
うん古典―うんこで読み解く日本の歴史―
1,705円(税込)
発売日:2021/04/28
- 書籍
- 電子書籍あり
うんこから神が生まれる『古事記』『日本書紀』以来、日本の古典はうんこだらけ!?
『万葉集』にうんこの歌があるのはなぜ? 王朝文学にうんこ話が多いのは背景に浄土思想があったとは!? トイレのマナーに細かく、きびしかった道元――色恋も厳粛な気分もぶち壊す破壊力と新たな生命を生み出す創造力をあわせもつうんこ。笑撃のパワーをもつうんこを通じて日本文化の深淵に迫る抱腹の歴史エッセイ。
2 「うんこ王」と国作り うんこ=土を制する者が国を制す
3 万葉人はなぜうんこを歌に詠んだのか うんこの魔除けパワー
5 侍のメイン業務はトイレ掃除 うんこまみれだった平安京
6 『正法眼蔵』は鎌倉時代版『人生がときめく片づけの魔法』 幸せになるトイレのマナー
8 おならの罪 おならで村が全滅、上皇が作った「おなら絵巻」
9 家康は戦場で糞を漏らしたのか 戦争とうんこ
11 「糞食らえ」のルーツ 悪口で、挨拶で、まじない
12 うんこと心の関係の発見 今も昔も健康のバロメーター
年表式うん古典索引
参考原典
書誌情報
読み仮名 | ウンコテンウンコデヨミトクニホンノレキシ |
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装幀 | 五月女ケイ子/装画、新潮社装幀室/装幀 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判 |
頁数 | 192ページ |
ISBN | 978-4-10-335094-1 |
C-CODE | 0095 |
ジャンル | 文学・評論 |
定価 | 1,705円 |
電子書籍 価格 | 1,705円 |
電子書籍 配信開始日 | 2021/04/28 |
インタビュー/対談/エッセイ
うんこぼれ話
うんこの本を出したい。何十年も前からそう言い続けてきました。うんこ本を出すことはいわば長年の夢で、今回、その名も『うん古典―うんこで読み解く日本の歴史―』というタイトルの本が出る運びとなり、夢が叶ったわけですが、夢といえば、寝て見る夢……文字通りの夢の中でも、うんこが出てきたことが何度かあります。
印象的だったのが、高さ20メートル、径5メートルくらいの巨大なドラム缶で大量のうんこが煮られている夢です。生まれ育った町にあった公園にドラム缶が置かれているという設定で、なぜか汚い感じはしませんでした。
ネットの夢占い(夢合わせ)によれば、うんこの夢は金運上昇の吉夢といいます。「うんがつく」といった日本人お得意の語呂合わせによるのかと思いきや、知人に聞いた話によると、おばあちゃんがうんこの夢を見て以来、羽振りが良くなった、と語っていたエストニア人がいるといい、意外とグローバルなもののようです。
本書でも触れたように、神話には、女(神)が排泄物として財宝や食物を出して殺されたり、その死体から財宝や食物を分泌したりするという話型があり、昔話(民話)にも、海中の女からもらった黒猫が糞として出す黄金によって、貧乏人が金持ちになるという話があります。江戸時代には長屋の住民の排泄物を大家が金に替えていたのも知られた話で、古今東西、うんこは「富」と結びついていました。
しかし、先の私の夢で問題なのは、うんこが煮られていたという点です。
思うにこれ、同じく本書で紹介した、うんこ地獄のことが頭の隅に残っていたのでしょう。うんこ地獄というのは、平安中期に書かれた『往生要集』に出てくる地獄で、正確には、“等活地獄”に附随する別処の一つ“
熱々のうんこを食いながら、虫にカラダ中を食われるとは、どれだけ重い罪を犯したのかという感じですが、屎泥処は生前、鹿や鳥を殺した者が行きます。もちろん動物殺しの罪も重いとはいえ、そもそもの屎泥処の属す等活地獄は八大地獄の筆頭ですから、比較的軽い罪を犯した者たちのための地獄です(ちなみに最も重い罪を犯した者が堕ちるのが八大地獄の最下層にある無間地獄で、親殺しや聖者殺しといった五逆罪を犯した者が行きます)。
詳細は本書を読んで頂くとして……うんこ地獄のことは大学時代、初めて『往生要集』を読んだ時から深く胸に刻まれていました。今回、『うん古典』を書くにあたり、改めて『往生要集』を読み返し、夢に見たのでしょう。けれど、先にも書いたように、うんこの夢は吉夢なので、良しとしています。
そんなわけで、皆さんも『うん古典』を手にし、読んで頂いて、うんこの吉夢を見て頂ければ、と。
ただし、良い夢は、あまり人に語ってはいけないんですよ。本書で、
平安後期の歴史物語の『大鏡』には、この師輔の夢の話があって、それは朱雀門の前で、左右の脚を広げて西と東の大宮通りに踏ん張り、北向きになって内裏を抱きかかえて立っていたというもの。凄い吉夢であったにもかかわらず、それを聞いたお仕えする女房が「どんなにお股が痛くていらしたでしょう」と言ったため、師輔の子孫は栄えても、自身は摂政・関白になれずじまいだった、といいます。素晴らしく縁起の良い夢でも、悪い夢合わせをすると、外れてしまうわけです。
なので、うんこの夢を見ても、人に言わないほうがいいのです。言ったとしても、「余計な感想は言わないで」と付け加えることを忘れずに。
(おおつか・ひかり 古典エッセイスト)
波 2021年5月号より
単行本刊行時掲載
著者プロフィール
大塚ひかり
オオツカ・ヒカリ
1961年横浜市生まれ。古典エッセイスト。早稲田大学第一文学部日本史学専攻。『ブス論』、個人全訳『源氏物語』全六巻(以上、ちくま文庫)、『本当はエロかった昔の日本』(新潮文庫)、『女系図でみる驚きの日本史』『女系図でみる日本争乱史』『毒親の日本史』(以上、新潮新書)、『くそじじいとくそばばあの日本史』(ポプラ新書)、『ジェンダーレスの日本史』(中公新書ラクレ)など著書多数。趣味は年表作りと系図作り。