京都洋館ウォッチング
1,760円(税込)
発売日:2011/11/25
- 書籍
こんな京都、知らなかった! 目からウロコ、秘密の建築散歩へ出発。
煉瓦造りのレトロビル、堂々たる破風をもつ洋館、エロスの香り漂うレリーフ……。“東京遷都”以降、近代日本の新風を貪欲に先取りしてきたこの街は、じつは近代建築こそおもしろい! 景観論争いまむかし、知られざる建築家の逸話など、建築史・風俗史界きってのエンターテイナーが独自の視点で案内する、驚き必至の建築めぐり。
1 松室重光を、ごぞんじですか
2 武田五一の才能をおしみたい
書誌情報
読み仮名 | キョウトヨウカンウォッチング |
---|---|
シリーズ名 | とんぼの本 |
発行形態 | 書籍 |
判型 | B5判変型 |
頁数 | 128ページ |
ISBN | 978-4-10-602226-5 |
C-CODE | 0352 |
定価 | 1,760円 |
担当編集者のひとこと
京都洋館ウォッチング
編集担当のAです。私は高校の時、京都に修学旅行に行って以来の京都好きで、京都にたくさん行きたいがために、京都への出張が多そうな方面の出版社に就職しました。というのはウソですが、大の京都好きなのは本当。よく、イケズされたとか、大学生は大事にされるけど棲むことになったヨソサンには冷たいよ、とか聞きますが、私はいつだってあくまで旅人ですので、まったくそんなこと構いやしません。仕事の上でのイケズ、というのも20代の時はされた(ような気もする)が、もうイケズもされなくなった(感じないだけかも)といって等しいです。
そんなわけで、はりきってこの企画を進めたことは言うまでもありません。
しかも、著者の井上章一先生。その昔、当時在籍していた雑誌で毎月書評を執筆していただいていましたが、お目にかかるのは、なんとそのとき以来。ご専門の建築史のみならず、美女、人形、霊柩車、関西文化など幅広く風俗・意匠について研究していらっしゃるとてもユニークな先生です。とくに“美女好き”で名高い方なので、かなり気が重かったのですが、一緒に仕事をしてくださった京都の編集者が美人だったので、大変助かりました。 さて本題を少しだけ。
京都といえばいうまでもなく、神社仏閣、歴史上の人物ゆかりの場所、風光明媚な自然、美味しいもの、美しいお土産など訪ねる目的はいくらでもありますが、本書のように、明治以降の近現代建築を見に行く、眺めてうっとりする、という目的で京都に行く人はかなり稀だろう、ということです。しかしそこが、じつは狙い目。東京に“遷都”されてしまって以降の京都には、優秀な建築家が素晴らしい建築を遺しているのです。
たとえば、京都に行ったら必ず一度は通るであろう四条通。四条大橋のたもと、東南側には南座があります。年末は恒例の歌舞伎の顔見世興行です。人の往来が多いので立ち止まってしてまでじろじろ建物を見ないでしょうけれど、よく眺めてみてください。美しい千鳥破風と唐破風が組み合わさった壮大な桃山風の建物に圧倒されます。これは1929年、白波瀬直次郎の作。また、四条通を挟んで南座の向かい側には、レストラン菊水が(本書の表紙にもなっています)。下の方ばかり見ているとわかりませんが、視線を上げて天辺まで見上げると……。なにやらまあるく弧を描いた屋根の不思議な塔屋がすこーんと飛び出ています。1926年、松村次郎という建築家の作で、アール・デコやスパニッシュなど当時流行ったデザインスタイルが混在する、なかなかお洒落な西洋建築です。
さらにさらに、四条大橋を挟んだ西南角には日本で多くの西洋建築を手がけた、あのヴォーリズの設計による東華菜館(1926年築。当初はビアレストラン、今は北京料理店)が建っています。正面入口、羊の頭や魚貝の装飾がデコラティブで愉快。中に入ってお食事すると、意匠を凝らした部屋など見どころ満載ですので、機会があればぜひ。
以上は一例です。普段はさっと通り過ぎてしまうかもしれない街中、いままで気づかなかった“新鮮な京都”が、この本には詰まっています。
2016/04/27
著者プロフィール
井上章一
イノウエ・ショウイチ
1955(昭和30)年、京都府生れ。京都大学大学院修士課程修了。2018年4月現在、国際日本文化研究センター教授。『つくられた桂離宮神話』でサントリー学芸賞、『南蛮幻想―ユリシーズ伝説と安土城』で芸術選奨文部大臣賞を受賞。専門の建築史・意匠論のほか、美人論、関西文化論など、幅広いジャンルにわたって、ユニークな視点で日本文化について発言している。他の著書に『京都ぎらい』『学問をしばるもの』『美人論』『関西人の正体』などがある。