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怪物はいつから怪物だったのか? 世界文学の巨人唯一の短篇集、新訳で登場。

スロー・ラーナー

トマス・ピンチョン/著 、佐藤良明/訳

2,808円(税込)

本の仕様

発売日:2010/12/22

読み仮名 スローラーナー
シリーズ名 全集・著作集
全集双書名 トマス・ピンチョン全小説
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 318ページ
ISBN 978-4-10-537206-4
C-CODE 0097
ジャンル 文芸作品、評論・文学研究
定価 2,808円

世界は熱的な死を迎えるのだろうか――? 終わらぬパーティと変わらぬ気温。だが、ドンチャン騒ぎの階下と静謐なる上階はやがてそれぞれの終焉を迎え……。天才作家の若き日の傑作「エントロピー」を含む全五篇に仰天の自作解説を加えた著者唯一の短篇集。当代随一のピンチョン者・佐藤良明が新訳、目から鱗の解説と訳註付き。

著者プロフィール

トマス・ピンチョン Pynchon,Thomas

現代世界文学の最高峰に君臨し続ける謎の天才作家。寡作な上に素顔も経歴も非公表だが研究者により以下が判明している。1937年5月8日、ニューヨーク州ロングアイランド生まれ。ピンチョン家はアメリカ最古の家柄のひとつで父は測量技師。16歳で名門コーネル大学に入学、応用物理学を専攻するも英文科に転じ、2年間の海軍生活ののち最優等で卒業。2年ほどのボーイング社勤務後は作品以外の消息を完全に絶つ。1963年、『V.』でデビュー、フォークナー賞を受賞する。第2作『競売ナンバー49の叫び』(1966)でローゼンタール基金賞受賞。第3作『重力の虹』(1973)でアメリカ最大の文学賞である全米図書賞を受賞するが、本人が授賞式に現れず物議を醸す。以後、1984年に初期短篇集『スロー・ラーナー』を刊行した以外は実質17年間沈黙する。その沈黙を突如破り、1990年『ヴァインランド』発表。1997年には『メイスン&ディクスン』を刊行、2006年『逆光』(Against the Day)、2009年『LAヴァイス』(Inherent Vice)と、一作ごとに世界的注目を浴びる。ノーベル文学賞候補の常連だが、受賞しても式に現れないのではと囁かれている。

佐藤良明 サトウ・ヨシアキ

1950年生まれ。フリーランス研究者。東京大学名誉教授。専門はアメリカ文化・思想・ポピュラー音楽。著書に『ラバーソウルの弾みかた』『J-POP進化論』など。訳書にグレゴリー・ベイトソン『精神の生態学』など。〈トマス・ピンチョン全小説〉では6冊の翻訳に関わっている。

書評

波 2011年1月号より 「あなた」の若さがとても眩しいっ

豊崎由美

一九七九年、国書刊行会から『V.』。一九八五年、サンリオSF文庫から『競売ナンバー49の叫び』。一九八八年、筑摩書房から『スロー・ラーナー』。一九九三年、国書刊行会から『重力の虹』。一九九八年、新潮社から『ヴァインランド』。一九六一年生まれのわたしは、トマス・ピンチョンという大きな作家に鍛えられた読者の一人だ。それだけに、二〇一〇年の六月からスタートした「トマス・ピンチョン全小説」シリーズの刊行には、勝手な感慨ではあるのだけれど、自分のささやかな読書人生のひとつの読点のような思いを抱いている。『メイスン&ディクスン』や『逆光』という未訳の新しい作品が読める歓びと、かつて頭が一回転するくらい首をひねりながら頑張って読み通した作品に出会い直す懐かしさ。なかでも、「自分みたいなバカはピンチョンの小説を開く資格がないんじゃないか」とうなだれていた時、救いになってくれた一冊『スロー・ラーナー』との再会には、大袈裟でも比喩でもなんでもなく、悩み多き若い頃を共に過ごした旧友に久しぶりに会って声を失うような感激を覚えた、そのくらいの歓びに包まれたのである。
ピンチョンにも若くて生意気で、カッコつけたがる時期があって、憧れている作家がいて、そりゃあピンチョンだからまだ学部学生の頃に書いた作品だって驚くくらい巧みなんだけど、でも、やっぱり背伸びしている姿は丸見えで。処女長篇『V.』に圧倒され、『競売ナンバー49の叫び』はそれと比べれば愉しく読めたとはいうものの、自分には一生ピンチョンをきちんと堪能することはできないのかもしれないと怯えていたわたしは、初期作品ばかりを収めた『スロー・ラーナー』を読むことで、気を取り直すことができたのだ。
陸軍の通信兵で、無気力なんだけど、その無気力な自分を笑う知性は備えているダメ男、レヴィーンを主人公にした「スモール・レイン」。妻から悪友と一緒に家を追い出された元海軍士官のフランジが、廃棄場で妖精のように小さなジプシーの娘と出会う「ロウ・ランド」。〈宇宙はいつの日か熱死(ヒート・デス)を迎え、すべての地点の熱エネルギーが等価となって一切の形態も運動も成り立たない、辺獄(リンボ)のようになる〉と信じ、〈アンリ・ルソー風の幻想熱帯園〉を作り上げ、愛人と二人閉じこもって出てこない男の話と、その階下でどんちゃん騒ぎをしている連中の話を交互に描く中、二十世紀の文化と社会の無秩序化を考察する「エントロピー」。二十世紀半ばまでは存在した紳士協定に基づく英国式スパイ活動が、人間性を軽視し、合理的アプローチによって任務を遂行するドイツ式スパイ活動によって敗れ去るさまを描いた「アンダー・ザ・ローズ」。秘密の隠れ家での作戦会議や笑っちゃうようないたずらといった、子供時代への郷愁で胸がいっぱいになる少年少女のエピソードを多々ちりばめる中、黒人を差別をしたり、自分たちとは違う者を排除しようとする大人たちの狭量と愚かさをリアルに浮かび上がらせる「シークレット・インテグレーション」。
これら五つの短篇は読んでわかって面白いだけでなく、後に偉大な長篇をものしていくピンチョンの萌芽が見てとれる。ダメ男をはじめとするキャラクタライゼーション、歴史や陰謀に対する関心と知識の深さ、熱力学第二法則のような科学的概念をメタファーとして扱う手法、子供っぽい所業の肯定、非人間的行為に対する抗議、リベラルな精神。その上、この作品集にはピンチョン自身が自作を解題したり小説観を説く「イントロダクション」と、訳者・佐藤良明さんによる懇切丁寧な註までついているのだ。つまり、若い皆さんは、この『スロー・ラーナー』を端緒に、ピンチョンの全小説を読んでいけばいい。きっと、『V.』や『重力の虹』を理解して愉しむ助けになってくれるから。
二十二年ぶりにこの本を再読したわたしは、佐藤さんの若々しい訳文でピンチョン初体験ができる「あなた」のことが、とても羨ましい。新潮社のこのシリーズによって、ピンチョンという壮大なクエストにこれから挑んでいける「あなた」の若さがとても眩しいっ。

(とよざき・ゆみ 書評家)

目次

イントロダクション
スモール・レイン
ロウ・ランド
エントロピー
アンダー・ザ・ローズ
シークレット・インテグレーション
解説
訳註

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