エスプリ思考―エルメス本社副社長、齋藤峰明が語る―
1,430円(税込)
発売日:2013/04/18
- 書籍
- 電子書籍あり
世界最高峰ブランド、エルメスの強さをフランス本社副社長が解き明かす。
なぜ「エルメス」は、躍進を続けられるのか? 歴史を尊重し革新を続ける、老舗企業での仕事の流儀とは? 「商人であり、詩人であれ」「エスプリとは家風のようなもの」「明日のことを恐れよ」――日本人初の本社役員となった齋藤副社長が、創業1837年以来脈々と受け継がれてきた独自の哲学を、自らの体験と共に語りつくす!
目次
まえがき
第一章 エルメスで働く
職人が尊重されている/日本市場は重要である/エルメスの思想を伝える/社史とは何か?/エルメス・ファミリー/「限られた量の家業ビジネス」の崩壊/遺言のない相続/利益ありきではない/「ディテールから見方を変える」/謙虚じゃないと感動できない/買ってもらわなくても喜んでもらう/世界中から社員が集って行うセミナー/エルメスはブランドか/量の拡大を目的としたブランド/価値に見合った価格/分業ではなく一人の職人が完成まで/職人に求められる創意工夫/世界を巡る職人の研修/マーケティングをやっている会社ではない/客と近い距離でモノ作りをする/アフターサービスの充実/職人ならではのユニフォーム/ライセンス・ビジネスは手がけない/大きくなっても太ってはいけない/使って価値を得る“実用品”/「新しい幸せのための水に飛び込めるか」/エルメスの凄さの伝え方/社員の前で行った三時間の演説/ライバルは虎屋/職人のモノ作りの現場を見る研修/階級区分ではなく役割分担
第二章 齋藤ができるまで
「フランスに来ること」/パリに行くことが目的/背広でアルバイトに行き、セーターに着替えて学校に行く/百貨店の時代の渦中でヨーロッパ中を巡る/百貨店は外国文化に触れる場/ピアチェンティーニ氏との出会い/破天荒な企画ツアー/ノートルダム大寺院でクラシックコンサート/「パリ三越」の駐在所長/パリで小売店を手がけてみたい/日本の暮らしを紹介する/いきなり現物を見せたプレゼン/パリの一等地にショップを作る/世界に向けて/高田賢三氏の自邸を作る/キヤノンのプロモーションを手伝う
第三章 「メゾンエルメス」を創る
旗艦店をゼロから創り上げる/「日本とエルメスとは同じことを企んでいる仲間」/建築家はレンゾ・ピアノ氏/「逆さにした木」に見立てた建物/前例なきことへの挑戦/「エルメスならば、にせものを作ってはいけない」/社内向けに行った「メゾンツアー」/「メゾンエルメス」で行われた合唱会/「想定以上のことが起こると感動まで行き着く」/銀座の商店会とつながる/銀座を巻き込んだジャズイベント/地に根をはってブランドを作る
第四章 仕事って何だろう?
日本でやるべきことはやった/マーケティング担当副社長に/エルメスの価値分析を行う/“エスプリ”という価値/エルメスの新しい可能性を探る/異なる分野でエルメスの精神性を生かす/世界を飛び回る多忙な日々/どこでも簡単に眠れるから大丈夫/「足は地に、頭は宇宙に」/自分の生活が豊かでないのはおかしい/組織のために仕事をするのではなく、目的のために仕事をする/誰に対しても正直で茶目っ気がある/大きな軸を一人一人が理解すること/日本型でも米国型でもない/皆と同じなのが大嫌い/本店の上階にある「ミュージアム」/「ミュージアム」はエルメスの魂/市場の潮流を読む/二一世紀型の消費を目指して/“日本のブランド”が生まれる兆し/規模の拡大がイコール進歩ではない/「日本で最も美しい村」連合/若者の起業家精神や女性の底力を/日本ならではのライフスタイルが生まれる時期/世界から見ても新しいライフスタイルをかたちに
第五章 新しい時代の価値観
1.“流行で終わらない創造”に挑む
2.“生業”を貫いていく
3.“使う豊かさ”を提案する
4.“価値と価格のバランス”をとる
5.“精神的な価値やストーリー”を伝える
6.“インテリジェントな消費”に応える
7.ライフスタイルを提案する
8.定量の中で質を追求する
「エルメスでさえも、崩して作ってみる時代」
2.“生業”を貫いていく
3.“使う豊かさ”を提案する
4.“価値と価格のバランス”をとる
5.“精神的な価値やストーリー”を伝える
6.“インテリジェントな消費”に応える
7.ライフスタイルを提案する
8.定量の中で質を追求する
「エルメスでさえも、崩して作ってみる時代」
あとがき
書誌情報
読み仮名 | エスプリシコウエルメスホンシャフクシャチョウサイトウミネアキガカタル |
---|---|
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判 |
頁数 | 224ページ |
ISBN | 978-4-10-333891-8 |
C-CODE | 0095 |
ジャンル | ノンフィクション、産業研究 |
定価 | 1,430円 |
電子書籍 価格 | 1,144円 |
電子書籍 配信開始日 | 2013/10/25 |
書評
波 2013年5月号より エルメスと虎屋
1998年のこと、齋藤さんがエルメス・ジャポンの社長になられたときに、雑誌のインタビューでライバルはと聞かれ、「虎屋さんでしょうか」と答えていらしたのです。
これはどういうことだろう、と私から人を介してお声をかけました。虎屋がライバルという意味合いを、とにかくうかがってみたくなったのです。そうおっしゃるからには興味を持ってくださっているのだろうなと思いつつも、お会いするまではどんな方なのかまったく想像がつきませんでした。
この本を読み進めるうちに齋藤さんの魅力がお分かりいただけると思うのですが、ご本人は聡明で穏やかなお人柄。お会いした瞬間にそれを感じました。彼のことを品のいい大学教授のようだと評する方がいましたが、私の第一印象は、「いい人に出会えたな」です。
日本でエルメス・ジャポン社長を10年ほど勤められたあと、18歳のころから移り住まれていたフランスに戻り、エルメス本社で、外国人初の役員となられます。それだけ聞いたら、普通想像するのは、アメリカやフランスのビジネススクールを出たバリバリのビジネスマン、というものだと思います。ところが、しなやかで周りの人に安心感を与える齋藤さんは、前述した品のいい大学教授でなければ、“文化人”という印象です。おそらくエルメスのデュマ前社長も、そのような彼を見込んで役員にされたのでしょう。
著者の川島さんも同じところにほれ込まれたのではないでしょうか。本の随所に齋藤さんへの敬愛が感じられ、いつしかそれは、エルメスに対する興味と追究に移っていきます。そして、お二人が出会ってから10年、取材開始から3年と仄聞する時間の経過とともに、川島さんは、エルメスの真髄は齋藤さんのように、周りの人や自分たちのつくるものを本気で愛し、その先にいらっしゃるお客様に常に思いを馳せているところにあるのだと発見されてゆくのです。エルメスの大切にしているものと齋藤さんの大切なものが一致しているのです。
齋藤さんの講演や言葉を聴いていつも感じるのは、僭越ながら「私の考えていることと同じだな」ということです。物事の捉え方や視点が一致する。私が思っていることを語ってくださっている――そんな感覚さえあります。
自分たちがつくる商品に対する見方もそうです。商品は、職人の心意気そのもの、そして商品はお客様との接点であるという感覚です。和菓子に対するわれわれの思いと同じものを、エルメスの製品に対する齋藤さんの言葉に感じるのです。
この今という時代に生きる方々に喜んでいただけるか――そこがいちばんの共通項だと思います。齋藤さんも同じ思いだから、「ライバル」とおっしゃってくださったのかもしれません。この時代の最善は、次の時代の最善ではないかもしれない。伝統と歴史を保ちつつ、変えていくものもある。一方で、ものづくりに対する真摯さは変わることはない。いい鞄を作る、その思いは変えずに、いい鞄の形は変えるということです。
齋藤さんやエルメスの職人さんがどれだけ精魂をこめてつくっていらっしゃるか。それは、こちらもものをつくっているからこそ、わかっているつもりです。
たとえば、虎屋のつくり手は、つくった菓子を、お客様と同じ状況で食べています。漆の器にのせて楊枝を使い、お茶の時間の午後3時頃に食べてみる。すると、自分たちがよしと思ってつくったものが、硬すぎるとか大きすぎるとか、別の視点で見えてくる。
そうした私たちの姿勢と通ずるものを、具体的に確認できるのがこの本でした。たとえば、「クーズュ セリエ=サドルステッチ」と呼ばれる独特の革製品の縫い方のことなどもその一例です。
ほかにも、共鳴する齋藤さんの言葉がいくつもありました。「リーダーの言葉が積み重ねられていくことで、エルメスという企業の哲学は作られてきた」、「僕が考えるエルメスのマーケティングとは、強いて言葉にするなら、作り手の意志と使い手の意志を交流させること」、「豊かさとは量ではなく質であることが肝要。定量の中で質を追求する視点こそが大事」などのフレーズも、大いに納得のいくところです。皆さんもこの本の中の素晴らしい言葉の数々から、エルメスの神髄を感じ取っていただけるのではないでしょうか。
これはどういうことだろう、と私から人を介してお声をかけました。虎屋がライバルという意味合いを、とにかくうかがってみたくなったのです。そうおっしゃるからには興味を持ってくださっているのだろうなと思いつつも、お会いするまではどんな方なのかまったく想像がつきませんでした。
この本を読み進めるうちに齋藤さんの魅力がお分かりいただけると思うのですが、ご本人は聡明で穏やかなお人柄。お会いした瞬間にそれを感じました。彼のことを品のいい大学教授のようだと評する方がいましたが、私の第一印象は、「いい人に出会えたな」です。
日本でエルメス・ジャポン社長を10年ほど勤められたあと、18歳のころから移り住まれていたフランスに戻り、エルメス本社で、外国人初の役員となられます。それだけ聞いたら、普通想像するのは、アメリカやフランスのビジネススクールを出たバリバリのビジネスマン、というものだと思います。ところが、しなやかで周りの人に安心感を与える齋藤さんは、前述した品のいい大学教授でなければ、“文化人”という印象です。おそらくエルメスのデュマ前社長も、そのような彼を見込んで役員にされたのでしょう。
著者の川島さんも同じところにほれ込まれたのではないでしょうか。本の随所に齋藤さんへの敬愛が感じられ、いつしかそれは、エルメスに対する興味と追究に移っていきます。そして、お二人が出会ってから10年、取材開始から3年と仄聞する時間の経過とともに、川島さんは、エルメスの真髄は齋藤さんのように、周りの人や自分たちのつくるものを本気で愛し、その先にいらっしゃるお客様に常に思いを馳せているところにあるのだと発見されてゆくのです。エルメスの大切にしているものと齋藤さんの大切なものが一致しているのです。
齋藤さんの講演や言葉を聴いていつも感じるのは、僭越ながら「私の考えていることと同じだな」ということです。物事の捉え方や視点が一致する。私が思っていることを語ってくださっている――そんな感覚さえあります。
自分たちがつくる商品に対する見方もそうです。商品は、職人の心意気そのもの、そして商品はお客様との接点であるという感覚です。和菓子に対するわれわれの思いと同じものを、エルメスの製品に対する齋藤さんの言葉に感じるのです。
この今という時代に生きる方々に喜んでいただけるか――そこがいちばんの共通項だと思います。齋藤さんも同じ思いだから、「ライバル」とおっしゃってくださったのかもしれません。この時代の最善は、次の時代の最善ではないかもしれない。伝統と歴史を保ちつつ、変えていくものもある。一方で、ものづくりに対する真摯さは変わることはない。いい鞄を作る、その思いは変えずに、いい鞄の形は変えるということです。
齋藤さんやエルメスの職人さんがどれだけ精魂をこめてつくっていらっしゃるか。それは、こちらもものをつくっているからこそ、わかっているつもりです。
たとえば、虎屋のつくり手は、つくった菓子を、お客様と同じ状況で食べています。漆の器にのせて楊枝を使い、お茶の時間の午後3時頃に食べてみる。すると、自分たちがよしと思ってつくったものが、硬すぎるとか大きすぎるとか、別の視点で見えてくる。
そうした私たちの姿勢と通ずるものを、具体的に確認できるのがこの本でした。たとえば、「クーズュ セリエ=サドルステッチ」と呼ばれる独特の革製品の縫い方のことなどもその一例です。
ほかにも、共鳴する齋藤さんの言葉がいくつもありました。「リーダーの言葉が積み重ねられていくことで、エルメスという企業の哲学は作られてきた」、「僕が考えるエルメスのマーケティングとは、強いて言葉にするなら、作り手の意志と使い手の意志を交流させること」、「豊かさとは量ではなく質であることが肝要。定量の中で質を追求する視点こそが大事」などのフレーズも、大いに納得のいくところです。皆さんもこの本の中の素晴らしい言葉の数々から、エルメスの神髄を感じ取っていただけるのではないでしょうか。
(くろかわ・みつひろ (株)虎屋社長)
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著者プロフィール
川島蓉子
カワシマ・ヨウコ
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。ifs未来研究所所長。ファッションという視点で消費者や市場の動向を分析している。多摩美術大学非常勤講師。Gマーク審査委員。読売新聞で「くらしにごほうび」という週刊コラムを連載。その他、日経MJ、ブレーン、日経トレンディなどに定期的に寄稿。著書に『伊勢丹な人々』『TOKYOファッションビル』『イツセイミヤケのルール』(以上、日本経済新聞出版社)、『ビームス戦略』『松下のデザイン戦略』(以上、PHP研究所)、『上質生活のすすめ』(マガジンハウス)、『資生堂ブランド』『ユナイテッドアローズ』(以上、アスペクト)、『川島屋百貨店』『社長とランチ』(以上、ポプラ社)、『虎屋ブランド物語』(東洋経済新報社)、『ブランドはNIPPON』『川島プロジェクト』(以上、文藝春秋)、『ブランドのデザイン』(文春文庫)、『チャーミングな日用品 365日』(ハースト婦人画報社)など多数。
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