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白洲正子 美の種まく人

白洲正子/著 、川瀬敏郎/著 、他

1,320円(税込)

発売日:2002/08/23

  • 書籍

当代一といわれた白洲正子と作家、工芸家、骨董商たちとの“美のサークル”の全貌!

当代一の目利きといわれた白洲さんは、創作のヒントをプレゼントする名人でもあった。彼女からもらった「美の種」を育て、花咲かせたアーティストたち、そして骨董商たちとの交流から浮かび上がってくる正子さんとは? ここには誰もがわかちあえる“美の輪”がある。没後に発見された幻の論稿「清少納言」百二十枚を附す。

書誌情報

読み仮名 シラス・マサコビノタネマクヒト
シリーズ名 とんぼの本
雑誌から生まれた本 芸術新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 A5判
頁数 144ページ
ISBN 978-4-10-602093-3
C-CODE 0395
ジャンル ノンフィクション、歴史・地理、アート・建築・デザイン
定価 1,320円

インタビュー/対談/エッセイ

波 2002年9月号より 白洲さんとの幸福な一日  白洲正子 川瀬敏郎ほか『白洲正子美の種まく人』

川瀬敏郎

恐れることなく、堂々と花をいけて、「先生見て下さい」といえた時が、それこそ一期一会のような時がありました。この『白洲正子美の種まく人』の巻頭グラビアになっている「川瀬敏郎 師・白洲正子に“胸を借りる”」の日です。一九九七年の秋でした。(発表は「芸術新潮」一九九八年一月号)
「日本のたくみ」の連載にとりあげていただいた頃はまだ若造でした。それから二十年近くのお付合いを経ていくうちに、白洲正子という人間の大きさを少しずつですがわかるようになってきており、先生も体を悪くされる前で、見者としての力もみなぎっていた最後の機会でした。先生と僕との空気がなにかピタッときて、ある高みにいられて、かえって自由になり、もう花をたてるとか、なげいれるとか、そのようなことにもあまりこだわりなく、ただ花をいける喜びというか、楽しさだけを感じていました。
花材も器も事前にうちあわせをすることもなく、鶴川の白洲邸にうかがいました。そのような時は、花もついてきてくれました。美男かずらが見事に紅葉していて、あれほど見事なのは、僕の生涯のなかでも最初で最後のことです。
先生も気持よく見て下さって、「見せて頂戴」という感じで。花自体も白洲先生そのものをあらわすような花がたくさん手に入っていました。先生と僕との二人の肖像を描いているみたいな感じになりました。気楽というか、気持が自由になっているというか、あの時の雰囲気は、今でも昨日のことのように覚えています。
先生は僕にとって唯一の批評家で、いつも僕の心の真ん中にいて、どのような場所でいけていても、先生はどういわれるだろうという意識を消すことができませんでした。それまでも、その後も先生の前でくつろいだ気持になったことはないのです。一緒に食事をすることもはばかられるのです。くつろいでしまうと、自分が思う白洲先生ではなくなってしまう、といったらいいでしょうか。
この本を見て下さる人にはわかっていただけると思うのですが、渥美壺にいけられた美男かずらを間に、花に手をのばして微笑んでおられる先生に対し、僕がいかに無防備なポーズをとっているか。この日が何もかも喜びに満ちていたことの証しです。
「美の種まく人」というこの本の題名がいいですね。白洲先生ほど「美の種まく人」と称されるのにふさわしい方はいないのではないでしょうか。
「私のなかから白洲先生の影が消えたときにはじめて、ほんとうの『川瀬敏郎の花』がいけられるのではないか、またそうしなければ、15年前の手紙で『花の新しい様式を創り出して見せて下さい』と書いてくださった先生との約束をはたしたことにならないのではないか……」
この本の母体となった「芸術新潮」の白洲正子特集号(一九九九年十二月号)に、先生が亡くなられてから考えていたことを、このように語ったことがあります。それからまた三年近くがたちました。先生のまかれた種を、自分たちは本当に花咲かせたのだろうか、と考えこんでしまうことがあります。種は確かにまかれました。自分たちは、それを花咲かせたと思い、人からも思われもしました。しかし、花咲かせたのは白洲さんその人だったのではないか。そして花咲いたように見せ続けさせて下さった、そのことの恐ろしさを、先生のいない、自分一人になった年月の経過が教えてくれたのです。
「いいよ、これ」という白洲さんの眼が消えてしまうと、精神的な支柱がなくなり、すべてがふきとんでしまったかのようです。ひとりの美の体現者をうしなった今、表現者として、いかに生きるか、もう一度考える時だと思う日々です。

(かわせ・としろう 花人)

▼白洲正子、川瀬敏郎ほか とんぼの本『白洲正子美の種まく人』は、発売中

著者プロフィール

白洲正子

シラス・マサコ

(1910-1998)1910年東京生まれ。幼い頃より能を学び、14歳で女性として初めて能舞台に立ち、米国留学へ。1928年帰国、翌年白洲次郎(1902〜1985)と結婚。古典文学、工芸、骨董、自然などについて随筆を執筆。『能面』『かくれ里』『日本のたくみ』『西行』など著書多数。1998年没。

川瀬敏郎

カワセ・トシロウ

花人。1948年京都府生れ。幼少より池坊の花道を学ぶ。日本大学芸術学部卒業後、パリ大学へ留学。1974年に帰国後は流派に属さず、独自の創作活動を続ける。2009年、京都府文化賞功労賞を受賞。著書に『花会記―四季の心とかたち―』(淡交社)、『川瀬敏郎 今様花伝書』(新潮社)、共著に『神の木―いける・たずねる―』(新潮社とんぼの本)など。

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