お殿様たちの出世―江戸幕府老中への道―
1,430円(税込)
発売日:2007/06/22
- 書籍
老中=幕政の最高中枢。その座を巡り、江戸城では熾烈な人事争いがあった!
幕政を握る人物たちは、いかにして選ばれるのか? 諸大名が羨望した、老中の権力と権威とは? その座へと至る大名の昇進コース、出身家や本人の能力などから、江戸城中枢の政治力学が見えてくる。初代老中・本多正信から最後の老中・稲葉正邦まで、歴代老中が総登場。幕府のトップ人事から見た画期的江戸政治通史。
主な参考文献
書誌情報
読み仮名 | オトノサマタチノシュッセエドバクフロウジュウヘノミチ |
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シリーズ名 | 新潮選書 |
雑誌から生まれた本 | 波から生まれた本 |
発行形態 | 書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 272ページ |
ISBN | 978-4-10-603585-2 |
C-CODE | 0321 |
ジャンル | 日本史 |
定価 | 1,430円 |
インタビュー/対談/エッセイ
波 2007年7月号より 出世を望んだ殿様たち 山本博文『お殿様たちの出世―江戸幕府老中への道―』
官僚制的老中制の成立が、側用人政治とされる五代綱吉の時代であったことや、各将軍による老中昇進コースの変化などは、その最も大きな成果であるが、個々の老中の評価についても興味深い発見があった。
たとえば、賄賂政治で有名な田沼意次である。意次は、低い身分から取り立てられ、老中になったとされる。しかし、意次は出世街道を驀進したわけではない。田沼が小姓として仕えた家重の時代には側衆までにしかなれず、家治の時代、五十四歳でようやく老中になった。その後、先任の老中が高齢のため次々と病死し、期せずして権力が集中する立場になった。意次の権力の背景には、将軍の信任があったことは確かだが、運のよさも大きかったのである。
備後福山藩主の阿部正弘は、二十五歳という当時としては最年少で老中に就任した。彼が老中に抜擢されたのは、寺社奉行の時、大奥女中の不祥事を見事にもみ消したことが大きかった。その後、老中首座にまでなったが、ペリー来航という国難に遭遇する。しかし阿部政権は、経験の浅い者ばかりで、とうてい独断で開国を決定することができる陣容ではなかった。
将軍も病弱な十三代家定である。正弘が、外交方針について諸大名の意見を徴したのは、そうした政治環境を考慮しないと理解できない。
正弘の場合は悪い時期に老中だったと言うほかはないが、それ以前の時代なら、殿様は老中になって鼻高々だった。ただし、老中になると、驚くほど出費が増え、藩財政は窮乏した。
鶴岡藩の中老は、国元の惨状を言上して藩主酒井忠寄を諫め、唐津藩水野家の家老は、老中になるため浜松へ転封を策する藩主忠邦を、自害して諫めようとした。
しかし、忠寄は不機嫌になって奥へ引っ込んでしまったし、忠邦は考えを改めようとはしなかった。殿様たちにとって、多くの殿様の上に立つ老中という役職は、それほど魅力的なものだったのである。
担当編集者のひとこと
お殿様たちの出世―江戸幕府老中への道―
「老中」=幕府政治の最高中枢。その人事には、江戸城内の政治エッセンスが詰め込まれていた! 歴史書はもちろん、時代歴史小説でもたびたび幕府政治の最高権力者として登場するのが「老中」です。しかし、これほど重要な役職でありながら実際に名前をよく知られている老中は、松平伊豆守、田沼意次、松平定信、水野忠邦など数名に過ぎません。
しかし、約260年間の江戸時代には、124名もの大名が老中に就任しているのです。もちろん、幕政トップの座がかかっていますから、その就任にはつねに競争があり、名を知られていない老中たち一人ひとりにも、当時の政治動向や将軍や幕閣同士の人間関係、家格、血脈が様々に働いているのです。そして、現代の我々も身につまされるような事情もあれば、まさに江戸時代ならではの背景もありますが、それはまさに幕府政治のエッセンスともいうべき独特の政治力学そのものなのです。
山本博文東京大学史料編纂所教授による本書は、江戸時代に老中に就任した「全124名」について、その人事的背景を考察し、老中という役職の権力、権威、またそこに至る出世コースなどを明らかにして行きます。例えば有名な田沼意次も、同時代の他の老中人事をあわせて分析することにより、その出世が単に異例とは言えないことや、自由に権勢をふるえた事情までが見えてきます。老中制度の変遷を捉え、その構造を明らかにしてゆく本書ですが、あわせて紹介される老中たちの悲喜こもごものドラマ、エピソードも読みどころです。
また、著者の工夫により、本書では初代老中の本多正信以下、各老中に就任順の通しナンバーを振っているのも特徴です。一見、小さな工夫ですが、これにより江戸政治の流れがぐっと掴みやすくなっています。巻末には、付録として「歴代老中就任期間一覧」もついていますので、読者の皆さんが独自に江戸のトップ人事から何かを発見することもあるかもしれません。事件や出来事ではなく、人事から江戸時代の流れを見る――画期的な江戸通史を是非お楽しみ下さい。
2016/04/27
著者プロフィール
山本博文
ヤマモト・ヒロフミ
(1957-2020)1957(昭和三十二)年、岡山県生まれ。東京大学文学部国史学科卒、同大学院修了。東京大学史料編纂所教授。専門は近世政治史。新しい江戸時代像を示した『江戸お留守居役の日記』で日本エッセイスト・クラブ賞受賞。『島津義弘の賭け』『「忠臣蔵」の決算書』など著書多数。