フランス ロマネスクを巡る旅
1,540円(税込)
発売日:2004/11/24
- 書籍
ブルゴーニュから南仏へ、そしてピレネーの麓まで!
小さな村、緑豊かな平原、人跡まれな山里。11世紀から12世紀にかけ、フランス各地に芽吹いたロマネスクの聖堂は、その親密な空間や、おおらかで活気にあふれた壁画や彫刻などで、私たちの眼を愉しませてくれる。どの教会もちょっぴり不便な場所にあるけれど、本書ではレンタカーなしでも行ける方法をご紹介します。地図、行き方ガイド付。
ブルゴーニュ地方ブランシオンのサン=ピエール教会の内部
ラングドック=ルション地方ブール・ダモンのセラボヌ小修道院
ミディ=ピレネー地方モワサックのサン=ピエール修道院聖堂の中庭の回廊
2 聖なる怪物たち
3「最後の審判」を読み解く
4 壁画を味わう
プロヴァンス=コート・ダジュール地方
ラングドック=ルション地方
ミディ=ピレネー地方
書誌情報
読み仮名 | フランスロマネスクヲメグルタビ |
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シリーズ名 | とんぼの本 |
雑誌から生まれた本 | 芸術新潮から生まれた本 |
発行形態 | 書籍 |
判型 | A5判 |
頁数 | 160ページ |
ISBN | 978-4-10-602120-6 |
C-CODE | 0326 |
ジャンル | 歴史・地理、アート・建築・デザイン、海外旅行 |
定価 | 1,540円 |
ヴェズレーの丘を撮影中
中村好文さんの旅のコメント
10日あまりのロマネスク取材の旅は、一種の巡礼の旅でした。朝早くから日の暮れるまで、明るいうちは撮影し続けるわけですが、夏至間近のフランスはなかなか暗くなってくれない上、カメラマンのT氏が粘りに粘る仕事人間なので、撮影はいつ果てるともなく続きました。こちらはシャンパンから始まる美味しい夕食(もちろんワイン付)になかなかありつけず、おあずけをくった犬のように何度もブルゴーニュの黄昏を恨めしげに眺めたことでした。
ま、おかげで、とっぷりと暮れた頃、疲れ果てて旅籠にたどり着き、振る舞われた一杯のワインに喉を鳴らした中世の巡礼者の気持ちを毎夜しみじみと味わうことになりました。
ロマネスク巡りの噂話
日下潤一(デザイナー)
パリからルノー・エスパスのロングボディーで出かけました。メンバーは、建築家の中村さん、編集部のSさん、カメラマンのTさん、コーディネーター兼運転手の高橋さんと私の5人。田舎なので道はわかりやすいと思っていたら、これが結構難しいのです。かならず分岐点がロータリーになっていて、その何本かに分かれている放射状の道を間違えると、全然ちがう方向へ行ってしまうのです。フランスの田舎道のドライブは油断がなりません。
ブルゴーニュではオータンの街を拠点に教会をまわりました。取材の後、みんなで郊外のレストランへ行き、遅い食事をとったのですが、そのとき出た「ムルソー」(ブルゴーニュの有名な白ワイン)はとても美味しいものでした。お酒の強くないTカメラマンも楽しく飲んでいました。ところが食後、車でオータンまで戻る途中、ぼそっとつぶやきます。「気持ちが悪い……」。外は折りあしく雷雨。ザーザー雨が降りしきる街道の路肩に横たわり、美酒の酔いをさます、びしょ濡れTカメラマン。すぐそばを車がビュンビュン通り過ぎていきます。濡れながらみんなで彼の介抱をしました。
その甲斐あって、翌日早朝から、またバリバリ写真を撮っていました。
旅のお役立ちメモ
本書のガイド情報のリサーチをしてくれたのは、パリ在住のジャーナリスト高橋博さん。
高橋さんは、2002年の中村さんと芸術新潮の取材旅行にもコーディネーターとして同行してくれた人。本書の成り立ちには、なくてはならなかった陰の助っ人です。今回もその素晴らしい取材力で現地観光案内所に徹底調査してくれました。スペースの関係で本のなかでは書ききれなかったお役立ちメモをここでご紹介します。
★お役立ちメモ1[ロマネスク巡りにオススメの地図]
ミシュラン
折りたたみ式、黄色の表紙が目印。ドライバー向けに作られたルートマップだが、結局移動はバスかタクシーになるので周遊先の位置関係と距離をはかるのに便利。特に地図の素人には、たいへん見やすい。教会巡りならば、15万分の1(1cm=1.5km)以上の大縮尺のものがよいだろう。駅売店にも置いてあるが、たとえばブルゴーニュ全域図など小縮尺がほとんどなので注意。FNAC(フナック)等の大型書店で求めたい。
IGN (Serie VERTE)
フランス国土地理院が発行する「緑シリーズ」。折りたたみ式、緑の表紙が目印。一般家屋の位置まで示している。教会までの道のりのみならず、周辺の地勢も知りたいマニア向け。最低でも10万分の1(1cm=1km)、望むなら2万5千分の1(1cm=250m)というのもあって正確、詳細を極める。これがあれば道に迷うこともないだろう。FNAC等の大型書店にも置いてあるが、パリにある直営ショップは全シリーズを網羅しているので、ここに直接、行かれることをお勧めします。
IGN(直営ショップ)
107, rue de La Botie 75008 PARIS
メトロ:1番線フランクリン・デ・ルーズベルト
現地の地図
目的地に着いたら、まずこれを観光案内所で求めたい。ほとんどの場合、無料。教会までの道順を記した地図を置いてあることもある。
★お役立ちメモ2[観光案内所を使い倒そう]
旅先で情報を得るには観光案内所を訪れるにしくはない。しかし、観光ズレしているような場所では、係員がおざなりな対応をとることもあるかもしれない。また、応対する係員の「ひとによっていうことが違う」ということもあるだろう。重要なことならともかく、あまり目くじらを立てず、鷹揚に問い直そう。何しろ情報の宝庫に違いないのだから、後ろに人が並んでいても気にせず、ゆっくりと質問に答えてもらおう。ガイドブックにある記載事項はつねに変更されている可能性があるので、観光案内所詣ではとにかく大切な第一歩なのだ。自分の順番が来たら、まずニッコリと笑って「ボンジュール!」くらいはいおう。すべてはヒューマンコンタクトだ。ヘタな英語よりも日本語を交えた方がよく通じるということもある。以下は簡単な注意事項です。
*観光案内所でホテルやタクシーのあっせんはしてくれない。これは癒着を生まないための規定による。しかし、条件に見合ったリストはくれるので、リストを元に、条件を詰めていけば(固有名詞をあげさえしなければ)自ずから欲しい情報は手に入る。たとえばホテルならば「**から一番近いホテルは?」などと訊ねさえすればよい。
*辺鄙な場所の観光案内所では、営業時間内であっても係員が常時待機しているとは限らない。村人が交替でやっているようなところも多い。一般的にとても親切だが、店じまいは早く、昼休みも長くとる傾向があるので、時間には余裕をもって行動しよう。
★お役立ちメモ3[タクシーに関するア・ラ・カルト]
*いわゆるチップは払う義務はない。料金のパーセントを計算する必要もない。ただ払う義務はないが、習慣としては残っており、釣り銭が少額であればそれを渡すのもよいだろう。通常は1~2ユーロで十分。チップは「心付け」に他ならないので、長距離や周遊をした場合はケース・バイ・ケースで考えよう。もちろん、運転手がチップを要求することは論外だ。何かしらの不満を覚えたら、払う必要などない。
*世界中どこでもタクシーを乗りこなす一番の秘訣は、運転手と顔を合わせた瞬間にニコッと現地語で「こんにちは」ということで間違いないのではなかろうか。国さまざまだし、注意点も多々あるものの……。
★お役立ちメモ4[旅の安全]
ロマネスク巡りにおいて、飛行機+TGV+レンタカー等を使ったメジャーなやり方を取らない場合、自分で組み立てていく旅の楽しみがある一方で、いろいろと現場で辻褄の合わないことの発生する機会が増えるだろう。それもまた楽しみのひとつといえばそれまでだが、日本と決定的に異なる点としては、やはりセキュリティ問題を挙げたい。「自己責任」の取り方にしても、生活習慣が違う以上、日本とフランスでは異なる部分が目立つところだ。「親切にされる」だけでなく「親切にする」も十分、注意しなければならないことがある。残念ながら、一見田舎のひなびた場所であっても、車でアクセスできる観光地の場合、そこには必ず一定数のスリ・置き引き・詐欺等が発生している。駅や観光案内所周辺となればなおさらのことだ。さまざまな手口があり、慣れない日本人はターゲットにされたら逃れるのが難しいケースも多々ある。
(ケース1)
切符を買おうとして並んでいたら、後ろから肩を叩かれた。「お金を落としましたよ」と男にいわれる。なるほど床に20ユーロ札が落ちている。親切な人だと気を取られている隙にバッグから財布を抜かれた。
(ケース2)
ローカル線の車内でトイレに立った。人影もまばらだったので問題ないと思い、カメラバッグを棚の上に置いた。戻ってそれがなくなっていることに気づき、全車両を見て回ったが、どこにも見あたらなかった。
(ケース3)
駅で連れ添いがトイレに行ったので荷物番をしていた。サクラの男が「**まではどの列車で行けばよいか?」と英語で訊いてきた。返事に窮している間に、足下に置いた貴重品を別の男に置き引きされた。
(ケース4)
観光地のある地方駅、券売機の近くで男が近づいてくる。現金を見せ、「この機械はカードでないと切符が買えないから、代わりにあなたのカードで買ってくれないか」と頼んでくる。本当に困った様子。しぶしぶ承諾してカードを券売機に入れる。すると、サクラが来て「その男に気をつけた方がいいよ」と親切そうに教えてくれる。だが、そちらの方が人相が悪いので、最初の男を信用してしまう。結局、なぜか切符は買えずにカードは戻る。もちろん、その男たちにカードはまったく触らせていない。しかし、どうやって仕込んだのかスキミングされていた……。
担当編集者のひとこと
フランス ロマネスクを巡る旅
本書は、ブルゴーニュから南仏へ、そしてピレネーの麓まで、建築家の中村好文さんと芸術新潮編集部が旅してつくった特集(「フランスの歓び」2002年8月号)のロマネスク編がもとになっています。左は当時の取材風景。撮影者はデザイナーの日下潤一さん。芸術新潮のアートディレクターで今回の本のデザインもしてくださっています(日下さんによる「ロマネスク巡りの噂話」は以下に)。 ロマネスクは、11世紀から12世紀にかけて、都市ではなくフランスの地方で芽吹いた文化。ロマネスクを巡る旅は、すなわち田舎の美しい風景と、おいしい郷土料理を満喫する旅でもあります。どこも交通の便にあまり恵まれていないので(だからこそ、ひなびたたたずまいが残っているのですが)、可能ならTGVで行けるところまで行って、そこから先は車を借りるのがベスト。ですが、いきなり現地で運転、というわけにもいかない……という方のために、本書ではレンタカーを使わない行き方をご紹介。現地観光案内所に徹底リサーチした、現時点での最新情報です(本に書ききれなかった「旅のお役立ちメモ」は以下に)。
ロマネスク美術についての入門テキストもおすすめです。書き手は名古屋大学教授の木俣元一先生。とってもわかりやすいコラム&解説なので、スルスルと頭に入ってきます。
なお本書は丸ごと一冊、高精細印刷でお届けします。聖堂内部の石積みや浮彫の驚くほどクリアな質感をご堪能ください。同じ印刷で2005年1月に本書の対となる『フランス ゴシックを仰ぐ旅』も刊行しました。こちらは都築響一さんによるパリ・ゴシック案内など新規取材分もありますので、ぜひあわせてご覧ください!
2016/06/09
著者プロフィール
中村好文
ナカムラ・ヨシフミ
建築家。1948年千葉県生まれ。1972年武蔵野美術大学建築学科卒業。宍道建築設計事務所勤務の後、都立品川職業訓練校木工科で学ぶ。1976年から1980年まで吉村順三設計事務所に勤務。1981年レミングハウスを設立。1987年「三谷さんの家」で第1回吉岡賞受賞。1993年「一連の住宅作品」で第18回吉田五十八賞特別賞を受賞。現在、日本大学生産工学部居住空間デザインコース教授。著作は『住宅巡礼』『住宅読本』(ともに新潮社)、『普段着の住宅術』(王国社)、柏木博氏との共著に『普請の顛末』(岩波書店)などがある。
木俣元一
キマタ・モトカズ
名古屋大学大学院文学研究科教授(西洋中世美術史)。1957年静岡県生まれ。1976年名古屋大学経済学部に入学、文学部に転部し、辻佐保子教授の下で西洋中世美術史を専攻。1980年同学部卒業。1982年同大学大学院文学研究科博士前期課程修了(哲学専攻美学美術史専門)。同年同研究科博士後期課程に進学。1983年よりフランス政府給費留学生としてパリ第一大学博士課程へ留学(中世考古学専攻)、レオン・プレスイール教授に師事し、1987年博士号を取得。2003年辻壮一・三浦アンナ記念学術奨励金(立教大学)を受賞。2004年名古屋大学にて博士号を取得。著作に『シャルトル大聖堂のステンドグラス』(中央公論美術出版)、共著に『西洋美術館』(小学館)、『図説 大聖堂物語』(河出書房新社)、『フランス ロマネスクを巡る旅』『フランス ゴシックを仰ぐ旅』(ともに新潮社)などがある。