムラ・ミヅキ

1980(昭和55)年生まれ。千葉大学教育学部卒業。2004(平成16)年に『冷たい校舎の時は止まる』でメフィスト賞を受賞してデビュー。『ツナグ』で吉川英治文学新人賞を、『鍵のない夢を見る』で直木賞を受賞。著書に『ぼくのメジャースプーン』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『オーダーメイド殺人クラブ』『水底フェスタ』『盲目的な恋と友情』『朝が来る』『東京會舘とわたし』『クローバーナイト』など。

目次

アイドルの心得
長男の心得
親友の心得
待ち人の心得
使者の心得

インタビュー/対談/エッセイ

波 2010年11月号より 辻村深月『ツナグ』刊行記念対談 生きること、食べること

飯島奈美辻村深月

登場人物に息を吹き込む/たった一人と再会できるなら


登場人物に息を吹き込む

辻村 映画「かもめ食堂」を観て以来、大ファンです。今日お目にかかれるのを本当に楽しみにしていました。実は母も大ファンなんです。(注・飯島氏は「かもめ食堂」の料理を担当)
飯島 ありがとうございます。今ちょうど、「かもめ食堂」から十月末公開の「マザーウォーター」まで、劇中で扱ったレシピをまとめた新刊の作業中で、お恥ずかしいのですが今回、千二百字のエッセイを十本書いたりもしました。思った以上に大変で、『ツナグ』のように長い物語を書かれることは、それだけで尊敬してしまいます。お話もとても面白かったです。「読んで良かった」と、ひとりの読者として心から思えました。
辻村 すごく嬉しい! ありがとうございます。飯島さんにそんなふうに言って頂けるなんて、小説を書き続けてきて本当に良かった。『ツナグ』を書き始めた当初は、「死者に会うことができる」という設定自体を単純に面白いと思っていただけでした。書き進むにつれて、「大切な人を喪失すること」についての苦悩や、「生きるとはどんなことか」という大きなテーマに思いがけず行き着くことができて、自分でも驚いています。それに、二章目に登場するおじさん――若者の言葉が全く通じず、自分以外の価値観を受け入れない、私が最も苦手とするタイプの人――を書けたことも、大きな変化でした。
飯島 あの、嫌なおじさんですね(笑)。最後まで嫌な感じのままだったのが、逆にリアルに感じられました。三章目の親友同士の話は、とても怖かったです。素直に生きないと痛い目に遭うということを、思い出させてくれました。
辻村 書き終えて「生きること」を考えたときに、真っ先に浮かんだのが飯島さんの作られる料理でした。映画「南極料理人」の「ラーメン」は特に印象に残っています。南極という非日常の、しかも観測ドームという閉鎖空間にいても、美味しいものを食べたいし、食べるものは他にあっても食べたいものを食べたがる、という欲求に、人間らしく生きる実感を強く覚えました。
飯島 『ツナグ』を読ませて頂く前は、死というものを具体的に考えることはなかったのですが、逆に、生きることは食べていくことだ、ということは仕事柄よく考えます。日々何を食べるのか――実際は、きんぴらやひじきなどたわいもないお総菜が、人を強くしたり大きくしたりする。食べたものが人間の血となり肉となっていることを、最近改めて感じてもいます。
辻村 料理に日常が感じられる、というのが飯島さんの特に素晴らしいところですよね。「南極料理人」でも、朝ごはんのシーンで始まり朝ごはんのシーンで終わりますが、ご飯の温かさなど南極にいることを忘れさせる力があります。
飯島 映画やCMを観た方から、「ふつうのご飯が美味しそう」と感想を頂くことがあって、それが私にはとても嬉しい褒め言葉です。観た人が「自分で作ってみたい」と思えるような、身近で日常と地続きの料理を、一瞬の映像の世界でいかに美味しく見せられるかを常に心がけているので。
辻村 ご著書の『LIFE』『LIFE2』(ほぼ日ブックス)では、それぞれのレシピに、どんな家族のどんな状況で作られたのか、「設定」がつけられていますよね。「おとうさんのナポリタン。」のレシピでは、茹でたスパゲッティをザルにあげて、あえてのばしていて、そこにリアリティーを感じました。「のびてしまう? いえ、のばすんです」という一文は、衝撃的でさえありました。
飯島 あの工程は色々な方が驚いたようでした。でも、例えば昔ながらの喫茶店では、あらかじめ茹でておいた麺をフライパンで炒めて出したりもしていて、「おとうさんの……」という設定には、これが一番合うように思ったのです。設定を考えるのは、仕事の中でも重要な要素です。脚本に「美味しい鍋」とだけ書いてあり、監督に具体的な考えがなかった時は、自分であれこれ考えます。ぶっきらぼうに見えつつ優しい人柄の主人公だからきっと九州男児で、それなら博多出身のイメージで水炊きにしよう……といった具合に。ほとんど妄想に近いのですが(笑)。でも、「この場面でどうしてこの料理なのか」という問いには、相手を納得させられるだけの理由を、いつもきちんと持っていたいのです。
辻村 私も小説を書く時、登場人物がコマにならないように気をつけています。作家の都合だけで表舞台から消してしまうことは、絶対にしたくありません。それぞれの想いや生活が滲んできたり、物語が終わっても世界のどこかで彼らの暮らしが続いているのでは、と読者に思ってもらえたりするように、細部の描写にもこだわりたい。以前、年配の女性から頂いたお手紙で、料理のシーンを褒めて頂いたことがありました。「食べることが書ける作家は人間がかける人」とまで書いて下さっていて、とても嬉しかったです。『ツナグ』では、主人公の歩美に、ジュンヤワタナベがデザインしたコートを着せました。コム・デ・ギャルソンに十五万円を使う男子高校生って一体どんな性格だろうと考えることで、自然と彼の人間性も広がっていきました。
飯島 私の場合で言うと、テーブルクロスやナプキン、食器へのこだわりと同じですね。綺麗なクロスやナプキン、高級な食器などは、見た目は美しいのですが、例えば家族で囲む日常の食卓では私自身使わないし、特別なことだと思っています。シチュエーションによって意味がある場合ももちろんありますが、「普段の食事」を扱った『LIFE』では、使いたくありませんでした。
辻村 料理に感じられる日常性は、そういうこだわりにも秘訣があるのですね。
飯島 『ツナグ』に出てくる、「卵をつけて焼いたおにぎり」は、私も好きでよく作ります。
辻村 飯島さんと対談させて頂くのに、『ツナグ』には料理のシーンが少なくて心配していたので、安心しました。あのおにぎりは、幼少時から母が作ってくれたものです。雑誌連載時に母から電話があり、「卵だけじゃなく小麦粉をつけなきゃだめよ」と言われて単行本では直したのですが、何より、母が私の小説を読んでくれていたというのに驚きました。しかも雑誌掲載の時点で読んでいるなんて、二重の驚きです。
飯島 私の母は逆に、娘に委ねようとする傾向があります。実家に帰ると、最後の味付けの段階になって「奈美やって」と頼んでくるんです。「私はお母さんの味が食べたいのに……」と思いつつ、つい引き受けてしまう。
辻村 でも飯島さんが娘なら、誰もがお願いしたくなるかも(笑)。私の場合、子どもの頃、言葉でのコミュニケーションをあまり取ってこなかった母娘関係だったのですが、料理を間に挟むことで、とてもスムーズに話ができるようになりました。でも、大家族だった我が家は大皿から各自取り分ける習慣で、それぞれの料理で味のバランスが取れるように母がとても気を配っていたというのが、毎日料理を作るようになった今、分かるようになりました。言葉ではないところで、ちゃんと繋がっていたのだなと実感しています。
飯島 「毎日作る」ことは、大変であり、とても面白いことでもありますよね。スーパーなどで買ってくるお総菜やお弁当は、決められた調味料で作られているので常に同じ味ですが、家庭で作る料理はまったく同じものになることはほとんどありません。「今日は疲れているから薄味に」というように、作り手の気持ちによって味が変わります。まさに、生きることと直接的に繋がっているのだなと感じます。

たった一人と再会できるなら

辻村 たくさん食べ物のお話が出ましたが、「かもめ食堂」で、「もし明日世界が終るなら、何をしたいか?」という問いに、「すごく美味しいものが食べたい」と答えるシーンが心に残っています。飯島さんなら何を食べたいですか?
飯島 うーん悩みますね。よく変わるのですが、今は卵かけご飯でしょうか……。少し前までは焼きそばでした。辻村さんは何ですか?
辻村 私はお味噌汁です。それも、豚汁。お肉を厚めに切ってねりゴマを入れた、具沢山の豚汁とご飯があれば、もうそれだけでいい!
飯島 お互い素朴なものですね(笑)。でも、料理と思い出とは深く結びついているから、家庭的な食事を最後の晩餐に選ぶのは、当然なのかもしれません。
辻村 グルメブームやロハスブームなど、外食を中心とした食のブームがある一方で、飯島さんが作る料理に多くの人が共感しているのは、料理の向こうに自分が体験してきた様々な場面が思い浮かぶからだと思います。私の母の言葉を借りるなら、「口がおごっていない」料理。だからこそ、母のような上の世代の人から、若い世代まで、幅広い年齢層に支持されるのでしょうね。最後の晩餐もですが、もし飯島さんが『ツナグ』の世界のように、たった一人と一度だけ、死者と再会することができるならば、今の時点で会いたい人はいますか?
飯島 これも悩みますが、母方の祖母に会って、祖母が作るご飯を食べてみたいとは思います。
辻村 私も今一人選ぶとしたら、父方の祖母です。祖母が生前作ってくれた、四方に味噌をつけたおむすびは今でも忘れられません。同じ味噌むすびでも各家庭で違っているので、祖母が作ったままの味噌むすびをもう一度食べてみたい。
でも、祖母には会わなくてもいいとも思っています。というのも、祖父が健在で、私が作家になったことも含めてずっと見守ってくれているのですが、祖父の中に祖母の視線も一緒に生きて私を見てくれているような気がするし、何より、やはり祖母に会う資格を持つのは、私よりもまずこの祖父だろうと思うんです。小説のなかで、「死者とは、たった一人と一度だけしか会えない」と厳しく設定したことは、結果的に生者側の驕りを排除することになったのかもしれませんね。誰かの死に引きずられていない今の私だからこそ、死に対してある意味フラットな状態で書けたということでもあり、自分でも満足しています。
飯島 うまく説明できませんが、私自身、読み終えて自分の中の何かが変わったような気もしています。実は、アシスタントも一緒に、“辻村さんブーム”が巻き起こっているんです(笑)。『ツナグ』に続いて、『ぼくのメジャースプーン』(講談社)も読ませて頂いています。今日は御礼に、バナナケーキを作ってきました。ぜひ召し上がって下さい。
辻村 ええ!! どうしよう、信じられないくらい嬉しいです。やっぱり、小説を書き続けてきて本当に良かった(笑)。

(いいじま・なみ フードスタイリスト)
(つじむら・みづき 作家)

判型違い(文庫)

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