てつおとよしえ
1,210円(税込)
発売日:2023/04/26
- 書籍
- 電子書籍あり
私の理想の夫婦は父と母。なぜなら――。ほっこり和んでホロリと泣ける家族漫画。
マイペースで機械オタクな父・てつおと、倹約家で心配性な母・よしえ。末っ子で心配ばかりかけている「私」。寝たふりをしておんぶされた父の背中、つい辛くあたった思春期、そして、いつの間にか増えた母の手のシワ……。「いつか」が来る前に、私は何ができるだろう? 感動作『岡崎に捧ぐ』の著者が贈る、あの頃といまの家族の話。
[第2話]てつおの愛情表現
[第3話]趣味のラジコン
[第4話]サホの恩返し
[第5話]温厚すぎるゆえ
[第6話]朝から晩まで
[第7話]可愛いメールコレクション
[第8話]姉と兄
[第9話]てつおの仕事
[第10話]温泉とサラミ
[第11話]犬のミゲル
[第12話]ツンデレ属性
[第13話]理想の夫婦
[第14話]オタクなてつお
[第15話]親は防護ネット?
[第16話]思春期
[第17話]よしえの入院
[第18話]いつか、いなくなる?
[最終話]てつおとよしえ
書誌情報
読み仮名 | テツオトヨシエ |
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装幀 | 山本さほ/装画、名和田耕平デザイン事務所(名和田耕平+小原果穂)/装丁 |
雑誌から生まれた本 | 小説新潮から生まれた本 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | A5判 |
頁数 | 136ページ |
ISBN | 978-4-10-355021-1 |
C-CODE | 0079 |
ジャンル | コミック |
定価 | 1,210円 |
電子書籍 価格 | 1,210円 |
電子書籍 配信開始日 | 2023/04/26 |
書評
大共感! “家族あるある”漫画
我が南沢家は5人家族だ。父、母、3歳上の姉、わたし、3歳下の弟。うちの家族は仲が良い、らしい。わたしが仕事を始めた高校時代、学校の友達と遊ぶ時間もあまりなかったので、テレビ番組や取材では家族の話ばかりしていた。当たり前のように思っていたことばかりだったが、理想の男性は「父」、朝早いと母が仕事の現場まで車で送ってくれ、姉は女友達のような関係で、弟の彼女に嫉妬する、などと話すと驚かれ、家族仲が良いことを自覚していった。
一度話した仲良しエピソードを面白がってくれて、しばらく他のバラエティ番組などでも鉄板ネタのように振られるということがままあった。たとえば、年末年始の家族恒例行事の話。まずは大晦日の年忘れカラオケ大会から始まる。そこでは家族の前でまだ歌ったことのない曲を披露しなくてはならない。夜はすき焼きを食べながら、それぞれその年の重大ニュースを発表し、最後に父が「今年の漢字」で総括する。年越しが近づいてきたら、みんなで手を繋いで円になりカウントダウンを始める。3・2・1でジャンプ、拍手。これがまあ盛り上がる。そして元旦、おせちとお雑煮をいただきながら、新年の目標を宣言する。この普段とちがう家族の一面も見られるイベントが大好きだった。
数年前、姉と弟は結婚して実家を離れ、今わたしは一人暮らし。5人でカラオケに行ったのはいつが最後か思い出せないくらいだし、みんなが最近どんな曲を聞いているかも分からない。すき焼きは集まれる日にということで、大晦日とは限らずに年末のどこかでやっている。母は寝るのが年々早くなっていて2023年への年越しジャンプは父とわたしの二人だった。姪っ子甥っ子たちも集まり賑やかな元日には、自分の目標よりも彼らがすくすく育ちますようにと願わずにいられない。
年を重ねれば、家族は変化していく。当たり前だったことが、思い出になっている。父と母にまつわる思い出を綴ったエッセイ漫画である『てつおとよしえ』を読んで、ハッとさせられた。
山本家も5人家族だ。著者の山本さほさんは9歳上の姉と6歳上の兄を持つ、末っ子。父のてつおさんは、温厚でマイペース。子供に対してはクールで、孫たちと一緒に遊ぶよりも、庭にブランコや滑り台、ボルダリングなどの遊具を作り、遊び場を提供するタイプ。母のよしえさんは、気が強くて倹約家。子供がとにかく好きで、孫の写真や絵などを居間にびっしりと飾り、一緒に遊びたいタイプ。
“性格は真逆”と言うほど異なるタイプの二人だが、毎年二人で旅行に行くほど仲が良い。絶妙なバランスを保ったご夫婦だ。真面目なよしえさんの小言が多くとも、てつおさんがうまくかわすから、喧嘩になることはほとんどないとか。佐藤愛子さんの〈鈍感は寛容という美徳になる〉という言葉をふと思い出す。丸二日姿をくらませて麻雀に興じていた夫が帰ってきたときに、雑巾バケツの水をぶっかけた佐藤さんだったが、夫は一切怒らなかった。それを見て、自分が結婚できたのは「彼が鈍感であり即ち寛容だった」からだと気づく。てつおさんとよしえさんの間にも、お互いの欠けている部分を補い合っているような関係性が築かれているのだろう。
ただ、娘のさほさんから見ると、母が間違っていることもあるのに絶対に言い返さないでいる父が不思議で仕方ない。それである日、言い返さないでいる理由を直接聞いた、というエピソードがじんと来る。29歳で漫画家になり、心配ばかりかけてきた両親に対して何か恩返しをしたいというエピソード(第4話「サホの恩返し」)もあったが、この夫婦円満の秘訣に迫った話のタイトルが「理想の夫婦」(第13話)になっているのが、この上ない恩返しになっていると思う。
全19話を通して、クスリと笑い、ほっこりしながらも、他人の家族の思い出なのに、「わかるわかる!」の連発だった。どうしてここまで共感できるのかと考えたら、それは描かれているのが“思い出”だからだろう。リアルタイムに描いた話ではなくて、大人になって、当時の出来事を回想しているから俯瞰した目線で描かれている。家族のことだけではなく、過去の自分自身も振り返るような感覚だ。思春期のひりっとした時代を描いた終盤は特にそうだった。勝手に紐づけて読んでいる間にも、こちらまでいくつもの思い出が頭に蘇ってきた。
通り過ぎたから見えることってたくさんある。そんなことに気づかされながらも、今、食後のお茶を入れてくれる父やソファで昼寝するとブランケットをかけてくれる母を見ると、わたしはまだまだ、子供だなとも思う。でも、姉弟3人で家族の思い出話ができたら、大人かなとも思う。さほさんのように両親への恩返しで何かを贈る前に、とりあえず、この一冊を姉と弟に贈りたい。
(みなみさわ・なお 女優)
波 2023年5月号より
単行本刊行時掲載
著者プロフィール
山本さほ
ヤマモト・サホ
1985年生まれ。漫画家。2014年に幼馴染との友情を描いた自伝的漫画『岡崎に捧ぐ』がnoteで大きな話題となり、漫画家デビュー。著書に『この町ではひとり』『山本さんちのねこの話』『無慈悲な8bit』『きょうも厄日です』などがある。