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その名を暴け―#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い―

ジョディ・カンター/著 、ミーガン・トゥーイー/著 、古屋美登里/訳

2,365円(税込)

発売日:2020/07/30

書誌情報

読み仮名 ソノナヲアバケミートゥーニヒヲツケタジャーナリストタチノタタカイ
装幀 新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 412ページ
ISBN 978-4-10-507171-4
C-CODE 0098
定価 2,365円
電子書籍 価格 2,365円
電子書籍 配信開始日 2020/08/14

ピュリッツァー賞受賞! 「ハリウッドの絶対権力者」の大罪を暴いた調査報道の軌跡。

標的は成功を夢見る女性たち――映画界で「神」とも呼ばれた有名プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインは、長年、女優や女性従業員に権力を振りかざし、性的暴行を重ねてきた。自身の未来を人質にされ、秘密保持契約と巨額の示談金で口を封じられる被害者たち。沈黙の壁で閉ざされていた実態を、ふたりの女性記者が炙り出す!

目次
はじめに
主要登場人物表
関連年表
第一章 最初の電話
ジョディ・カンターは「ニューヨーク・タイムズ」の調査報道記者として、性差別について数多くの記事を手掛けてきた。彼女は、ハリウッド女優のローズ・マッゴーワンから、有名映画プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタインによる性的暴力の話を聞き「被害に遭った女優がほかにもいるのでは」と疑問を抱く――。
第二章 ハリウッドの秘密
トランプ大統領の女性への性的嫌がらせを記事にしたミーガン・トゥーイー記者も調査に加わるが、彼女たちふたりの世界的女優たちへの接触は困難を極めた。そんななか、ワインスタインの秘蔵っ子、グウィネス・パルトローと話ができることに。だが、彼女を含め女優たちはワインスタインからの報復を恐れ、堅く口を閉ざす――。
第三章 いかに被害者を黙らせるか
ワインスタインの被害者は女優たちだけではなかった。ミーガンとジョディは、彼の会社「ミラマックス」「ワインスタイン・カンパニー」の元従業員の女性たちに取材範囲を広げはじめる。明らかになってきたのは、常軌を逸したワインスタインの手口にくわえ、被害女性を長年苦しめ続ける法律や示談の存在だった――。
第四章 好意的な評判を手に入れる
「タイムズ」の取材を察知したワインスタインは、何人もの大物弁護士を雇い、反撃を開始した。性被害に遭った女性の守護神として名を売っていたフェミニスト弁護士や、私立探偵、イスラエルのスパイ組織「ブラック・キューブ」の諜報員らによる、ジョディやミーガン、取材対象の女性たちへの工作が始まった――。
第五章 会社ぐるみの犯罪
ワインスタインの悪行を長年隠蔽できたのは、弁護士たちの手腕のせいだけではない。ビジネスパートナーである弟のボブや会社の重役たちも加担者だった。彼に性行動を正すように説得を試みるが失敗し、従業員からの悲痛な訴えにも耳を貸すことはなかった。だが一人の重役がジョディの取材に口を開きはじめた――。
第六章 「ほかにだれがオンレコで話してる?」
沈黙の壁を突破した記者たちに、ついに「タイムズ」編集長は「書け!」と指示を出した。ワインスタインの過去の性的暴力を明らかにするさまざまな証拠を突き付け、直接対峙する時がきた。ワインスタイン側と「タイムズ」の駆け引きが緊張を増すなか、アシュレイ・ジャッドが女優ではじめて実名告発を決意する――。
第七章 「動きがあるだろうな」
女優ジャッド、元女性従業員らの実名告発をもとにした記事は整いつつあった。そしてワインスタインには、最後の弁明の機会のための期限が切られた。時間が迫るなか、ワインスタインは弁護士らを引き連れ「タイムズ」本社に乗り込んだ。最後の抵抗が繰り広げられ、記事はついにネット上に公開された――。
第八章 浜辺のジレンマ
「タイムズ」のワインスタイン報道に背中を押され、世界中の女性たちが声を上げ始めた。一方で「#MeToo運動はやりすぎだ」という反撥も大きくなっていく。そんな中、ジョディはある弁護士から連絡を受ける。「最高裁判事候補に指名されている人物から高校時代に性的暴行を受けた、と告発している女性がいる」と――。
第九章 「DCに行くという約束はできない」
中間選挙を間近に控え、共和党・民主党の両党は告発者を政争の具にすべく画策する。三十年以上前の性的暴行を罰することはできるのか? 政治的目的があるのでは? そもそも虚偽の告発では? 全国から寄せられる批判と応援の中、公聴会に姿を現した被害者フォードは、過去の辛い体験を語り始めた――。
終章 集まり
「声を上げた女性は、その後どうなったのだろう?」。だれもが抱く疑問に答えてもらうため、ジョディとミーガンは、これまで取材をした女性たちに二日間にわたる合同インタビューをおこなう。年齢も境遇も全く異なる彼女たちだが、公表後に抱いている思いは全員一致していた――。
謝辞
訳者あとがき

書評

女性たちの連帯を生み出した報道

望月衣塑子

「ハーヴェイ・ワインスタインは何十年ものあいだ、性的嫌がらせの告発者に口止め料を払っていた」――。2017年10月5日、ジョディ・カンター記者とミーガン・トゥーイー記者の2人の女性が執筆した衝撃的なスクープ記事がニューヨーク・タイムズ(NYT)に掲載されると、これを機に#MeToo運動は一気に世界へ拡散していく。グウィネス・パルトロー氏ら、沈黙を続けてきた女優や従業員らも次々と実名告発に踏み切り、ワインスタイン氏から受けた被害を告発した女性は最終的に100人以上に膨れあがった。
 ムーブメントはハリウッドにとどまらなかった。世界の女性たちが、自らの性暴力被害の記憶や苦しみについてSNSに「#MeToo」を付けて発信。これらの告発を受け、テレビ局の名物司会者や有名シェフ、政治家ら政財界のリーダー達が次々に失脚していった。日本の女性たちも続き、財務省事務次官や市長、大学教授、フォトジャーナリストらによる性暴力やセクハラが発覚していく。国も職業も立場も違う女性たちが次々と加わった#MeToo運動は、社会的・政治的運動の大きなうねりとなっていく。
 日本の#MeToo運動の下地となったのは、ジャーナリストの伊藤詩織さんの告発があったことも大きい。NYTの記事からさかのぼること約4カ月前の5月29日、元TBSワシントン支局長から性的暴行を受けたとして、顔を出して記者会見に臨んだ。元支局長が疑惑を真っ向から否定し、検察も不起訴処分としていたため、短い記事にしかならなかった。
 私は詩織さんへの取材を通じて、性暴力被害者が声をあげることの難しさを改めて痛感していた。裁判になっても負けない詳細な証拠や証言をそろえるためには、被害者の心の奥にある、思い出したくもない記憶を引っ張りださねばならない。さらに被害を訴えても、ネット上でこころない中傷を受けたり、「あなたにも非があった」と批判されたりする。家族やパートナーを巻き込む恐れすらある。乗り越えなければならないハードルは多く、あまりに高い。それだけに、2人の女性記者がどうやって取材し、証言や証拠を集めたのか、関心をもって読んだ。
 本書では、ジョディ記者とミーガン記者を中心とした取材チームと、記事をつぶそうとするワインスタイン氏との生々しい攻防が記されている。ハリウッド女優ローズ・マッゴーワン氏のツイートを端緒に、性暴力の話を聞くところから取材はスタートする。2013年からジェンダーを取材してきたジョディ記者は、マッゴーワン氏の被害は、米国のあらゆる階層で起きている問題だと直感する。取材を重ねる中で、ジョディ記者たちは証言やメールなどの電子記録、過去の法廷記録、メモ、示談書などの客観証拠を積み上げていく。そして彼女たちの読み通り、同様の被害者が他のハリウッド女優にも沢山いることが判明していく。
 表に出なかったからくりも判明する。ワインスタイン氏は、被害にあった女優が声をあげようとすると、秘密保持を条件にした示談交渉に持ち込み、口封じをしていた。さらに被害女性の弱みを握るため、イスラエルの元陸軍情報部員が所属する団体を使って情報収集させていた。自身への取材の動きを察知すると、私立探偵を雇ってジョディ記者たちを監視。ジョディ記者たちはゴミ箱まで漁られ、女性スパイから怪しげなメールまで届いた。まさにハリウッド映画のような展開だ。
 被害女性たちはなぜ次々と怒りの声を上げたのか。告発者が孤立したり、不利益を被ったりしないよう、連帯することで反撃や中傷から告発者を守ることができるからだ。米ニュース雑誌「タイム」は2017年の「パーソン・オブ・ザ・イヤー」にセクハラ被害の告発者たち(沈黙を破ったもの=The Silence Breakers)を選んでいる。
 連帯の成果は次の世代にも引き継がれる。NYT紙面で最初にワインスタイン氏から受けた性暴力被害を告白した女優のアシュレイ・ジャッド氏はその後、母校のハーバード大で教鞭を執り、ハリウッドで設立された「安全で公平な職場の整備を推進する組織」の理事に加わった。ミラマックスの元従業員のゼルダ・パーキンズ氏は、性暴力の示談で交わす「秘密保持契約」を無効にするための法整備をメディアや英国議会に訴えた。彼女たちの活動が次の希望につながっていく。
 小さな声を掘り起こし、困難に直面しながらも諦めなかったジョディ記者やミーガン記者、NYT編集局幹部たちの冷静で、かつぶれることのない熱い思いに心から敬意を表したい。

(もちづき・いそこ 新聞記者)
波 2020年8月号より
単行本刊行時掲載

細部にこだわった一級のドキュメント

石戸諭

 優れたジャーナリズムとは何か。100人に聞けば100通りの答えが返ってきそうだが、さしあたり、事実を積み上げ、細部を仔細に記録することを条件から外す人はいないように思われる。本書はその条件を満たすジャーナリズムの仕事であり、伝統的なアメリカ・ノンフィクションのスタイルで書かれた一級のドキュメントだ。
 アメリカの、特に新聞記者が書く優れたノンフィクションは「余すところなく書く」ことに最大の特徴がある。本書もその例外ではない。大きなストーリーは、ニューヨーク・タイムズに所属するジョディ・カンター、ミーガン・トゥーイーという2人のジャーナリストが、有名な映画プロデューサーで、ハリウッドで絶大な権力を持っていた――さらに言えば民主党政権を支持するリベラル派でもあった――ハーヴェイ・ワインスタインの性暴力疑惑を暴くことである。
 よく知られているように、彼女たちが掴んだ事実は、やがて一本のスクープに結実する。「ハーヴェイ・ワインスタインは何十年ものあいだ 性的嫌がらせの告発者に口止め料を払っていた」。公開された記事は、世界的なムーブメントとなった「#MeToo」に火をつけることになっていく。ワインスタインは失墜し、他にも立場や地位を利用し、男性が女性に対し性的関係を強要する事例が世界中で暴かれることになった――。そこだけを強調すればいかにも「社会を変えた華々しいスクープ」の物語であり、非常にヒロイックで美しい記者たちの物語、で終わってしまう。だが、彼女たちが「余すところなく」描くのは、成功の物語ではない。
 ジャーナリズムの世界で大事なのは、大きなストーリーを成立させるための細部にある。先に華々しい、と書いたが、多くの新聞記者がそうであるように彼女たちもスクープを世に出すまでに、膨大な無駄な時間を過ごす。糸口をつかめず、取材に協力的な証言者も見つからず、重要な証言を裏付ける確証が得られない……。そして、ワインスタインはあらゆる手段をつかってスクープが世にでるのを止めようとする。一本のスクープは、パズルのピースのように一つ一つの断片を集めることで完成する。彼女たちは、多くのピースがどのように集められたかを仔細に記録し、「余すところなく書く」ことに執着する。
 印象的なのは、ワインスタインの元アシスタントを探し出すシーンだ。元アシスタントが例えばフェイスブックをやっていれば話が早いのだが、インターネット上になんの手がかりもない。ミーガンはようやく彼女の母親が住む家を割り出し、インターホンを鳴らす。これも多くの記者が経験するように、「自分が他人の静かな生活へ押し入っていくような」感覚を味わいながら、である。そこにいたのは、母親ではなく元アシスタント本人だった。彼女はワインスタイン側と労働紛争に関する合意書があるとだけ告げた。だがミーガンは、彼女が言葉にしていない部分にこそ「本当の意味がある」と直感し、ここから粘る。
 適当な話をしながら、相手の警戒心を解き、携帯の番号を入手する。元アシスタントが弁護士から「『タイムズ』に話すな」と言われた、と連絡を受けてもミーガンは明るい声で「いまはまだ最終的な決断を下さないで」と言う。取材を効率だけで考えれば、ここで諦めたほうがいいだろう。しかし、誠実に関係性を維持することで、結果的にミーガンたちは事実を集めることに成功する。ここにあるのは華々しさとはまったく無縁な世界である。
『ルポ 百田尚樹現象〜愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)を刊行してから、いくつか受けたインタビューや対談の中で、私はこんなことを語っている。
 今、ノンフィクションを含む広い意味でのジャーナリズムは「オピニオン」全盛の時代で、あらゆる問題で主張をすることがうけている。だが、オピニオンはともすれば友と敵を分かち、政治的なスタンスが同じ仲間内で盛り上がるためだけの言葉になってしまう。気の利いたオピニオンを述べることは事実を積み上げるより、はるかに楽で無駄がないが、それだけでは書くものは弱くなっていく、と。
 彼女たちが繰り返したのは、あまりにも地味で、あまりにも無駄が多い取材だ。だが、積み上げた事実はあまりにも強い。時代とともにオピニオンはすぐに古びていくが、事実は時の流れに耐えていく。どんな主張を掲げるよりも、事実は社会を変えていく原動力になるのだから。事実の力を信じて、労を惜しまないこと。ジャーナリズムの原点を教えてくれる一冊が邦訳されたことを喜びたい。

(いしど・さとる ノンフィクションライター)
波 2020年8月号より
単行本刊行時掲載

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著者プロフィール

ミーガン・トゥーイーとともに「ニューヨーク・タイムズ」紙の調査報道記者。カンターは職場問題、その中でも特に女性の待遇について重点をおくとともに、2度の大統領選挙の取材に従事。著書に『The Obamas』がある。トゥーイーは女性や子供の問題に焦点をあて、ロイターニュース記者時代の2014年にピュリッツァー賞調査報道部門の最終候補者になる。カンターとトゥーイーは『その名を暴け―#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い―』の基となったハーヴェイ・ワインスタインについての調査報道で多くの賞を受賞し、ジャーナリズムの分野で最高の名誉とされるジョージ・ポルク賞や、「ニューヨーク・タイムズ」としてピュリッツァー賞公益部門を受賞している。

ジョディ・カンターとともに「ニューヨーク・タイムズ」紙の調査報道記者。カンターは職場問題、その中でも特に女性の待遇について重点をおくとともに、2度の大統領選挙の取材に従事。著書に『The Obamas』がある。トゥーイーは女性や子供の問題に焦点をあて、ロイターニュース記者時代の2014年にピュリッツァー賞調査報道部門の最終候補者になる。カンターとトゥーイーは『その名を暴け―#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い―』の基となったハーヴェイ・ワインスタインについての調査報道で多くの賞を受賞し、ジャーナリズムの分野で最高の名誉とされるジョージ・ポルク賞や、「ニューヨーク・タイムズ」としてピュリッツァー賞公益部門を受賞している。

古屋美登里

フルヤ・ミドリ

翻訳家。著書に、『雑な読書』『楽な読書』(シンコーミュージック)。訳書に、ノンフィクションではデイヴィッド・マイケリス『スヌーピーの父 チャールズ・シュルツ伝』、カール・ホフマン『人喰い――ロックフェラー失踪事件』、デイヴィッド・フィンケル『帰還兵はなぜ自殺するのか』『兵士は戦場で何を見たのか』(以上亜紀書房)、ダニエル・タメット『ぼくには数字が風景に見える』(講談社文庫)、フィクションでは、イーディス・パールマン『蜜のように甘く』(亜紀書房)『双眼鏡からの眺め』(早川書房)、M・L・ステッドマン『海を照らす光』(ハヤカワ epi 文庫)、エドワード・ケアリー『おちび』〈アイアマンガー三部作>『堆塵館』『穢れの町』『肺都』(以上東京創元社)など多数。

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