竹取物語
1,760円(税込)
発売日:2008/08/25
- 書籍
美しく妖しき者、その名はかぐや姫。宝物ともいえる古典がいま絵物語となって甦る。
かの紫式部が「物語の出で来はじめの祖」と称した古典中の古典は、かくも見事な恋物語にして稀有壮大なSFファンタジーだった! 美しく罪深き女と彼女を巡る男達の恋は、雅で哀れで可笑しく切なく、つくづくと面白い。世界に冠たる傑作が、恋愛小説の名手と木版画の匠とのコラボレーションで現代に甦った珠玉のものがたり絵本。
物語 竹取物語 江國香織
二 求婚
三 仏の石の鉢
四 蓬莱の玉の枝
五 火鼠の皮衣
六 龍の首の玉
七 つばめの子安貝
八 帝の求婚
九 かぐや姫の昇天
十 ふじの山(むすび)
書誌情報
読み仮名 | タケトリモノガタリ |
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発行形態 | 書籍 |
判型 | B5判変型 |
頁数 | 96ページ |
ISBN | 978-4-10-380808-4 |
C-CODE | 0093 |
ジャンル | 歴史・時代小説、文学賞受賞作家 |
定価 | 1,760円 |
書評
波 2008年9月号より 絵本『竹取物語』の誕生
『竹取物語』の前三分の一は絵本である。ペラペラとページをめくっていきながら、「えっ? 『竹取物語』って、もともと絵本だったっけ?」と勘ちがいする人があらわれるほど、いにしえの香りのする鮮やかな絵の連続だ。
かつて、秋野不矩が『うらしまたろう』を描き、赤羽末吉が『ももたろう』や『源平絵巻』を、瀬川康男が『したきりすずめ』や『平家物語』を描いたように、立原位貫が『竹取物語』を描いた。描いて彫って摺ったのだ。
彼が浮世絵に魅せられて彫刻刀を持ったころ、ぼくは子どもの本屋を開いていた。そのころ、同じ草野球のチームでプレイしていたこともあって、何度となく、彼の作品展を見に行っていた。彼の版画はみるみる精密度を増し、いったいどうやって、そんなにも細い線が彫れるのかが不思議でならなかった。
そのうち、素人のぼくには、本物の浮世絵とどこがちがうのか、解らなくなっていた。迫力満点だった。間近で浮世絵を見られることに感動していた。
その作品展の中に何点か、彼の創作のものがまざっていた。その線や色、繊細だけど力強い草花や人物にぼくは魅せられた。
そのころから、いつか彼が絵本の世界に入ってきたらいいなと考えるようになっていった。
そして、とうとう彼は、『竹取物語』の連作に取り組んだのだ。それを見たとき、ぼくはすぐに「絵本にしようよ」と持ちかけた。今から十年ほど前のことだ。
しかし、彼は、僕が見せた数冊の絵本を眺めながら、「印刷は信用できないのよ」と言った。もちろん、浮世絵の世界には絵師がいて、彫り師がいて、摺り師がいるのだから。江戸時代の印刷なわけで、手で摺った微妙な色が機械で出せるわけがないのだった。
ところが、それから数年後に彼の口から、何の話題だったか忘れたが、「近ごろの印刷はすごいなあ……」という言葉が出た。すかさず、「あの『竹取物語』を絵本にしようよ」と再び持ちかけ、江國香織さんに版画を見てもらうことになったのである。
待つこと四年。江國さんの『竹取物語』が出来た。ふふっと笑ってしまうほどやわらかな文章で、読みながら、この物語をぜひ読ませたい子どもたち、いや、子どものころからぼくの店の絵本や童話を、読んで育った、中学生や高校生の顔が次々に浮んでくるのだ。
読み終えて、喜びのあまり踊りたい気分だった。次の世代につなぐ、新しい『竹取物語』の誕生の瞬間に立ち会ったのだ。
ぼくはさっそく、立原位貫に電話した。彼はこう言った。「もし、文章が先に出来ていたら、ぼくは絵が描けなかったよ」
こうして、ついに、絵本『竹取物語』は完成した。あえて絵本と呼ぶのは、展覧会で額に入った一枚一枚の版画を眺めるよりも、自分の手で、ページを一枚ずつめくっていく、その瞬間が、ぼくは好きだからである。
何度も絵を眺め、文章を読み、また絵を眺める。これが絵本でなくてなんであろう。
残念なことに、まだ絵本は子どもの読むものであると思っている人が多い。もちろん、子どもから読めるものだし、子どもが喜ぶものが多いのだ。だけど、子どもには難解と思われるものを“大人の絵本”と呼んでしまうのもなんだかさみしい。
子どもは、字が読めなくても、絵を感じること、絵を読むことが出来るのだ。
ああ、もうすぐこの『竹取物語』が書店の店頭に並び、たくさんの大人や子どもの手によって、その新しい絵本の扉が開かれる。なんともうれしい。
著者プロフィール
江國香織
エクニ・カオリ
1964(昭和39)年東京生れ。1987年「草之丞の話」で「小さな童話」大賞、1989(平成元)年「409 ラドクリフ」でフェミナ賞、1992年『こうばしい日々』で坪田譲治文学賞、『きらきらひかる』で紫式部文学賞、1999年『ぼくの小鳥ちゃん』で路傍の石文学賞、2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2007年『がらくた』で島清恋愛文学賞、2010年『真昼なのに昏い部屋』で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』で谷崎潤一郎賞を受賞した。近刊に『去年の雪』『川のある街』など。小説以外に、詩作や海外絵本の翻訳も手掛ける。
立原位貫
タチハラ・イヌキ
1951年名古屋生まれ。ジャズのサックス奏者として活動していたが、25歳のとき一枚の浮世絵に深く感銘を受けて転身。以来、江戸時代と同じ手法、絵の具、紙を独学で研究、再現し、それらを使って真の意味での浮世絵の復刻を成し遂げた唯一の画家である。江戸時代の浮世絵師は「絵師」であり、「彫り師」と「摺り師」は分業で作品が制作されていたのに対し、下絵から彫り、摺りまで全ての工程を一人で行う。そうして培われた浮世絵の技法と全く同一の技法と材料で、オリジナル作品の制作もてがけてきた。『竹取物語』に納められた版画もまたそうした過程を経て制作されたものである。