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この素晴らしき世界

東野幸治/著

1,430円(税込)

発売日:2020/02/27

  • 書籍

芸能界屈指のゴシップ好きがイジり倒す、アクの強い芸人たちの知られざる伝説!

自分に自信がない西川きよし師匠から、悪口をエネルギーに突き進む山里亮太、スケールのデカいバカぶりを発揮するピース綾部、恐ろしいほどの執念で紫綬褒章まで行き着いた宮川大助・花子まで……。毒舌を吐き続けても絶対に嫌われない男による「吉本バイブル」、ここに誕生! キンコン西野による“東野幸治論”も特別収録。

目次
はじめに
西川きよし師匠の話
愛すべきアホ、坂田師匠
イイでしょ、品川祐
ツッコみ続ける男、ほんこんさん
許される男、メッセンジャー黒田
天下を取りたい男、ダイノジ大谷
千の顔を持つ男、天津木村
流転の芸人、桂三度
心配しない男、大西ライオン
多くを語らない男、なかやまきんに君
優しさと狂気の狭間で踊る男、藤井隆
何事も用意周到な男、山里亮太
アホがバレた男、ココリコ遠藤
吉本イチの奇人、次長課長井上
スケールのデカいバカ、ピース綾部
度が過ぎる芸人、若井おさむ
テレビに出たくない芸人、NON STYLE石田
宣言しまくる男、キングコング西野
たぶんもう一生売れない男、リットン調査団藤原
今度こそ幸せに! 陣内智則君
のしあがる男、カラテカ入江
破天荒風芸人、ノブコブ吉村
ブレイク前夜芸人、中山功太
元気が出る男、トミーズ健
チッチキチーな男、大木こだま
おちょけ過ぎ芸人、矢野・兵動、矢野
どこかふざけてる女、ガンバレルーヤよしこ
お笑いに溺愛された男、三浦マイルド君
執念と愛に満ちたコンビ、宮川大助・花子
還暦間近のアルバイト芸人、リットン調査団水野
加藤の「乱、乱、乱」、極楽とんぼ加藤
東野幸治という「実力」しかない男 西野亮廣(キングコング)
この素晴らしき世界 あとがきにかえて

書誌情報

読み仮名 コノスバラシキセカイ
装幀 青木登(新潮社写真部)/写真、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 週刊新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-353161-6
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション
定価 1,430円

書評

ハチャメチャで破天荒で人並み外れていて愛おしい

戸部田誠(てれびのスキマ)

「極力家にいる。ストレスで食べる。動かない。太る。寝る。床ずれする。ドラえもんのように愛嬌のある体型だが目つきは異様に鋭くなる。右を向いて寝転がる。左目から涙が垂れてくる。それを右目に入れて左に寝返りを打つ。右目から涙を垂らして左目に入れる。そしてまた右に寝返りを……繰り返しやり続けました」
 東野幸治は「R-1ぐらんぷり」王者・中山功太に訪れた「無間地獄」をそんな風に淡々と描写する。その原稿を書いているとき、東野が悪い薄笑いを浮かべていたであろうことが、ありありと想像できてしまう。『この素晴らしき世界』は、50歳を過ぎ、芸歴30年を超えた東野が、それまで出会った吉本興業の芸人の中から選りすぐりの「奇人変人名人凡人」を東野流にスケッチしたものだ。
 東野幸治といえば「白い悪魔」だとか「サイコパス」、「日本一心のない司会者」などと言われている。
 感動のマラソンゴールシーンを無視して無表情でご飯を食べ、インドへ旅に行って地元の人の厚意でカレーを振る舞われても「お腹を壊すから」と食べるのを断固拒否。突如、トライアスロンを始めるもあまりにキャラと合わないためか、大半のファンからスルーされる。吉田豪ビートたけしに誤解され恫喝されたと知ると、それほど親しくもない吉田本人に「会いたい」と申し出、仕事でもないのに一部始終を“取材”。「ワイドナショー」で謹慎中の後輩を思い、唇を震わせ涙をにじませると、「心があったんだ!」と驚いた人たちに“事件”として扱われてしまう。
 彼は自らの芸人としてのスタンスを「何かを表現したいというよりも、人に『こんなことあって』と言いたいタイプ」(太田出版「クイック・ジャパン」vol.123より)と語っている。本書はまさにその集大成だ。ダイノジ大谷の嫌われエピソードを散々書き連ねた後、ようやく彼の夢が番組として形になるも、大谷自身は脇役に追いやられてしまったと綴り、「その頃からです、私が大谷君に近づいたのは」と、時折、東野本人が顔を覗かせるが、基本的に傍観者として語り手に徹している。そのど真ん中にいながら常に俯瞰して芸能界や芸人を見ている異様さが「心がない」などといわれる所以なのだろう。「芸能人とかお笑い芸人っていう気がない。その人に好かれようという気がない」(TBS「東野幸治のナイモノネダリ」2014年2月19日放送より)から、普通の人では聞きにくいこともどんどん聞くことができる。“腫れ物”を素手で触っていく。そこに善い悪いもない。
「突き詰めていったら俺ね、意外といてないのよ、嫌いな人って。俺って、実はもっと残酷かもわかりませんけど、意外と人に興味ある感じやけど人に興味ないっていう相反するちょっと狂った性格持ってるから。だから嫌いな人っていないの。存在しないの」(TBSラジオ「JUNK 山里亮太の不毛な議論」2013年6月12日放送より)

 よく最近の芸人は、“優等生”になってしまって面白くないなどと言われる。けれど、本書を読むとそれがいかに一面的にしか見えていない誤解であるかがよくわかる。東野は芸人たちの「イタい」部分を巧みにすくい取り、魅力的に描写していく。ココリコ・遠藤がニュース番組のコメンテーターの仕事で「アホがバレないように」赤いボールペンを買って賢く見られるようにしたといったバカエピソードを嬉々として書き、キングコング・西野の数々の「宣言」を丁寧に振り返り褒め殺し、「あまり人には知られたくないですが」と前置きし、平成ノブシコブシ・吉村が「大好き」と綴る。基本的にはそんな悪い裏笑いに満ちているが、宮川大助・花子の笑いにかけた執念の物語には胸がいっぱいになる。東野が語る芸人たちとその世界はハチャメチャで破天荒で人並み外れていて愛おしい。
「この嘘くささがお笑い芸人としてのとても大事な要素だと私は思っています。/どこかふざけている。どこかナメている。どちらも芸人に必要な要素です。どこまでが本当の話なの? と聞いている人に思わせることが出来たら勝ちといっても良いでしょう」
 本書でガンバレルーヤ・よしこに寄せた言葉は、まさに東野幸治の芸人性そのもので本書はそれを体現している。
 かつて東野は言った。
「心根が腐ってるからこそ見える世界がある」(日本テレビ「東野・岡村の旅猿」2017年7月12日放送より)
 それは即ち、芸人たちの「素晴らしき世界」だ。

(てれびのすきま ライター)
波 2020年3月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

東野幸治

ヒガシノ・コウジ

1967(昭和42)年、兵庫県生れ。お笑いタレント、司会者。吉本興業所属。兵庫県立宝塚高等学校卒業。高校在学中に吉本興業の新人オーディションに合格、お笑いタレントとなる。バラエティ番組などの司会を中心に活躍中。著書に小説『泥の家族』や、エッセイ『この間。』『この素晴らしき世界』がある。

判型違い(文庫)

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