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恋に墜ちたことが、罪だったのか。恋愛捜査シリーズ「ドルチェ」感涙必至の極上長編。

ドンナ ビアンカ

誉田哲也/著

1,620円(税込)

本の仕様

発売日:2013/02/18

読み仮名 ドンナビアンカ
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 350ページ
ISBN 978-4-10-465204-4
C-CODE 0093
ジャンル ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
定価 1,620円

41歳の純粋な男と27歳の儚い女。二人の不器用な恋愛が犯罪を導いたのか――? 中野署管内で身代金目的の誘拐事件が発生した。被害者は新鋭の飲食チェーン店専務の副島。提示された身代金は二〇〇〇万円。練馬署強行犯係の魚住久江は、かつての同僚・金本と共に捜査に召集される。そして、極秘裏のオペレーションが始動した。

著者プロフィール

誉田哲也 ホンダ・テツヤ

1969(昭和44)年、東京生れ。学習院大学卒業。2002(平成14)年、『妖(あやかし)の華』でムー伝奇ノベル大賞優秀賞を獲得しデビュー。2003年『アクセス』でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞。映画化もされた『武士道シックスティーン』などの青春小説から、斬新な女性刑事像を打ち出した“姫川玲子シリーズ”の『ストロベリーナイト』、『ジウ』シリーズといった警察小説まで、ジャンルを超えて高い人気を集めている。ほかに“魚住久江シリーズ”の『ドルチェ』『ドンナ ビアンカ』や、『Qros(キュロス)の女』『ケモノの城』『プラージュ』などがある。

書評

波 2013年3月号より [誉田哲也『ドンナ ビアンカ』刊行記念特集]  無骨な純情が、胸をしめつける

吉田伸子

プロローグは、一人の男の述懐から始まる。居酒屋で、定食を食べながら、男は過去を振り返る。母子家庭で、水商売をしていた母親が、店の休みに連れて来るのは、こんな「定食屋と居酒屋の中間みたいな」店だったな、と。酒のツマミのようなおかずで、自分は白飯を食べ、母親は同じものを食べながらビールを飲んでいた――。俺には、こういう店が一番似合っている。男はそう思う。
誉田さんの物語は、どの作品も冒頭の掴みが抜群なのだが、本書もまたしかり。一人の男のモノローグが終わると場面は一転、警視庁練馬署の刑事、魚住久江が登場する。後輩の峰岸を補助者に、留置されたわいせつ犯を取り調べ、巧みな質問により容疑を認めさせ、さらにその勢いで余罪も、というところに、緊急の呼び出しがかかる。それは、中野署管内で発生した誘拐事件への召集だった。
そこからまた一転して、冒頭の男のパートへ移る。高校卒業後に居酒屋のバイトを始めたこと。その後、母親が肝臓を悪くして入退院を繰り返すようになり、母親の治療費を稼ぐために、昼は工事現場、夜は二時、三時まで居酒屋のホールに立つ生活を二年半続けたこと。母親を看取った後しばらくして再び水商売の世界に戻り、三十代の半ば頃、飲食店に卸売りをする酒屋で働くことになったこと。ある日、男は、配達に出かけた池袋のキャバクラで、一人のホステスと偶然言葉を交わす。それが、男=村瀬と瑶子の出会いだった。
一方、久江が召集された誘拐事件は、二千万円の身代金を要求するメールが、犯人から会社の社長の携帯に届いていた。誘拐されたのは、その会社の専務取締役を務める副島ともう一人だった。ここで、村瀬のパートと久江のパートが一部重なり合う。村瀬が瑶子と出会った時、瑶子の客として店を訪れていたのが、その副島だったのだ。その後、副島とともに誘拐されたのが、村瀬だったと明らかになるにつれ、読み手はその事件の謎にぐいぐいと引き込まれて行く。
誘拐事件の謎も、もちろん読みどころではあるのだが、本書の一番の肝は、村瀬が瑶子に寄せる一途な想い、だ。初めは単なる出入り業者の配達員とその店のホステス、という間柄でしかなく、時おり二言、三言言葉を交わすだけだったのだが、ある日、村瀬が行きつけにしている居酒屋の小上がりの奥に瑶子の姿を見つけて以来、村瀬の気持はゆっくりと瑶子に傾いて行く。瑶子が実は副島の愛人だと分かってからも、村瀬は瑶子への想いを止められなかった。
それまでの人生で、何一つぱっとしたことのなかった村瀬は、ごく普通の四十男だ。特に見栄えがいいわけでも、誇れるような学歴があるわけでもない。年齢を考えれば、四百万円台前半という年収は決して多い額ではないけれど、残業手当もつけばボーナスもでる。家賃を滞納する心配はない。十分御の字な暮らしだ。けれど時おり、村瀬の心に寂しい風が吹く。身の丈にあった日々の有り難みは十分承知してはいるけれど、けれど、「ただそれだけ」だ、という寂しい風が。瑶子は、そんな村瀬の心にぽっとともった灯りだった。
読めば読むほど、瑶子に寄せる村瀬の想いが切なくて、胸が締めつけられる。村瀬の純情の背景には、恐らくは水商売のシングルマザーに育てられた、という生い立ちがあるのだが、冒頭でさらりと描かれた村瀬と母のつながり――平日の朝でも酒臭い息をしていた母が、けれど、朝ご飯だけは、何かしらちゃんとこしらえてくれた――があるからこそ、村瀬の心の芯が真っ直ぐなことが、読み手にちゃんと伝わって来る。この辺りの塩梅は、本当に絶妙である。
事件の顛末と、村瀬の想いの行方はぜひ実際に本書を読んでもらいたい。読み終えた後、思わず村瀬の背中を抱きしめたくなる、とだけ。久江のパートも、単なる警察小説ではなく、アラフォー、シングルの久江の恋愛も絡ませているのがいい。今後の久江の恋愛模様も合わせて、早くも続編が楽しみ! これまでの誉田さんの警察小説とは、ひと味違ったものになるはずだ。

(よしだ・のぶこ 書評家)

関連書籍

判型違い(文庫)

インタビュー

波 2013年3月号より

[誉田哲也『ドンナ ビアンカ』刊行記念インタビュー]
警察小説と恋愛小説の邂逅
誉田哲也



41歳の純粋な男と27歳の儚い女。二人の不器用な恋愛が誘拐事件を導いたのか――。中野署管内で誘拐事件が発生した。被害者は新鋭の飲食チェーン店専務。身代金は二千万円。練馬署強行犯係の魚住久江は、かつての同僚・金本と共に捜査に召集される。そして、極秘裏のオペレーションが始動した。

――『ドンナ ビアンカ』は「ドルチェ」シリーズの第2弾ですが、魚住久江をヒロインにした本シリーズを作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
 これまでも色々な警察小説を書いてきたわけですが、たとえば、「ストロベリーナイト」シリーズでヒロイン姫川玲子が解決してきたような、猟奇殺人事件が苦手な方もいらっしゃるわけです。そういう方にも読んでいただける警察小説を書こうと思ったのが始まりです。
 なので、所轄署を舞台にし、特捜本部が立つような事件ばかりではなく、「これが事件なの?」と思われるような小さい案件を扱うことにしました。実際、そういう事件はたくさんありますしね。ヒロイン像は、玲子のように強烈な個性を持つタイプではなく、落ち着きがありゆったりしていて包容力がある女性にしようと。こうして練馬署の魚住久江が誕生したのです。
――本作は久江が誘拐事件を追いかける長編小説ですが、なぜ誘拐を題材にしたのですか。
 僕は、ヒロインの個性に合わせて、そのシリーズで扱う事件を決めるんです。捜査一課に強行犯二係という事件を割り振るセクションがあるのですが、気分的には彼らに近い感じですね。たとえば姫川玲子は捜査一課殺人班に属しているので、人が死なないと捜査が始まりません。玲子には殺人事件しかないわけです。でも久江には「人が死ぬ前に事件にかかわりたい」という強い想いがあります。そんな彼女で長編を書くなら、生きている人間が巻き込まれて、全ての関係者を生きたまま救える可能性がある大きな事件がいい。そこで誘拐はどうかと考えました。
――中国人女性との偽装結婚もテーマの一つです。
 池袋のチャイナタウン化を調べている時に、偽装結婚に関する興味深い記事を読んだんです。偽装結婚にもかかわらず、気持ちが通じ合っているような印象をうける夫婦がいると。どうやら、男性に何かしらの考えがあって相手の女性を遠ざけているらしいと書いてあって、こういう関係性なら、事件と絡めて面白いものになるのではないかと思ったんです。
――偽装結婚してしまう村瀬はもう一人の主人公ですが、モデルはいるのですか?
 若い頃に水商売のアルバイトをしたことがあったので、村瀬のような人は身近にいましたね。今いる状況から抜け出したい、でもその方法も思いつかず、ちょっと諦めながら生きている感じの人……。そして、そういう人だからこそ巻き込まれてしまう事件もある。久江の物語なら彼らにスポットを当てることができるかなと思い、村瀬を登場させました。それに僕自身、もしかしたら村瀬のような人生を送っていたかもしれないという想いがあるので、彼のような男の気持ちを書いてみたかったのかもしれませんね。
――村瀬のパートは恋愛要素も多分に含まれています。
 実は、今まで恋愛小説に全く興味がなかったんです。恋愛が成就するかどうかだけって、つまらないなと。けど、第1作目の『ドルチェ』を書いていく過程で、登場人物の関係性に想い入れをもって読んで下さる方が意外に多いと知り、だったらこのシリーズは、事件の鍵が恋愛になるようにしてみようと思ったのです。なので、村瀬パートは必然的に恋愛要素が多くなりました。本来は事件関係者の恋愛まで捜査しなくてもいいのですが、久江はそこまで捜査するからこそ、事件を解決できる。だから、「恋愛捜査」シリーズなんです。
――新ジャンルの創出ですね!
 今までなかったでしょ(笑)。僕はジャンル作家ではないので、自分が書きたいカテゴリーをそのときどきで選択するわけですが、純粋な恋愛小説と呼べる作品は興味がなかったこともあり、まだ挑戦したことがありません。「ドルチェ」シリーズは警察小説と今後書くかもしれない恋愛小説の橋渡し的作品になったかなと思っています。
――『ドンナ ビアンカ』でその流れが結実しました。今後の展開はどうでしょうか。
 久江の人となりのように、ゆったりと書けたらいいかなと思います。小さなエピソードを重ねていくうちに久江も変わっていくところもあるでしょうし、先輩刑事の金本や後輩の峰岸との関係も、並行して動いていくんじゃないですかね。
(ほんだ・てつや 作家)

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