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愛、暴力、そしてミステリ。舞城史上、最大のスケールで描く最高傑作。

ディスコ探偵水曜日 下

舞城王太郎/著

1,870円(税込)

本の仕様

発売日:2008/07/31

読み仮名 ディスコタンテイスイヨウビ2
雑誌から生まれた本 新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 454ページ
ISBN 978-4-10-458004-0
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品、ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
定価 1,870円

迷子捜し専門の米国人探偵・ディスコ・ウェンズデイ。あなたが日本を訪れたとき、〈神々の黄昏〉を告げる交響楽が鳴り響いた――。魂を奪われてしまった娘たち。この世を地獄につくりかえる漆黒の男。時間を彷徨う人びと。無限の謎を孕む館・パインハウス。名探偵たちの終わり無き饗宴。「新潮」掲載+書下ろし1000枚。二十一世紀の黙示録、ここに完成。

著者プロフィール

舞城王太郎 マイジョウ・オウタロウ

1973(昭和48)年、福井県生れ。2001(平成13)年、『煙か土か食い物』でメフィスト賞を受賞し、作家デビュー。新たな才能の出現は、ひとつの事件となる。2003年、『阿修羅ガール』で三島由紀夫賞を受賞。2016年、『淵の王』がTwitter文学賞第1位に選出される。『暗闇の中で子供』『世界は密室でできている。』『熊の場所』『好き好き大好き超愛してる。』『みんな元気。』『SPEED BOY!』『ディスコ探偵水曜日』『ビッチマグネット』『獣の樹』『イキルキス』『キミトピア』『深夜百太郎 入口』『深夜百太郎 出口』など著書多数。訳書に、トム・ジョーンズ『コールド・スナップ』がある。

目次

第四部 方舟

インタビュー/対談/エッセイ

波 2008年8月号より 『ディスコ探偵水曜日(上・下)』刊行記念特別寄稿小説 名探偵巴里谷超丸の二〇〇八年七月

舞城王太郎

超丸たっての希望で僕と大津と三人で、福井県西暁町のパインハウスを訪れる。七月十五日で、西暁の駅に到着したのが午後五時過ぎで、円い建物の前でタクシーから降り立ったのが午後六時ちょうど。空は明るいけどもうとっくに太陽は山の向こうで、パインハウスは暗い。
その建物にはもう誰も住んでいない。家主でミステリー作家だった暗病院終了(あんびょういんおわる)氏の変死事件以来もうずっと誰も近づいてもいないはずだ、とタクシーの運転手は言っていたが、実際庭は荒れ放題になっている。
「おい超丸、何か判ったか」と大津が言うが、超丸はバウムクーヘン型の二階建てを見つめたままで何も言わない。
「何も判んない方がいいだろ」と僕は言う。作家の死について真相を捉え違えてしまったときに名探偵たちは殺されていったらしいのだ。もちろん事件はもう終わっているが、下手な推理を余計に披露したせいで超丸に死なれては困る。せっかく国内の同業者が減って美味しくなってきているのだ。それに、呪いや祟りってのはあるのだ…それを信じている人間がいるところには。
「あいつ、二年前に事件の情報聞いたとき、悔しがってたもんな、駆けつけられなくて」と大津が言う。「話は聞いてたって言うか、出動の要請もあったみたいだけど…」
「うん」。僕ももちろん知っている。実は超丸に行かせないよう手を打ったのも僕なのだ。プロデューサーとしての判断。名探偵が次々死んでいるって状況を危ぶんだってのもあるけれど、名探偵が大勢集まる場所なんかに行くべきじゃないと思ったのだ。超丸の個性が埋もれてしまう。星は暗い夜空にぽつんとしていたほうが明るく見えるのだ。
僕の引き止め工作に超丸も気付いているだろうか?
「暗病院さんは、二階の回廊をぐるっと一周して死んでたんだろ?」とミステリー作家の大津が言う。「血痕がちょうど円になってたから、超丸はその符合を気にしてたんだ」
「《超丸》だから《○》の謎を超えてみせるってか」。相変わらず頼もしい先生だぜ、と僕は思う。でも今でも、やはり超丸を行かせなくて良かったと信じている。「でもその符合が超丸を誘き出すための罠だった可能性もあるだろう?」と僕が言うと単純な大津は「なるほど…」と頷いている。
「超丸狙いか…」と大津が僕の思いつきと言うか口から出任せを発展させて考えていくのでちょっと焦る。変なこと言うなバカ。ここに何か変な流れを持ち込むんじゃねえ。超丸がうっかり変な推理を始めて、終わった事件の亡霊でも呼び出しちゃったらどうするんだよ。
「もうこんな場所、遺跡だよ」と僕は言い添える。「これも、単なる巡礼の旅だし。亡くなった名探偵たちと失われた冒険への追悼企画って感じになればいいけどさ」
大津には東京に帰ったらこの旅について短い文章を書かせる手はずになっている。
「うわ、でっかい」
と超丸が言うので見ると、ぶうううううんと大きな羽音をたてながらオニヤンマが名探偵の顔を睨むようにしてホバリングしている。黒に近い緑色の、鋼に似た身体をぶんぶんぶんと空中で揺らしているオニヤンマの目を回させてやろうと思ったんだろう、超丸がそいつの顔に向けて指先をぐるぐると回転させていて、自分の描く《○》にはっとしたのが判る。
やめとけ。
「空中で酔っぱらわせようとしたって無駄だよ」と僕は言う。「どこかに停まったときを狙うんだ」
すると超丸が僕の方を振り返って笑う。「稲山さん、田舎もんじゃん」
僕は肩をすくめてみせる。「茨城もんだよ。もう帰ろうぜ」
ちょうど地元で花蓮祭をやってるらしくて、夜は温泉につかった後この時期だけの蓮料理を出してもらうつもりだ。花蓮のワインがあるらしいし、こいつらにも飲ませてやろう。

(まいじょう・おうたろう 作家)

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