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エロスでよみとく万葉集 えろまん

大塚ひかり/著

1,430円(税込)

発売日:2019/08/21

  • 書籍
  • 電子書籍あり

ナンパする天皇に、パンツを脱ぐ乙女?! 万葉集はこんなにエロ面白かった!

「君、センスいいね。俺、天皇」といきなりナンパしたり、「彼氏が来るからパンツ脱いで待ってよう♪」って赤裸々過ぎたり、単身赴任先で愛人に入れあげてたら本妻が乗り込んできたり! 新元号「令和」の出典として大注目の『万葉集』は、現代のツイッターも真っ青、エロ面白い歌のオンパレードだった! 衝撃の古典超訳。

目次
はじめに 日本の国柄はエロにある
第一部 異常に多いエロ歌、恋歌
第一章 筆頭は天皇のナンパ歌
精力絶倫、雄略天皇/天皇のナンパ歌が筆頭にくるわけ/名を問う意味
第二章 浮き彫りになるエロい習慣
あらかじめパンツを脱いで待ってる女/恋しい男とまた逢えるよう下着を交換
第三章 高い遊女の地位
天平のモンローの正体は?/妻と別れて遊女と結婚する!
第四章 エロさの秘密は母にある
意外とゆるい母の管理/母より本人の思いが大事/防人も別れを惜しむのは母と。妻の肌も恋しい
第五章 エロい比喩の歌が生んだ日本古典の伝統
初潮か、初体験の歌か/花鳥風月でエロを表す伝統のルーツ/森羅万象にエロを見る
第二部 万葉時代にも恋の制約
第六章 人妻ブーム
律令制導入で人妻に脚光/「人妻」は日本固有のことば?/ゆるいタブー意識
第七章 三角関係――「性=政」だった時代の暗黒面とロマン
山の三角関係に潜む? 政治闘争/政治的対立を三角関係で表現する日本神話/性=政だった時代/三角関係に悩んだ伝説の乙女たち
《コラム》メビウスの輪的万葉相関図――高市皇子の妻たち
高市皇子を捨て、穂積皇子のもとに走った但馬皇女/父と夫が戦った十市皇女/十市皇女の死を悼む高市皇子
第三部 今と変わらぬ恋心
第八章 男の妄想、女のおせっかい
ほほ笑んだだけで「俺のヨメ」とか言う男/「彼女」と呼んでみたい男/ツンデレ女好き/踏まれたい/あの子にかかる水になりたい/オープンにしてほしいの/人の男をディスる女
第九章 すぐに死ぬ死ぬ言う男女
いっそ死んでくれ/言霊、どうした?/死を道具に使う万葉人
第十章 恋に嫉妬はつきもの
激しい嫉妬の裏に秘められた知性/知性全開、チクリとした嫉妬/元祖・激しい嫉妬の女と“イハ”という名
第十一章 老いらくの恋
年下の男に口説かれる女/白髪が生えても恋はする/老いらくの恋が肯定される背景
第十二章 家持と池主のBL歌
第四部 今と昔を結ぶ糸
第十三章 みんな大好き恋占い
待ち人来たるの前兆/夢やおまじないに頼る/占い――さらに積極的な運命へのアプローチ
第十四章 日本文化の源流『万葉集』
『源氏物語』に影響/『大和物語』では悲恋の物語に/「磯のアワビの片思い」のルーツ/昔話の源流/あれも中国の影響だった?
第十五章 ひかり選・恋の万葉秀歌
教科書でもおなじみの恋の名歌/官能的な歌、二人だけの世界/愛さえあれば/恋の滑稽味
あとがき 『万葉集』のにおい
系図(1)主要万葉歌人の系図/系図(2)メビウスの輪的万葉相関図/系図(3)イハノヒメ系図
年表
参考文献・参考原典
『万葉集』エロ歌索引

書誌情報

読み仮名 エロスデヨミトクマンヨウシュウエロマン
装幀 Minoru/カバーイラスト、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-335093-4
C-CODE 0095
ジャンル 文学・評論
定価 1,430円
電子書籍 価格 1,430円
電子書籍 配信開始日 2019/09/20

書評

パンクロックで万葉集

伏見憲明

 大塚ひかりは古典文学者のパンクロッカーである。敵は学術的な権威。この国に受け継がれてきたいにしえの文学を大仰に、恭しく、桐の箱に収めて我がものとする連中に、「てめえら、なに気取ってやがるんだ! ほんとの日本の古典の醍醐味はそんなことじゃねーんだよッ!!」と挑み続けて幾年月。今度は「令和」の命名とともに俄然注目を集めている「万葉集」を、まさにパンクに読み解いている。
 例えば、「天の川 相向き立ちて 我が恋ひし 君来ますなり 紐解き設けな」という一見格調高い一首も、大塚が超訳するとこうなる。「天の川に向き合って立ち、私が恋し続けたあの方が来る。パンツを脱いで待っていよう」
 まるでフランク・シナトラの「マイ・ウェイ」を皮肉たっぷりに歌い上げたシド・ヴィシャスのように胸のすく歌いっぷりではないか! ただ、セックス・ピストルズがオリジナルを借りてそれと正反対のメッセージを伝えようとしているのに対し、大塚は異なる言葉を用いることによって、元歌の意味やニュアンスの“ほんとう”を呼び起こそうとしている。今回の超訳はむしろ、高尚な芸術表現に祭り上げられた表現に、極めてシンプルな言葉を対置することで、権威主義の仮面を剥がそうとしているかのようだ。
 そして当然のことながら、こんな大胆な試みが許されるのは、大塚が長きにわたり研鑽を積み、ちくま文庫の『源氏物語』の現代語訳を任されるほどの実力を認められているからに相違ない。
 本書ばかりでなく、大塚が一貫して主張しているのは、「日本はエロいんだよ!!」ということに尽きる。この国の文化や天皇を中心とした政治の本質はまさにそこにあっただろうに、なぜかそのようには解釈されてこなかった。文化の核心に目が瞑られてきたのだ。
 しかし奈良時代、中国から律令制度を取り入れるときに、なぜ、同時に後宮へ宦官の制度が導入されなかったのか。宦官は王の血統を守るための監視システムだが、それがこの国では採用されていない。ユーラシア大陸の東の列島には、性を管理することが馴染まなかったからであろう。
 大塚はこの国の性のゆるさの理由を、子ダネよりも腹のほうを重視する母系的な社会だったことに求めている。「財産が父から息子へ継承される父系的な社会だと、我が子が本当に自分のタネかということが大きな問題となる。(略)だから女の性を厳しく取り締まる。ということは相手の男の性も厳しく取り締まることになる」。逆に、血統にこだわらなければ、社会はもっとエロくなる!

 本書『えろまん』で非常に興味深かったのは、「万葉集」には「人妻ブーム」がある、という指摘だった。大塚は「ひとづま」への思慕を綴った歌が多い理由を、「中国から律令制度が導入されたこと」に関係するとしている。それまで結婚している女性との性交渉をそれほどはいけないものだと思っていなかった日本人が、改めて律令によって禁じられたことで、かえってそこに「ひとづま」への欲望が膨らんだ、のだと。
 そのことに絡んで大塚はこんな歌を紹介する。「人妻と あぜかそを言はむ 然らばか 隣の衣を 借りて着なはも」(「人妻にあんで触れちゃなんねぇだべ? そんだら隣の着物を借りて着ないっちゅうべ?」)
 古典文学の門外漢にも、当時の日本人の感覚はこんなものだったのかもしれない、と思わせてくれるのは、大塚が紹介するように、性のゆるさ、多様な性愛のオンパレードを「万葉集」自体が教えてくれるからである。
 天皇のナンパ歌ではじまる構成からしても権威や権力を崇めようとする重々しさはなく、そこには老いらくの恋もあれば(巻第二・一二九「年取った婆さんなのに、こんなにも恋に沈むものなのか、幼子のように」)、現代の日本でも流行っているBL短歌もある(巻第十七・四〇一〇「私の恋しい家持さまがなでしこの花だったらなぁ。毎朝見るのに」)。大塚は、「当時の歌がまるでツイッターのつぶやきのようにカジュアルで身近」と指摘する。本来、歌というメディアが持っている機能を考えれば、それはいい得て妙なのかもしれない。

 本書『えろまん』を読んで、やはり年号を国書「万葉集」に求めたのは正解だったと思った。それは、出典を漢籍に求めたくなった為政者の気持ちとはいささか異なる愛国心。新しい御代が「万葉集」のごとく色っぽく、それを可能にする平和な時代であらんことを祈るからである。

(ふしみ・のりあき 作家)
波 2019年10月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

大塚ひかり

オオツカ・ヒカリ

1961年横浜市生まれ。古典エッセイスト。早稲田大学第一文学部日本史学専攻。『ブス論』、個人全訳『源氏物語』全六巻(以上、ちくま文庫)、『本当はエロかった昔の日本』(新潮文庫)、『女系図でみる驚きの日本史』『女系図でみる日本争乱史』『毒親の日本史』(以上、新潮新書)、『くそじじいとくそばばあの日本史』(ポプラ新書)、『ジェンダーレスの日本史』(中公新書ラクレ)など著書多数。趣味は年表作りと系図作り。

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