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小林秀雄 美と出会う旅

白洲信哉/編

1,540円(税込)

発売日:2002/10/17

  • 書籍

文章を道標に「天才批評家」の美の遍歴を追体験する旅。

ゴッホ、セザンヌ、ルオー、雪舟、鉄斎、梅原龍三郎から、愛した骨董の数々まで、「批評の神様」の眼が捉えた「美」の本質を、作品図版と、その膨大な著作から抜粋した文章をたよりにやさしく読み解き、氏の「美の遍歴」を実際に追体験する旅。旅や食、住まいなど氏の素顔にも迫る。

書誌情報

読み仮名 コバヤシヒデオビトデアウタビ
シリーズ名 とんぼの本
発行形態 書籍
判型 A5判
頁数 128ページ
ISBN 978-4-10-602096-4
C-CODE 0395
ジャンル 評論・文学研究、ノンフィクション、アート・建築・デザイン
定価 1,540円

書評

祖父・小林秀雄「生誕百年」を記念して

白洲信哉

 祖父の生誕百年を迎えた今年は、第五次全集の刊行が終了したのに続いて、十月には「小林秀雄全作品」と銘打った第六次全集が発売される。それと時期を同じくして東京・渋谷の松濤美術館を皮切りに、来年の夏まで全国五つの美術館で「生誕百年記念展 小林秀雄 美を求める心」が巡回される(日本経済新聞社主催)。今まで文学者の回顧展というと、直筆の原稿や愛用の万年筆等並ぶことが多かったが、この展覧会はそういった従来の文学者の回顧展と全く趣を変え、テーマを「美」に絞り、祖父が批評の対象にした絵画や、愛蔵した美術品を通して「小林の眼」、彼が探求した「美」そのものに焦点を当てた。
 祖父は『美を求める心』という「美」についての著書の冒頭で、美術や音楽の本を読むことも大切だが、何より「何も考えずに、沢山見たり聴いたりする事が第一だ」と言っている。そして「絵は、眼で見て楽しむものだ。音楽は、耳で聴いて感動するものだ。頭で解るとか解らないとか言うべき筋のものではありますまい。先ず、何を措いても、見ることです。聞くことです」と述べている。そうした彼の基本姿勢を尊重し、この展覧会では彼が探求し、また愛した「もの」を、率直に観ていただければと思う。そして何か一瞬でも各々で「美を求める心」を感じ、すぐに解った気にならず、自分自身で考える時間を持つことが肝要である。
 さて、今回の出品は、大雑把に三分野に分かれる。
 まず「近代絵画」だが、著書『近代絵画』を基に構成し、ゴッホ、セザンヌ、モネ、ルノアール、ドガ、ゴーガン、そしてピカソら印象派前後の画家の作品を、小林が批評した文章の抜粋文と共に展示した。特に『ゴッホの手紙』を書く契機となった「烏のいる麦畑(レプリカ)」と、『近代絵画』からは外れるが、晩年祖父がもっとも愛し、手に入れ、書斎に掛けた数々のルオーは見応えがある。
 次に「日本画」は、戦後間もなく祖父がもっとも情熱を傾けた富岡鉄斎に始まり、生前親交があった梅原龍三郎、中川一政、奥村土牛と二十世紀を代表する画家の作品が見られる。これも同じように書き残した抜粋文とともに展示する。
 最後の「骨董」は、ほとんど祖父が生前身近に使ったものばかりで、その愛情は数々の文章からも、垣間見ることが出来る。
 ゴッホやセザンヌと李朝白磁や古伊万里、刀の鐔や勾玉などが一緒に並ぶ展覧会など、あまり類例はないが、「美を求める心」を道標とし、祖父が直覚した言葉を作品と並列に展示することによって、彼の視線を追体験し、彼が求めた「美」の本質に迫ることが出来ればと思っている。
 そして小林秀雄と聞いただけで、受験問題を思い出したり、なんだか難しそうだと尻込みしてしまうそんな人にこそ、ぜひ観ていただきたい。彼は「美しい花がある。花の美しさという様なものは無い」という言葉を残したが、「ただ観て発見すればいい」と始終言っていた。
 もうひとつ、ぜひ手に取っていただきたいのが、この展覧会のカタログである。余分な解説や挨拶は廃し、小林が愛した「美」の世界を、小林の言葉と作品だけで味わっていただけるような作りにした。詩画集を楽しむように、小林の言葉を噛み締めながら、ゆっくりと絵画、骨董作品を鑑賞して下されば幸いだ。
 最後に、この展覧会にあわせて、とんぼの本『小林秀雄 美と出会う旅』を刊行する。こちらは、祖父が実際に訪ね歩いた欧州各国の美術館、遺跡などその足跡を追いながら、書き残された文章の抜粋文を再構成した記事と、そこで見た絵画、自身が撮影した写真などとあわせて紹介した。さらに、祖父が愛した桜、温泉、食事、住まい、旅先からの便りなど、いままであまり知られることのなかった素顔も、たっぷりと紹介している。展覧会、カタログとあわせてこの本をご覧いただけたら、あの「難しい」小林秀雄を、ぐっと身近に感じていただくことが出来ると思う。

(しらす・しんや 小林展プロデューサー)
波 2002年10月号より

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著者プロフィール

白洲信哉

シラス・シンヤ

1965年東京都生まれ。細川護煕首相の公設秘書を経て、執筆活動に入る。その一方で日本文化の普及につとめ、書籍編集、デザインのほか、さまざまな文化イベントをプロデュースする。父方の祖父母は、白洲次郎・正子。母方の祖父は文芸評論家の小林秀雄。主な著書に『小林秀雄 美と出会う旅』(2002年 新潮社)、『天才 青山二郎の眼力』(2006年 新潮社)、『白洲 スタイル―白洲次郎、白洲正子、そして小林秀雄の“あるべきようわ”―』(2009年 飛鳥新社)、『白洲家の流儀―祖父母から学んだ「人生のプリンシプル」―』(2009年 小学館)、『骨董あそび―日本の美を生きる―』(2010年 文藝春秋)ほか多数。

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