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しゃべりたいことは、伝わるよ、きっと。たいせつなことを言えなかったすべての人に捧げる、珠玉の少年文学!

きよしこ

重松清/著

1,404円(税込)

本の仕様

発売日:2002/11/18

読み仮名 キヨシコ
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 254ページ
ISBN 978-4-10-407504-1
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品、文学賞受賞作家
定価 1,404円

名前はきよし。どこにでもいる、君によく似た少年。言葉がちょっとつっかえるから、思ったことをなんでも話せる友だちが欲しかった――。お話は、あるクリスマスの夜、不思議な「きよしこ」との出会いから始まる。出会い、別れ、友情、ケンカ、そしてほのかな恋……もどかしい思いを包むように綴られる、「少年のすべて」。

著者プロフィール

重松清 シゲマツ・キヨシ

1963(昭和38)年、岡山県生れ。出版社勤務を経て執筆活動に入る。1991(平成3)年『ビフォア・ラン』でデビュー。1999年『ナイフ』で坪田譲治文学賞、同年『エイジ』で山本周五郎賞を受賞。2001年『ビタミンF』で直木賞、2010年『十字架』で吉川英治文学賞、2014年『ゼツメツ少年』で毎日出版文化賞を受賞。現代の家族を描くことを大きなテーマとし、話題作を次々に発表している。著書は他に、『流星ワゴン』『疾走』『その日のまえに』『きみの友だち』『カシオペアの丘で』『青い鳥』『くちぶえ番長』『せんせい。』『とんび』『ステップ』『かあちゃん』『きみ去りしのち』『あすなろ三三七拍子』『ポニーテール』『空より高く』『また次の春へ』『赤ヘル1975』『一人っ子同盟』『たんぽぽ団地のひみつ』など多数。

書評

波 2002年12月号より 切実で普遍的な「少年」の物語  重松 清『きよしこ』

榎本正樹

子供のいじめ、親子の断絶、夫婦の齟齬といったシリアスな問題に重ねて、重松清は現代における家族の風景を反復的に描き続けてきた。
児童小説、ファンタジー、エンターテインメントの枠を往還する、ジャンル的な束縛のない自由なポジションから紡ぎ出される家族小説のヴァリアントは、時に悲哀に満ちた、時に勇気を奮い立たされる、時に黙想へと誘う物語として読者に届けられる。多くの作品において主人公は切実な状況に置かれ、現実と格闘することを余儀なくされるが、物語の結末にはありきたりのハッピーエンドは置かれない。
重松作品において、癒しの風景が無根拠にもたらされることはない。描かれた状況は肯定も否定もされない。文学は答えを提示するためにあるのではなく、永遠に問い続けるために存在しているということを、重松は知悉している。物語をどのように受け止めるかは、読者に委ねられている。重松ほど同時代の読者を信じている作家はいないのではないか。私が作家重松清に全面的な信頼を寄せるのは、彼が小説という表現に対して、さらには読者に対してフェアなスタンスで臨んでいるというまさにその一点に尽きる。
『きよしこ』は、吃音症に悩み苦しむきよし少年の、小学一年生から高校三年生までの十二年間を少年の成長に沿った七つの短編によって描いた作品である。少年は、「カ行」「タ行」と濁音をうまく発音することができない。そのため、クラスの友だちにからかわれ引っ込み思案になってしまう。さらに父親の仕事の関係で頻繁に転校しなければならず、そのことが少年をさらに孤立させていく。
少年は『きよしこの夜』の歌詞を勝手に解釈し、「きよしこ」という自分の名前とよく似た「他のひとには姿を見ることのできない、ぼくだけの友だち」を想像する。きよしこの前でなら、少年はスムースに喋ることができるのだ。物語は、天地真理、フィンガー5、ゲルマニウム・ラジオ、インベーダーゲームといったアイテムが示唆する七○年代をバックグラウンドにして、息子の吃音症の原因を幼少時の体験に結びつけ責任を感じている両親と三歳違いの妹なつみに見守られながら、吃音であることでさまざまな制約を受けながらも言葉と格闘する少年の学校生活を中心にした日常にスポットを当てる。
クリスマスプレゼントで自分がいちばんほしかった「魚雷戦ゲーム」の「ギョ」が発音できないために不本意なプレゼントを甘んじて受け入れ、両親に感謝の気持ちを伝えようとしつつも、「ありがとう」の「ア」を発話することができず、そのことで癇癪を起こしクリスマスをめちゃくちゃにしてしまうが、「ごめんなさい」の「ゴ」を言い淀んでしまう少年。「きよし」の「キ」が発音できないため転校初日の自己紹介を失敗し、クラスの中で浮いてしまう少年。少年の日常は言葉との闘いの連続だ。笑いものにする級友たち。理解のない先生。少年はひそかに願う。「町でも会社でも、うまくしゃべれないひとばかり集まって、みんな優しくて、しゃべらなくても誰もが幸せに暮らせる、そんな場所がどこかにあればいい」と――。
話し言葉によるコミュニケーションの回路を封じられてしまった少年がさまざまな局面でピンチに陥る姿は読む者の心に深く突き刺さってくるが、多くを喋れない彼の内面を代弁するかのように少年に寄り添う物語の語り手の存在が救いをもたらしている。語り手=作者の言葉は、少年に近いポジションから発せられている。もちろん本書が、東京の大学に通うために上京しひとり暮らしを始めるまで、父親の転勤で家族ぐるみ九回の引っ越しをした著者の少年時の体験をふまえた、自伝的要素がちりばめられた作者にとっていずれ書かれねばならなかった切実な物語であったことは確かであろう。しかし、ここで語り手=作者の少年へのまなざしが、私小説的な語り手と作中人物の密着から一線を画したものであることは強調しておくべきだろう。作中において、物語の主人公は名前ではなく「少年」という三人称代名詞で表記される。彼は「きよし」という固有名を背負った吃音の少年であるとともに、思春期を悩みを抱えながら成長する普遍的な少年でもある。
主人公の少年は、かつて子供時代を生きたあなた自身の中にある「少年」の体現者なのである。

(えのもと・まさき 文芸評論家)

▼重松 清『きよしこ』は、発売中

判型違い(文庫)

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