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地球システムの崩壊

松井孝典/著

1,210円(税込)

発売日:2007/08/24

  • 書籍

このままでは、人類に100年後はない! 宇宙からの視点で人類の未来を問う。

月面着陸という快挙、宇宙の辺境への探査……人類はかつてない高度な文明を築き上げた。しかし皮肉にも、物質的な豊かさは地球温暖化や人口爆発など、人類の存続を脅かす問題をもたらした。我々は生き延びるために何をすべきか。深刻な課題の本質を地球システムの中で捉え、宇宙史、地球史とともに解明する、知的刺激に満ちた文明論。

  • 受賞
    第61回 毎日出版文化賞 自然科学部門
目次
第一部 二一世紀の宇宙と文明を探る
現代とはいかなる時代か
地球システム
文明のパラドックス
俯瞰する視点
現生人類はなぜ人間圏をつくったか
文明の三段階発展論
共同幻想を抱く動物
我々はなぜ豊かになったのか
学の統合と、新たな学の創造とは
「チキュウ学」の試み
人間圏というシステムのユニットをどうとるか
宇宙とは何か
世界の始まり
宇宙の年齢
膨脹する宇宙
理論的背景
ビッグバンの瞬間
インフレーション仮説
宇宙はなぜ膨脹したのか
太陽系の現在
比較惑星学
水星:太陽系で平均密度がもっとも高い惑星
地球型惑星の集積過程
金星は地球の未来の姿
二酸化炭素の温室効果について
金星の地表
火星に水があった。生命は?
火星探査
小惑星が地球に衝突する日
太陽系の小天体
天外天からの贈り物
新種の隕石
太陽系の“夜明け”の探査
最小の地球型惑星、ベスタ
系外惑星系
地球はどんな惑星か
地球の誕生とは
隕石重爆撃期
水惑星の意味
雪球地球
地球の歴史
酸素を含む大気の不思議
地球の未来
第二部 辺境に普遍を探る
タイタン:もうひとつの地球
近代化とはどういうことか
普遍性への挑戦
アストロバイオロジー
地球史における革命的事件
惑星探査とタイの津波石
惑星の定義
「分かる」ことと「納得する」こと

あとがき

書誌情報

読み仮名 チキュウシステムノホウカイ
シリーズ名 新潮選書
雑誌から生まれた本 考える人から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-603588-3
C-CODE 0395
ジャンル 地球科学・エコロジー、建築
定価 1,210円

書評

波 2007年9月号より 「浮世」を見晴らす客観的な洞察  松井孝典『地球システムの崩壊』

長谷川眞理子

 松井孝典氏と初めてお会いしたのは、一九九〇年ごろではなかったかと思う。松井先生とは、なんとなくウマがあう。それは、時間的にも空間的にも、普通の人々よりも大きな範囲でものを見ているからではないだろうか。私は、つねに人類の進化史を念頭において人間を理解しようとしているので、時間的には「最近の二〇〇万年」というスケールで話をする。松井先生はもっと長く、「最近の二億年」の世界である。私は生物進化を考えているので、空間的には、つねに地球生態系を念頭に置いている。松井先生は、太陽系全体である。二〇〇万年と二億年、地球だけと太陽系全体では大違いだが、「最近」をせいぜい二週間ぐらいでとらえ、自分たちの廻りの世界を中心に据えている常識の感覚からすれば、両方とも常識からずれている。だから、通じるものがある。
 本書を読む人々は、自分が住んでいる町の「最近の二週間」を忘れて、億単位の時間や空間スケールで、この世界について、私たち人間について、考えてみて欲しい。そこから得られる洞察の世界に心ゆくまで浸って欲しい。
 私たち双方の研究していることは、決して、すぐにも産業に結びついたり、お金を産む可能性を示唆したりするものではない。「浮世離れ」していると思われるかもしれない。しかし、そういう「浮世離れ」した世界の研究をしているからこそ、「浮世」について見えてくるものがある。二次元の世界に留まっている限り、三次元の世界は認識できないように、「浮世」について客観的に洞察するためには、「浮世離れ」した次元に飛び越えなければならないのだろう。
 しかし、「浮世離れ」した世界でものを考える研究者が、その世界だけに留まっていたのでは、結局は「浮世」は見えてこない。「浮世離れ」した次元に居ながら、「浮世」を見晴らす努力をして初めて、「浮世」の洞察が得られる。松井先生の本書は、それを明らかに示してくれる。
 地球を飛び越えて太陽系全体の中で惑星を考えたとき、地球の特殊性と普遍性がわかる。生物学は、今のところ、地球の生物のことだけしか扱っていないので、この生物学が本当に普遍的な生物学なのかどうかはわからない。当然ながら、人間の知性のような知性が、宇宙に普遍的な知性なのかどうかもわからない。今後の発見次第で、この問題はおおいに変化するだろう。
 私にとって、普遍というものを考えるきっかけとなった「辺境」は、アフリカであった。一九八〇年代初頭にアフリカの奥地で二年半を過ごしたことは、それまでの世界観をまったく破壊する出来事であった。本書の松井先生は、地球以外の惑星の探索と、地球上でのいくつかの「辺境」の体験から、近代文明とは何か、普遍とは何かを探っておられる。「辺境」の経験を持たない人びとにも、この発想の転換を味わって欲しい。


(はせがわ・まりこ 総合研究大学院大学教授)

担当編集者のひとこと

地球システムの崩壊

このままでは、人類に100年後はない!
環境破壊や人口爆発など、人類の存続を脅かす深刻な課題を
地球システムのなかで捉え、宇宙からの視点で文明の未来を問う。 約40年前、世界で6億以上の人がテレビ中継に釘付けになりました。アポロ11号の月面着陸です。この人類史上もっとも壮大なプロジェクトは、月の風景ばかりでなく、私たち自身が住む惑星の姿を見る機会を与えてくれました。NASAの『フル・ムーン』という写真集には、満月ならぬ満地球の美しい姿が収められています。
 今では、惑星探査機が太陽系の果てまで飛んでいます。私たちの生活はどんどん便利になっています。でも、ちょっと考えてみてください。私たちはどうして、これほど豊かになることができたのでしょう。そして、これからもずっと豊かな生活を続けていくことができるのでしょうか。
 松井孝典先生の専攻は地球惑星学です。宇宙史137億年、地球史46億年、生命史38億年という大きなスケールで、現代文明について、生命について、私たち自身について、考えていきます。

2016/04/27

著者プロフィール

松井孝典

マツイ・タカフミ

1946年静岡県生まれ。1972年東京大学大学院修了。NASA客員研究員などを経て、2007年現在は東京大学大学院新領域創成科学研究科教授。理学博士。専攻は地球惑星物理学。最近はアストロバイオロジーに関する研究を行っている。著書に、『水惑星はなぜ生まれたか』『地球・宇宙・そして人間』『宇宙誌』『宇宙人としての生き方』『松井教授の東大駒場講義録』『コトの本質』など多数。

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