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幻のアフリカ納豆を追え!―そして現れた〈サピエンス納豆〉―

高野秀行/著

2,090円(税込)

発売日:2020/08/27

書誌情報

読み仮名 マボロシノアフリカナットウヲオエソシテアラワレタサピエンスナットウ
装幀 坂野公一(welle design)/装幀、高野秀行/写真
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 367ページ
ISBN 978-4-10-340072-1
C-CODE 0095
定価 2,090円
電子書籍 価格 2,090円
電子書籍 配信開始日 2020/09/18

究極の納豆は、アフリカの辺境に存在した――。知と食欲を刺激する前人未踏のミステリー冒険譚!

アジア辺境の納豆の存在を突き止めた著者が、今度は、IS出没地域から南北軍事境界線まで、幻の納豆を追い求める。隠れキリシタン納豆とは。ハイビスカスやバオバブからも納豆がつくられていた!? そして、人類の食文化を揺るがす新説「サピエンス納豆」とは一体。執念と狂気の取材が結実した、これぞ、高野ワークスの集大成。

目次
プロローグ
第1章 謎のアフリカ納豆 カノ/ナイジェリア
第2章 アフリカ美食大国の納豆 ジガンショール/セネガル
第3章 韓国のカオス納豆チョングッチャン/DMZ(非武装地帯)篇 パジュ/韓国
第4章 韓国のカオス納豆チョングッチャン/隠れキリシタン篇 スンチャン郡〜ワンジュ郡/韓国
第5章 アフリカ納豆炊き込み飯 ワガドゥグ〜コムシルガ/ブルキナファソ
第6章 キャバレーでシャンパンとハイビスカス納豆 バム県/ブルキナファソ
第7章 幻のバオバブ納豆を追え ガンズルグ県/ブルキナファソ
第8章 納豆菌ワールドカップ 東京都新宿区
第9章 納豆の正体とは何か
エピローグ そして現れたサピエンス納豆
あとがき
文献引用
謝辞
参考文献

書評

アジアとアフリカを繋ぐ納豆の旅

重田眞義

 謎解きの快感は何物にも代えがたい。未知との遭遇は探検好きにとっては至福の瞬間である。
「幻獣ムベンベ」以来の高野ファンである私にとって、この「アフリカ納豆」の謎追い話も期待を裏切らないものだった。アフリカにも納豆がある! という事実を知るだけでも随分と驚きなのだが、学術探検の報告としても一級の中身を備え、良質の学術ドキュメンタリーともいいたくなる筆致に何度も唸らされ、笑わされ、考えさせられながら一気に読み終えた。
 しかし、謎が解ける喜びには、一抹の悲しさというか喪失感が伴うこともある。それは郷愁を誘う味と香りとネバネバが、アフリカ納豆の登場によって東アジアの専売特許でなくなってしまうことから来るのかというとそうではない。実は、高野さんが発見したアフリカ納豆、その元祖ともいうべきパルキアというマメ科樹木のマメからつくられる「スンバラ」は、40年以上前から私の記憶の中にある謎の食物のひとつだった。今回、その謎が解けた。
 休学して出掛けた1回目のアフリカから戻った1979年の夏、2度目の大学3年生をしていた私は、8月29日に購入した書物でスンバラの名前をはじめて知った。『サバンナの博物誌』(新潮選書、昭和54年8月20日発行)は、西アフリカはブルキナファソのモシ王国研究で知られる文化人類学者川田順造先生による名著で、26ページからはじまる章の題が「スンバラ味噌」だった。発売直後にこの本を買い、アフリカにも持参して愛読した私にとって、それ以来ずっとスンバラは味噌だったのである。
 謎解きの最も妨げになるのは、思い込みと常識であり、観察に基づかない知識なのだと言っておこう。フィールドワークを信条とするアフリカ研究者として少々負け惜しみを記すと、私は1978年にはじめてアフリカの地に足を踏み入れたときから、アフリカ独特の臭いに対してえもいわれぬ親近感を覚えていた。ザイール(現在のコンゴ民主共和国)の首都にある市場で発酵したキャッサバの香りを嗅ぎ、のちにエチオピアで根栽作物エンセーテの発酵でんぷんを食するようになって、アフリカの発酵食文化の奥深さにはどこか謎があると睨んでいたのである。それは納豆菌にはとうてい繋がらなかったのだが。
 本書の謎解きはアフリカにとどまらない。チョングッチャン(納豆汁)として有名な韓国の納豆を巡る高野さんの探検は意外な展開をみせる。韓国味噌(テンジャン)には、はじめのところで納豆菌も参加していて「ある程度は納豆」だというのである。味噌チゲを日本の味噌でつくっても味噌汁にしかならない。本場の味に近づけたければ隠し味に納豆を加えるとそれらしくなる、ということが科学実証的に解明される。ここでも、味噌と納豆は相容れない別物の発酵食品だ、という私たちの常識を見事に打ち破ってくれた。スンバラを味噌と表現された川田先生が、当時チョングッチャンの秘密をご存知だったかどうかはわからないが、アフリカの臭い、特に発酵臭に対するアフリカ研究者の感覚はあながち間違いではなかったと言えるだろう。
 昨年12月、京都で開催されたシンポジウム「アフリカ食文化の深淵に迫る」に登壇された高野さんに久しぶりにお目にかかった。今から思えば、コロナ禍のはじまる前に対面でこの本のエッセンスを著者の肉声で聞くことができて幸運だった。高野さんの文章と語りには納豆に限らず、いつも読者を虜にする何かがある。大袈裟な言い回しや命名の妙といった巧さとは別に、学術探検における実証的な論証の醍醐味を気持ちよく味合わせてくれる。そのスタイルは、常に人と人とのつながりを糧にしてすすんでいく。読者はいつのまにか、登場人物に感情移入し旅を楽しんでいる。民族誌的な記述の確かさや、フィールドワークの極意を随所に含んでいるところは、若い研究者にも学んで欲しいと思うところが多い。実のところ、この本の内容からいくつもの研究論文のネタが感じ取れる(企業秘密なのでここには記さない)。
 最後に、副題にもなっている「サピエンス納豆」仮説。別の言い方で、高野さんは「人間は大豆で納豆を作ったのではない。納豆で大豆を作ったのだ。」とも述べている。これは、言い換えれば、人間が納豆菌という微生物と共に生きていく過程で、食べにくい「マメ」を食料として手に入れ、野生の「マメ」は、その暮らしの一部を人間に委ねるようになった、ということだろう。人と植物の関係を描く民族植物学の傑作として本書を薦めたい。

(しげた・まさよし 京都大学教員/民族植物学者)
波 2020年9月号より
単行本刊行時掲載

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著者プロフィール

高野秀行

タカノ・ヒデユキ

ノンフィクション作家。1966(昭和41)年、東京都生れ。早稲田大学卒。1989(平成元)年、同大探検部における活動を記した『幻獣ムベンべを追え』でデビュー。2006年『ワセダ三畳青春記』で酒飲み書店員大賞を受賞。2013年『謎の独立国家ソマリランド』で講談社ノンフィクション賞を、2014年同作で梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞する。『アヘン王国潜入記』『西南シルクロードは密林に消える』『イスラム飲酒紀行』『移民の宴』『謎のアジア納豆』『辺境メシ』などの著書がある。

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