日本人の愛した色
1,320円(税込)
発売日:2008/01/25
- 書籍
利休鼠、深川鼠、藤鼠、鳩羽鼠……。あなたが日本人なら、その違いがわかりますか?
化学染料を使わずに天然の素材だけで糸や布を染めていた時代、日本人は色をどのように捉え、どんな意味を感じていたのだろうか? 紅花、紫根、藍、刈安などによる古法の染色を探求しながら、物語や歌に込められた四季への思いを見つめ、衣装や絵画、書跡や工芸に残る色を手掛かりに、現代よりもはるかに豊かな色彩世界を明らかにする。
書誌情報
読み仮名 | ニホンジンノアイシタイロ |
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シリーズ名 | 新潮選書 |
発行形態 | 書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 160ページ |
ISBN | 978-4-10-603597-5 |
C-CODE | 0395 |
ジャンル | デザイン |
定価 | 1,320円 |
書評
波 2008年2月号より 日本の色の語り部
日本人の愛した色。心惹かれる題名だ。色はあまねく地球上にある。しかし風土、文化により、感じ方や好みも変わる。四季のある穏やかな島国に生きる日本人は、とりわけ繊細な色彩感覚を培い、色を愛でてきたという。太古は、生や死の徴として。歴史を重ねる中では、ときに権力の道具になり、ときに豊かな感性を代弁もした。そして多くの和名が生まれでた。和の文化に目覚める入口で、和の色名特有のふくよかな口当たりに魅せられるひとは多い。
しかし、本書の冒頭で先生は憂う。
「代赭色、楝色、納戸色、麹塵色、波自色、苦色、橡色などと描写したところで、その色が読者の頭に浮かばない。いまもこの色彩は日本の万物のなかにあるのだが、色名が失われると、色そのものがなくなってしまうことにつながるような気がする」と。外来語、化学染料主流の現代、産業革命以前の植物染めが支える和の色名は絶滅危惧種なのだ。だから先生は、色の物語を広く伝える“日本の色の語り部”たらんとしている。色彩や染織の研究家は多いが、染織の産地や遺跡、美術館など、国内外の現場で得た豊富な経験と知識、源氏物語を始めとする古典文学の素養、古法にのっとった植物染めを追求し続けているゆえの実学、この三本柱が裏打ちする見識は比類ない。色にまつわる物語や歌の引用、時代時代の衣装、書画、工芸などからの検証をかみくだき、門外漢さえつい引き込まれる鮮やかな語り口のその奥で、眼と掌でつかんだ本質が凄みをきかせている。
登場する色は、赤、紫、青、緑、黄、金、黒、茶と、代表的な八つの色系統。日々何気なく接している色の、長い長い時の旅にしばし心を遊ばせよう。そして、ふと思う。題名を、日本人の“愛する”色、としなかったのは、和の色名の消滅を危ぶむ思いをひそませて、豊かな色の名を過去の遺物とせず、今に生きる色として蘇らせたいという願いを込めるためではなかったか。和の色名は、私たち日本人の宝物なのだから、と。
担当編集者のひとこと
日本人の愛した色
桜鼠、素鼠、銀鼠、利休鼠、鳩羽鼠、小豆鼠、源氏鼠……。あなたに違いがわかりますか? 化学染料以前の、伝統色の変遷を辿る「色の日本史」。 吉岡幸雄先生は、染織の世界の第一人者です。私も自然染色の工程を実際に見てみたいと思っていたところ、ちょうど、大分県の竹田市で染織の講習会があるというので、同行させて頂きました。
「荒城の月」の岡城址で名高い豊後竹田ですが、会場となった志土知(しとち)地区は昔「紫土知」と呼ばれていた地域。この辺りは七~八世紀には、紫色の染料となる紫根を朝廷に献上していたという記録も残り、いまも紫八幡社が祀られている「紫」ゆかりの地です。紫根の生産は化学染料の普及とともに下火になり、一時絶滅の危機にありましたが、地域の農家や保存会のメンバーの努力によって、栽培が復活しました。
会場の公民館には、市民だけでなく、海外から訪れた若者や研究者が集まり、紫根染めに挑戦しました。50度以上の熱めの湯を大き目のボウルに入れて紫根を揉むと、だんだんワイン色をした色素が染み出てきます。それに布を浸し、揉むようにして色を付けるのですが、その時間を一時間以上つづけた後、染液のなかで揉むだけでなく、椿灰の液にも同じ時間浸して、布を繰らなければなりません。昔の人々にとって、紫色の衣服がいかに貴重だったかを実感する体験となりました。
2016/04/27
著者プロフィール
吉岡幸雄
ヨシオカ・サチオ
1946年京都生まれ。染色家。早稲田大学第一文学部卒業後、美術図書出版の「紫紅社」を設立。1988年「染司よしおか」五代目当主を継ぎ、伝統的な植物染による日本の色をあらわす。東大寺、法隆寺、薬師寺、石清水八幡宮などの行事で用いられる造り花、衣装、道具を制作。著書に『日本の色を染める』『日本の色辞典』『色の歴史手帖』『京都の意匠I・II』『京都色彩紀行』『京都人の舌つづみ』『日本の色を歩く』など多数。