向田邦子 暮しの愉しみ
1,760円(税込)
発売日:2003/06/25
- 書籍
料理、器、インテリア、旅……向田邦子入門の決定版。
人気脚本家、名エッセイスト、直木賞作家として活躍した向田邦子さん。料理上手で食いしん坊、器、書画、骨董にも熱中し、暇さえあれば旅に出る。大好きな猫と暮し、着る物も身の回りの小物も「あら、こういうの、いいわね」と楽しげに、けれどしっかりとした自分の眼で選んでいく――そのライフスタイルをカラーで紹介。
直伝の常備菜
残りものは“うまい!”の素
読むと食べたくなる「ことばの御馳走帖」
「ままや」繁昌記ふたたび
春は勝手口から 向田和子
エッセイ&写真再録「眼があう」 向田邦子
邦子好みの器づかい 大嶌文彦
邦子さんのお茶の時間/
水羊羹を食べる時は……/
タイから持ち帰った宋胡録
ある日の器さがし
エッセイ&写真再録「負けいくさ」 向田邦子
姉の包丁さばき
姉自慢……その一 向田和子
向田画廊へようこそ
エッセイ再録「利行の毒」 向田邦子
猫と暮して
さりげないおしゃれ
「う」の抽斗
行きつけの店
向田邦子が選んだ食いしん坊に贈る100冊
姉妹はおつな味 姉のごちそう術 向田和子
人形町 小半日のゼイタク旅行
岐阜 若葉と味噌カツ 揖斐の山里を訪ねて
向田邦子が見た風景 海外旅行
フォト・アルバム/旅のおみやげはトランプ
ひと呼吸、おいて。
おまじないのように
姉自慢……その二 向田和子
座談会(抄録) 素顔の向田邦子
植田いつ子×向田せい×向田和子
ただいま修行中 向田家のおもてなし 向田和子
向田邦子をしのぶ二つの資料館
実践女子大学図書館向田邦子文庫/かごしま近代文学館
書誌情報
読み仮名 | ムコウダクニコクラシノタノシミ |
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シリーズ名 | とんぼの本 |
発行形態 | 書籍 |
判型 | A5判 |
頁数 | 144ページ |
ISBN | 978-4-10-602103-9 |
C-CODE | 0395 |
ジャンル | 文学賞受賞作家、ノンフィクション、クッキング・レシピ |
定価 | 1,760円 |
書評
かっこつけないかっこよさ 向田邦子の魅力
向田邦子さんのことを知ったのは、中学生の頃でした。母が向田さんの大ファンだったんです。ドラマもよく観ていたようですし、本が出ると買っていました。「すごく面白いから」と、エッセイを読むよう勧められたこともあります。母は四姉妹の長女なんですが、同じく長女だった向田さんと自分を重ねあわせていたのかもしれませんね。
私自身は、残念ながら向田さんがお書きになったドラマを、リアルタイムで観てないんです。ですから私にとって向田さんというと、脚本家よりむしろエッセイスト。幼い頃の思い出や、なにげないふだんの暮しの場面が、鋭く、けれどあたたかい視線で綴られているところが好きで、大学時代に夢中になって読んでいました。
アナウンサーの仕事をはじめてからは、別の角度から向田さんのエッセイをとらえるようになりました。それは「声に出して読みたい」「耳で聞いてみたい」文章かどうかということ。ときおり仕事で本の朗読をしていますが、いろんな文芸作品を読む際、目で読むだけではなく、「聞く文章」かどうかが気になるんです。私の好みかもしれませんが、朗読向きだなと思わせる文章には、“音”や“匂い”があり、なおかつ聞いている人たちの共感を呼ぶ力があります。向田さんのエッセイは、まさにそれ。日常をおざなりにせず、きちんと食べて仕事をして買い物をして……地に足のついた暮しをしている人だからこそ書ける世界で、描写に説得力があるんです。
今回出版されたとんぼの本『向田邦子 暮しの愉しみ』は、そんな向田さんのエッセイに登場するいろんな場面を、ビジュアルで見せてくれます。抜粋されているエッセイの一節を懐かしく読んだり、“発見”がありましたね。お惣菜風の料理や、好きな料理を盛るためのお気に入りの器、原稿を書くときに身につける“勝負服”、寸暇を惜しんで出かけた旅の風景……盛りだくさんで、ページをめくるのがとても楽しかった。
とくに熱心に読んだのは、料理と器です。このところよく料理をするんですよ。二年ほど前から、趣味で陶芸教室に通い始め、ようやく「この皿にはこういう料理を盛りたいな」とか「煮物を盛る鉢が欲しいな」と思えるようになってきた。私は今年三十歳になりましたが、この歳になってやっと自分で食事を作って好きな器に盛りつけて食べることの愉しさに気がついたんですね。向田さんは、どんなに忙しくても料理を作り、骨董屋さんをのぞいて見つけた好きな皿小鉢に盛りつけて、ひとりのお膳でも箸置きをちゃんと使って、食事をしていた。
その「暮しぶり」は女性誌などでよく語られる「生活美人」や「素敵な女性の生き方」――キャリアアップするにはどうしたらいいか、時間はこういう風に使いなさい、お化粧にも手を抜かない、身の回りは整理整頓して――とは少し違っている。もちろん、それができたらすばらしいけれど完璧には無理。向田さんの暮らしぶりは、いい意味で大らかで、素敵に生き崩しているといった印象を受けます。とりすましていないとでもいうのでしょうか。
今回の本にも再録されていますが、たとえば器についてのエッセイで「これはそう悪くないぞ、と思っていたものが、さほどでもない」とわかった後、「手は正直で、洗い方がぞんざいになっている」なんてさらっと書ける。かっこつけないかっこよさ、というのでしょうか。それでいて、長女だから面倒見がよく、昔気質できちっとしている。
それは恋をしているときも同じですね。昨年の話になりますが、妹の和子さんがまとめた『向田邦子の恋文』を読んだとき、胸がいっぱいになり、涙が溢れて仕方がありませんでした。「好き」だとか「愛している」なんて言葉はひと言もなく、近況の報告やさりげない思いやりが見え隠れする手紙のやりとり。そして、その行間から伝わってくる向田さんと相手の方の想い。駆け出しのシナリオライターとして大忙しだった三十代前半の女性に、そうそうできることではありません。泣き言一つ言わずに、自分の決めたことを貫く姿に感動し、読み終わった直後、女友達に電話をしてしまったほどです。
向田さんは生涯独身でいらしたけれど、結婚しない理由を、エッセイの中では「甲斐性がないので」とお書きになっています。なんでもないようでいて、凜としたものを感じます。
本書では、向田さんが歳を重ねるにつれ、自分らしく暮すために、どんな風にされてきたかを辿ることが出来ます。大学の頃の私だったら、器や料理でない面に惹かれていたかもしれません。今のうちの母だったらどうでしょう。五年後、十年後に読み返してみると、新たな発見や教えられることがきっとあると思います。その時その時の人生の愉しみ方を向田さんはたくさんご存じだった。だからこそ、世代を越えた共感が向田さんという存在に集まるのでしょう。[談]
(ささき・きょうこ フジテレビ・アナウンサー)
波 2003年8月号より
向田さんと一緒に暮していた愛猫
担当編集者のひとこと
向田邦子さんのエッセイを読んでいると、あ~おいしそうだなぁ、食べたいなぁと思うことがちょくちょくあります。
人気脚本家、小説家として活躍した向田さん。とにかく食いしん坊で、レストランでこれはと思う料理に出くわすと、シェフの技を目と舌で盗み、地方で評判のものがあると取り寄せ、自分でも仕事の合間を縫ってささっとおいしい手料理をつくる名人でした。「今の女性は忙しいし、仕事をしている人が多いでしょう。もしかしたら姉の料理が参考になるかしらと思って」と、末妹の和子さんが、今回、そんな邦子さんの手料理を再現して下さいました。作り置きしておくと便利なメニューもご紹介します。もちろんレシピ付。
器えらびにもご注目ください。向田さんは、好きな料理を好きな器に盛りつけて食べたいからと、骨董屋を回っては気に入りの皿小鉢を買い集めていました。第二章では、その選び方のポイントを知るエッセイ&写真を再録。気鋭の骨董商、西荻窪「魯山」主人の大嶌文彦さんが器から読み解く「向田邦子像」も必読。そうそう、今が旬の「水羊羹」は向田さんの大好物。いつも決まった器に盛っていました。ほぉー、これぞ“邦子好み”と唸る組み合わせです。
そのほか、母のせいさん、親友の植田いつ子さん、妹の和子さんが語り合う「素顔の向田邦子」、終の住処となった南青山のマンションの間取り図、部屋を飾った書画・骨董、愛猫との暮しぶり、ファッション、本、旅など、向田さんが愉しんだ日々の暮しの風景を、美しいカラー写真と小社秘蔵のポートレートで綴ります。
2003/06/25
著者プロフィール
向田邦子
ムコウダ・クニコ
(1929-1981)1929(昭和4)年、東京生れ。実践女子専門学校(現実践女子大学)卒。人気TV番組「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」など数多くの脚本を執筆する。1980年『思い出トランプ』に収録の「花の名前」他2作で直木賞受賞。著書に『父の詫び状』『男どき女どき』など。1981年8月22日、台湾旅行中、飛行機事故で死去。
向田和子
ムコウダ・カズコ
1938年、東京生まれ。長姉の邦子とは9つ違い。1978年、邦子とともに東京赤坂に惣菜・酒の店「ままや」を開店(1998年に閉店)。著書に『かけがえのない賭り物 ままやと姉・邦子』『向田邦子の青春』(ともに文藝春秋)、『向田邦子の恋文』(新潮社)等がある。