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謎が呼ぶ謎、迷宮に変貌する都市。めくるめく探究譚にして世界文学屈指の名作、新訳。

競売ナンバー49の叫び

トマス・ピンチョン/著 、佐藤良明/訳

3,024円(税込)

本の仕様

発売日:2011/07/29

読み仮名 キョウバイナンバーヨンジュウキュウノサケビ
シリーズ名 全集・著作集
全集双書名 トマス・ピンチョン全小説
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 302ページ
ISBN 978-4-10-537209-5
C-CODE 0097
ジャンル 文芸作品、評論・文学研究
定価 3,024円

大富豪の死――そのかつての恋人で、いまや若妻のエディパは遺産のゆくえを託される。だが、彼女の前に現れるのは暗号めいた文字列に謎のラッパ・マーク、奇怪な筋書きの古典劇。すべては闇の郵便組織の実在と壮大な陰謀を暗示していた……? 天才作家が驚愕のスピードで連れ去る狂熱の探偵小説、詳細なガイドを付して新訳!

著者プロフィール

トマス・ピンチョン Pynchon,Thomas

現代世界文学の最高峰に君臨し続ける謎の天才作家。寡作な上に素顔も経歴も非公表だが研究者により以下が判明している。1937年5月8日、ニューヨーク州ロングアイランド生まれ。ピンチョン家はアメリカ最古の家柄のひとつで父は測量技師。16歳で名門コーネル大学に入学、応用物理学を専攻するも英文科に転じ、2年間の海軍生活ののち最優等で卒業。2年ほどのボーイング社勤務後は作品以外の消息を完全に絶つ。1963年、『V.』でデビュー、フォークナー賞を受賞する。第2作『競売ナンバー49の叫び』(1966)でローゼンタール基金賞受賞。第3作『重力の虹』(1973)でアメリカ最大の文学賞である全米図書賞を受賞するが、本人が授賞式に現れず物議を醸す。以後、1984年に初期短篇集『スロー・ラーナー』を刊行した以外は実質17年間沈黙する。その沈黙を突如破り、1990年『ヴァインランド』発表。1997年には『メイスン&ディクスン』を刊行、2006年『逆光』(Against the Day)、2009年『LAヴァイス』(Inherent Vice)と、一作ごとに世界的注目を浴びる。ノーベル文学賞候補の常連だが、受賞しても式に現れないのではと囁かれている。

佐藤良明 サトウ・ヨシアキ

1950年生まれ。フリーランス研究者。東京大学名誉教授。専門はアメリカ文化・思想・ポピュラー音楽。著書に『ラバーソウルの弾みかた』『J-POP進化論』など。訳書にグレゴリー・ベイトソン『精神の生態学』など。〈トマス・ピンチョン全小説〉では6冊の翻訳に関わっている。

書評

波 2011年8月号より 扉を開ける鍵

山崎まどか

トマス・ピンチョンの小説は難しい。そう思っている人は多いと思う。私も大学時代に『V.』を読もうとして挫折したという苦い思い出がある。膨大な数の固有名詞や今まで読んだこともないような不思議な語り口に圧倒されて、物語に入っていけなかったのだ。ガラスの壁の向こうには何やら豊饒な世界がありそうなのに、自分は扉を開ける鍵を持っていない。そんな気分になって、何だかちょっと泣きたくなった。
でも、その次に手にした『競売ナンバー49の叫び』は違った。一九六〇年代に書かれたこの作品では、亡くなったかつての恋人の遺言執行人となった主婦エディパ・マースが、その役目を果たすために訪れたカリフォルニアの都市、サン・ナルシソで自分を取り巻く奇妙な符号に気がつき、それを読み解いていくことで、今まで自分が属していたアメリカの郊外文化とはまったく違う世界、まったく違うアメリカに足を踏み入れていく。私もエディパの視点を追うことで、慣れ親しんだタイプの物語とはまったく違うピンチョンの小説世界に入るコードを見つけたような気がした。それは隠喩がロサンゼルスの夜景のように瞬き、シナプスのごときハイウェイがそれらをつないで思わせぶりな星座を描く宇宙である。
エディパはサン・ナルシソに足を踏み入れた時から、「背後にある隠れた意味を伝えようとする意図の存在」を感知する。やがてラッパの口がミュート(消音器)で塞がれている記号と出合い、あらゆることがそれまでとは違った意味を持って浮上してくる。宇宙関連企業ヨーヨーダインの社内便を通して情報を伝達するピーター・ピングィッド協会。イタリアの湖からマフィアによって運び込まれたGIの人骨と、ジェイムス朝復讐劇の戯曲『急使の悲劇』の不可思議な相似点。全てが「トリステロ」というキーワードでつながり、中央集権的な郵便のシステムに対抗しつつ、他のオルタナティブな郵便機関を潰すために暗躍する黒尽くめの男たちの群れが歴史から浮かび上がってくる。サンフランシスコの夜をさまよいながら、いたるところにミュート・トランペットのシンボルを見いだしたエディパが感じた戦慄は、この小説を読んだ私自身が体験したものである。
物語の冒頭で、エディパは郊外都市での生活に閉塞感を覚えて倦んでいる。かつて彼女は、レメディオス・バロの絵画、『大地のマントを刺繍する』の、塔にとらわれて布に風景や生物を刺繍することで「世界」を創造していく少女たちを見て泣いている。全てにありきたりな「意味」がある世界にがんじがらめの自分をそこに見たのだ。『大地のマントを刺繍する』はレメディオス・バロの自伝的な三部作を構成する一枚で、塔にとらわれた少女は、最後に恋人の手を借りてそこを脱出するというロマンティックな結末が待っている。エディパも「トリステロ」の謎を取り巻く冒険によって、自分を支配していた世界から逸脱していくように見える。しかし、それは「脱出」ではなく、迷宮への「進入」である。後戻りは出来ない。一度ラッパのマークに気がついたら最後、それまでの自分がいた世界を形成していた物事は次々と消滅していってしまう。しかも、そこまで事態が進んでも全てがエディパのパラノイアか、彼女に仕掛けられた壮大な悪戯であるという可能性がぬぐい去れないところがピンチョンの小説の恐いところだ。隠喩が星のようにまたたくのは、意地悪なウィンクを繰り返しているせいなのかもしれない。ピンチョンの仕掛けた罠から逃れるためには、もう一度それらが放つ「意味」を読み直さなければいけないのか。それは小説というよりも、まるでゲームのようだ。コードを読み解くという使命が主人公に下される『競売ナンバー49の叫び』は、ピンチョンというゲームを初めてプレイするのにふさわしい小説だといえる。ルールさえ覚えれば、ピンチョンは決して難しくない。

(やまさき・まどか コラムニスト)

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競売ナンバー49の叫び
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